ブックタイトル出会う。| 山形大学 大学案内 2018

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出会う。| 山形大学 大学案内 2018

はやぶさと同じ「環境駆動型」でクジラの体表面を移動するローバー。世界初となる撮影に貢献できるか。かつてはSFやアニメの中だけの存在だったロボットが、急速に身近な存在になりつつある現代。妻木勇一教授が専門とするテレロボティクスは、ロボットを遠隔操作するための学問領域であり、ロボット工学のみならず、システム工学やヒューマンインターフェースなど様々な技術が要求される。これまでに、宇宙ロボットの遠隔操作システムの開発、はやぶさ2搭載の小惑星探査ローバーの移動機構の開発、ウェアラブルな人型コミュニケーションロボットの開発などを手がけてきた。その中でも小惑星探査ローバーの移動機構は、2014年12月に宇宙航空研究開発機構(JAXA)が打ち上げた小惑星探査機「はやぶさ2」に搭載され話題となった。開発した機構は、今まさに宇宙空間にあって、目標の小惑星に到達するのは2018年半ばの予定である。搭載された小惑星探査ローバーの移動機構は、熱膨張率の異なる2枚の金属板を貼り合わせたバイメタルを利用することで、小惑星の寒暖差でたわみ、弾けて跳びはねる。これがモーターやバッテリーなどを搭載しない「環境駆動型」だ。これと同じコンセプトで妻木教授は今、クジラ用ローバーの開発に取り組んでいる。小笠原諸島でマッコウクジラの調査をしている海洋動物研究者から、マッコウクジラの採餌行動を撮影する方法の相談を受けたのだ。調査フィールドは宇宙から一気に深海へ。それぞれに目的は違っても、これまで培ってきたシステム技術、機械設計技術、ロボット技術によるサイエンスへの貢献という点では同じであり、夢とロマンにあふれている。マッコウクジラは、その胃の内容物などから深海でダイオウイカといった頭足類を捕食しながら生活していると考えられているのだが、いまだに実際の採餌行動が撮影されたことはない。誰も見たことのないシーンを映像に収めることができれば、生物学上の大きな収穫となる。今まで実践されてきたマッコウクジラの生態観察手法は、息継ぎのために浮上してきたマッコウクジラに船で後ろから近づき、長いポールで吸盤付きのカメラロガーをクジラの背に叩きつけるようにして取り付けるというもの。しかしこの方法では、カメラの装着位置が背面部分に限られてしまい、ライトの光のほとんど届かない深海の暗闇で、クジラの口元まで映し出すことは不可能だった。そこで、妻木研究室ではマッコウクジラの背面部分に取り付けられたカメラロガーを、ロボット機構を用いて口元まで移動させる「クジラ用ローバー」を提案し、試作機の設計開発を行っている。クジラの背中から口方向に移動させるためのエネルギー源は、クジラが泳ぐ際に発生する水流を利用する「環境駆動型」。海底1,000mから2,000mまで潜るマッコウクジラに、モーターやバッテリーを搭載して装着しようとすると水圧から守るための重装備で重くなり、クジラに異物感を与えてしまう。モーターやバッテリー等を搭載しないことで軽量化も図れ、ロボット工学に詳しくない動物研究者でも容易にメンテナンスや修理を行うことができる設計だ。また、マッコウクジラの体表面を移動させるため、負圧吸盤と歩行型機構を用いて、体表面を吸着しながら歩行推進する方式を採用している。装着試験は1?2年後。試作と改良を重ねつつ、水中ドローンの開発にも着手。5カ年計画のプロジェクトは今年で2年目。3~4年目でのマッコウクジラへの装着を目指して、研究や実験が進められている。移動機構部の基本設計は、水流を受けると2つのプロペラが回転し、歯車列を用いて歩行のための動力を伝達する仕組み。また、内側フレーム部分に4つ、左右外側フレーム部分にそれぞれ2つずつ、合計8つの吸着機構を搭載し、内側フレーム部分と外側フレーム部分を交互に接地させながら移動するというもの。昨年開発した試作機では、試作機を吸着させたプラスチック天板のテーブルをプールに沈め、水流に逆らって上流に移動できることを確認した。実験結果に基づき、さらなる改良を加えた試作機を開発中である。このクジラ用ローバーがクジラに吸着している時間は1~2時間。体表面から剥がれると海面に浮き上がって来て、ビーコンを発信する。動物学者がこのビーコンを頼りに回収する仕組みになっている。もしマッコウクジラの採餌シーンが撮影できていれば、内部メモリに残されているはずで、それはまさにお宝映像となる。しかし、マッコウクジラにちゃんと取り付けることができるのか、できたとしても口元近くまで進んでくれるのかなど、乗り越えなければならない課題は多い。成功率を上げるため、カメラロガー取り付け用水中ドローンの開発など次なる一手にも同時に取り組んでいる。マッコウクジラが深海でダイオウイカを捕食している映像を得るために、最新のロボット技術が投入されているのだ。工学は豊かな社会を支える一方、人類が未だ知らない知識を得るために、サイエンスの発展にも大きく貢献している。新しい発見を支える様々な機器はエンジニアリングの貢献なしには成立しないのだ。エンジニアという専門家を目指して大学でしっかり基礎を学び、いろいろな課題に挑戦し、未来を切り拓く一人になってみてはどうだろう。工学部P.114環境駆動型クジラ用ローバーとマッコウクジラ。上/試作段階の環境駆動型クジラ用ローバー。クジラが泳ぐ際に発生する水流を受けて2つのプロペラが回転し、歯車列を用いて歩行のための動力を伝達する仕組み。内側と外側、合計8つの吸着機構を交互に接地させることによってローバーを移動させる。下/息継ぎのために海面に浮上してきたマッコウクジラ。この瞬間を狙って船で近づき、クジラ用ローバーを背中に取り付けることになる。遥か宇宙から深海までロボットが行く先々でサイエンスに貢献する。妻木勇一教授|テレロボティクスYamagata University 43