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とも水系感染と断定しがたい点であった。臨床像では、いったん回復した後、再燃・重症化し死亡する例が多数みられ、さらに、遷延・慢性化例が多数存在するなどの特徴があげられたが、流行当時病因を特定するに至らず、地域名を冠して‘S肝炎’と命名された1)。 流行終息後も当教室では、患者の戸別訪問・自治体の協力のもと定期住民健診を実施し追跡調査を継続し、採取した血清が凍結保存されていたため、その後の病因の特定さらには患者の自然経過・肝炎流行地域としての地域予後の解明につなげていくことができた。 1970年代後半にはA型・B型肝炎ウイルス(HAV・HBV)抗原抗体の検索が可能となったが、本臨床像は輸血後非A非B型肝炎に類似しており病因は特定されずに経過した。1989年以降C型肝炎ウイルス(HCV)抗体の測定が実施され、追跡患者の多数にHCV抗体の保有が認められることとなり、本流行は主としてHCVに起因するものであったことが示唆された2)。2.既往者の長期追跡成績 年1回の定期住民健診あるいは月2回の家庭訪問採血により追跡できた既往者は461名であり、うち302名は20年以上の追跡が可能であった。AST:41 Karumen単位以上・ALT:36 Karumen単位以上を異常値とし、追跡期間中1項目二回以上・2項目一回以上異常値を示したものを肝機能異常としてその割合をみると、20年以上追跡者の約40%に20年以上肝機能異常持続が認められた(表1)。なお、本対象例はすべてインターフェロン(IFN)などの治療歴はない。a.HCV抗体・HBV関連抗原抗体保有状況 HCV抗体およびHBV関連抗原抗体の測定ができた306名のうち243名(79.4%)がHCV抗体陽性、194名(63.4%)がHBV関連抗原抗体陽性であり、HCV抗体が有意に高率を示した(p<0.001)。また、163名(53.3%)はHCV抗体およびHBV関連抗原抗体陽性でありHCV・HBVの重複感染が示唆された(表2)。HBV関連抗原抗体陽性者のうちHBs抗原Carrierを除いたもののHBs抗原検出時期は流行後半にあたる1965年以降であり、流行前半にあたる1962年~64年に発症したものでは追跡期間中である流行後半にHBV関連抗原抗体が陰性から陽性に転じた例があることなどから、HBVの感染時期は流行後半であり、本例はHCVの流行にその後HBVが加わったものである可能性が推測された2)3)。b.HCV感染者の自然経過 発症から約20年経過時点のHCVコア抗原量(RIA固相:IRMA法)を測定した187名のうち141名(75.4%)が 20 fmol/L以上の値を示し、持続感染が示唆された。男女・HBV関連抗原抗体の有無・発症時年齢・肝機能異常持続期間による比較では、男・HBV関連抗原抗体(-)・発症時年齢40歳以上で高い割合を示す傾向が見られ、20年以上肝機能異常持続では有意に高い割合を示した(p<0.001)(図2(A))。HCVコア抗原量では男・HBV 関連抗原抗体(+)・発症時年齢40歳以上・20年以上肝機能異常持続で高い値を示す傾向が見られたが有意差は認められなかった(図2(B))。 発症から約20年経過時点のコア抗原量により長期追跡者を3群(A群:≧ 2,000 fmol/L, B群:20 - 1,999 fmol/L, C群:< 20 fmol/L)にわけ、宿主要因(性別・発症時年齢)、肝病態(AST・ALT・ZTT・アルブミン・IV型コラーゲン・α‐フェトプロテイン〈AFP〉)およびHBV関連抗体について検討を加えた。HCVコア抗原 20 fmol/L以上を示し持続感染が確認されたA群・B群では抗原が陰性化したC群に比較して、性別・肝病態を示す各項目に有意差が認められた(p<0.05)。また、A群・B群間ではZTT・アルブミンに有意差10 1960年代に南関東の一地域に発生した大規模なウイルス肝炎地域流行の長期追跡成績

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