ブックタイトル出会う。| 山形大学 大学案内 2018

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出会う。| 山形大学 大学案内 2018

工学技術から開発された米粉10 0%パンとエコ容器の数々。工学部P.114工学部、なのにパンづくり?異分野だからこそ見出せた可能性。上/プラスチック成形技術を応用して生まれた米粉100%パン。米沢市のパン屋で販売されている。小麦粉のパンよりも、均一な気泡が特徴。下/プラスチックとデンプンを複合して作られた、新素材のエコ容器。プラスチックのような成形加工のしやすさと、可燃ゴミとして捨てられる便利さ、しかも潰しやすくゴミも減量化。プラスチックとは違ったツルツルしすぎない感触が餅っぽいと、鏡餅のパッケージにも採用されている。右下は、一昨年の「ミラノ国際博覧会」の日本館で使用された皿。西岡昭博教授|構造・機能材料、食品科学、複合材料・物性プラスチックの成形技術を応用し、米粉100%の製パンに初めて成功。グルテンフリーの食品開発に弾み。「米でパンを作りたい」米どころ米沢市にある工学部に、米農家からこんな相談が寄せられたことが始まりだった。食品と工学は一見して異分野ということで一蹴されてもおかしくない相談ではあったが、その課題は、当時助手としてプラスチック材料の研究にあたっていた西岡昭博教授らに預けられた。溶かしたプラスチックにガスを入れて膨らませ、中空のプラスチック容器を作る研究を行っていたことから、「膨らませる」という点でパンづくりに通じるものがあるのではないかという理由だった。小麦も米も9割方は同じデンプン。小麦粉はこねるとグルテンができ、コシが出て焼くとふっくらと膨らむ。このグルテンこそがパンを膨らませる成分なのだが、米粉はいくらこねてもグルテンはできない。そのため、米粉でパンはできないというのが世界中の常識だった。しかし、この常識は必ずしもプラスチック研究者にとって常識ではなかった。西岡昭博教授らの研究グループは2001年にプラスチック成形加工の知見を応用することで、米粉100%パンの製パンを成功させた。当時は米粉食品に対する関心が今ほど高くなかったこともあり、米粉100%パン作りの成功そのものよりも「なぜ、工学部でパン作り?」という点で話題になった。では、グルテンのない米粉をどのようにして膨らませることに成功したのか。発泡スチロールなどに代表されるプラスチック発泡成形品は、材料を加熱し、ドロドロに溶かし、同時にガスを入れることで気泡を含んだふっくらとした製品が出来上がる。この成形の過程は、まさに製パンの工程と同じではないかと考えたのだ。プラスチック成形ではドロドロに溶かした時の材料の粘り(粘度)が、気44泡の形成に影響する。粘りの調整こそが綺麗な気泡を作る上で重要であることを、研究の過程で知っていたのだ。小麦粉や米粉はグルテンの有無に関係なく、それぞれにパンを作るのに適した生地の粘り(粘度)があるのではないかと考えた。米粉100%による製パンに重要な点は、米粉生地の粘り(粘度)を最も膨らみやすいようにコントロールすることと結論づけ、グルテンが含まれていない米粉に粘りを出させる方法を試行錯誤。たどり着いたのは、特殊な粉砕法だった。普通、米や蕎麦などの穀物を粉砕する場合、粉砕時の熱の発生は大敵。いかに熱を発生させずに粉砕できるかが重要で、なるべく摩擦熱が起きないようにゆっくり臼を引いたり、水で冷やしながら粉砕したりする手法がとられていた。異分野の研究者たちの常識に反し、米粒を加熱しながら粉砕するという真逆の方法で、水を良く吸い、加水により普通の米粉よりも非常に粘る米粉(以後、高粘度米粉)を瞬時に製造できることを見出したのだ。この手法で得られた高粘度米粉を普通の米粉に少量添加することで、最も膨らみやすい生地粘度にコントロールできるようになり、その結果、米粉100%パンが完成した。非常時の備蓄食からスイーツまで広がる米粉食品のバリエーション。更にはデンプン主原料の新素材まで。最近は、米粉食品への期待や関心が非常に高まってきている。グルテンアレルギーがあり、パンが好きでも食べられないという人たちにとって、米粉100%のパンは救世主。また、高粘度米粉は水を加えるだけで、構造的には炊いたご飯と同じ状態になるため、お粥としてそのまま食べられるメリットもある。震災時などに非常食を必要とする赤ちゃんや高齢者のための離乳食・介護食として、有力な備蓄食になる。炊かずに食べられる非常食としてはアルファ米が知られているが、アルファ米は一度炊いた米を急速に乾燥させる工程が必要なため価格が高い。その点、高粘度米粉は、米粒に熱を加え粉砕するだけ、数秒で炊いた状態にできる。さらに、グルテンアレルギーの人のためのグルテンフリーの非常食クッキーや米粉100%のシュークリームなど、米粉食品のバリエーションも急速に広がっている。それまでは食品とは無縁でほとんど興味もなかった西岡教授だが、米粉パンに関わって以来、工学から見た食品技術への関心が高まったという。とりわけ、デンプンの可能性に着目し、農学部の教科書で勉強するほどの熱の入れよう。その研究成果の一つが、企業との共同研究によるデンプン6割とプラスチック4割を組み合わせた新素材。プラスチックのように成形加工しやすく、それでいて可燃ゴミなので捨てやすく、潰しやすいためゴミの減量化にもつながる、人にも環境にもやさしい素材。すでに、お菓子や鏡餅のパッケージに採用されており、一昨年の「ミラノ国際博覧会」では、日本館で提供した試食料理の皿にも採用された。数々の実績が評価され、山形県科学技術奨励賞や昨年はプラスチック成形加工学会の「技術進歩賞」を受賞している。こうした西岡教授の多岐にわたる柔軟な研究姿勢は、当然学外でも知られており、「ぜひ、西岡先生の研究室で学びたい」という理由で本学工学部を志望する高校生も少なくない。西岡教授の研究室に所属する学生が40名超という現状からも人気のほどが窺える。そして、卒業生の就職先も自動車メーカーから食品メーカーまで、教授の研究分野そのままに幅広い。自主性が重んじられる大学での学び、高い目標を掲げて挑戦する学生に西岡研究室の扉は開かれている。