ブックタイトル出会う。| 山形大学 大学案内 2018

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出会う。| 山形大学 大学案内 2018

治療計画システムによる体内線量分布の違い。医学部P.105山形を国際的医療拠点へ。東北・北海道エリア初先進の重粒子線がん治療。根本建二教授|医学部附属病院長図1/重粒子線スキャニング照射の前立腺2方向からの照射。図2/X線IMRT照射による前立腺5方向からの照射。重粒子線ではターゲット(黄色)に対する線量の集中性が優れている。重粒子施設、治療装置の特徴。図3/施設完成予想パース。右に伸びる廊下で総合病院と接続される。図4/施設内の機器レイアウト。下方の円形な装置がシンクロトロン加速器。右側中央付近のドーム型の装置が小型回転ガントリ。図5/回転ガントリの大きさ比較。新型スキャニング電磁石の採用により、従来型に比較して約3分の2のサイズに小型化。図6/回転ガントリ照射室例。図では垂直方向90度からの照射位置。中央の患者に対し、上部のラッパ型部分が360度回転し任意の位置からの照射が可能。省エネ・省スペースでハイスペック。重粒子線がん治療の最進化形は総合病院でこそ、その威力を増す。今、“がん”の治療法の中でも最も有効とされているものの一つに「重粒子線がん治療」がある。放射線治療の一種で、重粒子(炭素イオン)を光速の7割程度まで加速し、病巣にピンポイントで照射することによってがん腫瘍を死滅させるというもの。痛みがなく、切開しなくてよいため、体力のない高齢者でも治療でき、治療期間も短いなどのメリットがある。また、一部の放射線抵抗性のがんにも高い治療効果を示すことも確認されている。ところが、その「重粒子線がん治療」を受けられる施設はまだ全国に5カ所しかなく、東北・北海道エリアはまったくの空白地帯となっていた。そのため、この治療を受けられる患者は、施設設置県付近に住む人や機会に恵まれた一部の人に限られていた。10年以上前から“がん”を研究・診療の柱としてきた本学医学部では、平成24年に「重粒子線がん治療施設設置準備室」を組織し、実現に向けてステップを進め、平成28年度に着工し、平成32年3月の治療開始に向けて建屋の建設および装置の準備が始まっている。日本の大学病院では、群馬大学に次いで2番目となるが、設備の性能面では先行5カ所を凌ぐハイスペックとなっている。省エネ、省スペース、イージーメンテナンス、廃棄物の軽減の4つをテーマに、重粒子装置の受注実績のある2社と共同研究で開発に取り組み成果を上げた。附属病院長で放射線腫瘍学講座の根本建二教授は、「山形モデル」の優位性をこう語る。「超伝導電磁石を採用した世界最小の超伝導回転ガントリの導入により、360°任意の方向から重粒子線の照射が可30能です。さらに、CUBE型建屋は総合病院と渡り廊下でつながるので、これまで治療が困難だった高齢者や既往症のある患者さんにも、安全かつスムーズに重粒子線治療を受けてもらうことができます」。確かに、重粒子線を360°任意の方向から照射できるというのは画期的だ。重粒子線は、従来の放射線に比べて体内で横方向にも広がらないため、周囲の臓器を傷つけずにがん腫瘍に集中させることができるが、これまでは真上、真横、45度の決まった方向からの照射に限られていた。それが、「山形モデル」では回転ガントリの採用で、患者に無理な姿勢を強いることなく、あらゆる方向から照射ができるようになる。また、患者の病気が“がん”だけとは限らないわけで、その点、すべての臓器の専門家が在籍する総合病院とつながっていれば、既往症を持つ患者でも安心して治療ができる。さらに、「山形モデル」には、照射法にも優れた特長がある。国内の重粒子線がん治療施設の多くがブロードビーム照射法であるのに対して、ここではスキャニング照射という方式を適用している。ブロードビーム照射に比べ、患部に合わせて線量分布を最適化できるので粒子線の特徴である良好な線量集中性をより高めることができる。ブロードビーム照射の場合、“がん”の深さや形に合わせて重粒子線のあたり方を調整するために、患者それぞれの照射方向毎にコリメータ(腫瘍を形どった遮へい材)用意する必要があるのだが、スキャニング照射法にはまったくその必要がない。「山形モデル」の完成は、がん患者にとってかつてない朗報となりそうだ。海外展開の可能性も視野に。最先端の重粒子線治療施設がある大学病院で学ぶというプライド。もちろん、重粒子線がん治療ですべての“がん”が治せるというほど単純な話ではない。ただ、これまで治療法がなく、緩和ケアを受けるしかなかった人や他の病気の都合でX線が受けられない人などの何割かの人は治せる可能性が広がったということ。そして、従来の放射線治療では2カ月かかるところを、1・2回で治療できるようになるということ。当然、臓器によっても治療効果は異なるが、目標は、ほとんどの“がん”を1回5~10分の照射で治すこと。そして、今は一部の“がん”(切除非適応の骨軟部腫瘍)にしか適用されていない公的医療保険をすべての“がん”への適用を目指す。治療には約300万円(一部位の“がん”に対する照射費用)かかり、保険なしでは患者の自己負担額が大きすぎるからだ。せっかく山形に重粒子線がん治療の施設ができても、治療費が高額過ぎては、必要な人に必要な治療が届かない。一日も早い保険適用を願うばかりだ。重粒子線がん治療施設は、平成31年竣工予定で、一年間の試験運転の後、本稼働・治療開始を目指している。今後、本学医学部で学ぶ学生たちは、がん治療の最前線を目の当たりにしながら、見学や実習などの機会にも恵まれることになる。それが、大学病院に重粒子線がん治療施設があるというメリットのひとつであり、学生にとって大きなアドバンテージとなる。さらに、山形モデルのコンパクトな重粒子線がん治療施設を国内外に売り込むことができれば、地元経済の活性化にもつながり、国策でもある「最先端医療技術の海外展開」にも直接リンクする。本格稼働ともなれば、国内外から多くの医療関係が視察や研修に訪れることだろう。今後も大学を挙げて重粒子線がん治療の技術向上と、医療・技術両面の人材育成や共同研究にも積極的に取り組んでいくことになる。医療人を目指す第一歩をここから、それはきっといい選択になる。