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91960年代に南関東の一地域に発生した大規模なウイルス肝炎地域流行の長期追跡成績若山葉子、川田智之日本医科大学衛生学公衆衛生学教室キーワード:C型肝炎ウイルス、地域流行、追跡調査、自然経過、血清疫学はじめに わが国においては地域特異的なウイルス肝炎の流行や肝癌多発地域が数多く存在し、これまで様々な取組みがなされてきた。その一つとして1960年代に大規模な流行を経験した本例が挙げられる。流行当初より開始された疫学調査、その後継続して実施された追跡調査により、流行の特徴、病因の特定、感染者の長期経過さらに地域住民の疫学像などを把握・解析し、肝炎流行既往地域としての予後像の一端を明らかにすることができた。その概要を報告する。1.流行の特徴・経過 本流行は1962年から1968年にかけて南関東の農村地域に発生し、当教室が把握した患者総数は678名(男398名・女280名)にのぼり、発生率は当時の住民人口の7.8%に達した。年月別発生状況は1964年をピークとした1962年から1964年の流行と、年ごとにピークを形成し全体として波状を呈する1965年から1968年の流行に大別された(図1)。当時、同地域では浅井戸からの地下水を飲用とし、下水施設はなく水質汚染は著しいと考えられ水系感染が疑われたが、患者は30歳代(29.1%)・40歳代(20.6%)に多く、20歳未満(7.7%)の若年者に少なく、とくに10歳未満は1例のみであった。若年者については不顕性感染の可能性を考慮し、小中学生を対象として肝機能検査を実施したが、異常値を示すものはほとんど認められなかった。一時爆発的な発生にとどまらず、流行期間が7年間に及んだこ図1 患者発生状況(1962~1968年)

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