物理化学Ⅰ(物質)
 Physical Chemistry I
 担当教員:宍戸 昌広(SHISHIDO Masahiro)
 担当教員の所属:大学院理工学研究科(工学系)物質化学工学分野
 開講学年:2年  開講学期:前期  単位数:2単位  開講形態:講義
 開講対象:物質化学工学科  科目区分:専門科目・選択必修 
【授業の目的】
自動車のエンジンひとつとってみても,それは燃焼によって生じる熱が力学的な仕事を生み出す過程であり,熱力学の知識なしには設計できない。また人体を始めあらゆる生体は食物を摂取し代謝サイクルを回すことで生存に必要なエネルギーを作り出しているから,生体自体が化学反応から熱的・力学的エネルギーを作り出す装置であるともいえる。
このように,熱・仕事・化学反応はエネルギーが姿を変えて移動する過程として統一的に捉えることができる。本授業の主題である熱力学はそうした理解を提供する分野であり,さまざまな自然現象や工学的現象を理解し利用するための必須のツールである。これを身につけることで,ある化学反応がどちらの方向にどの程度進むのか,エンジンや発電機から最大でどれだけのエネルギーを取り出せるのか,といったことがらに答えが出せるようになる。本授業では熱力学の基本概念の理解と基礎理論の修得,例題・課題を通じてそれらの初歩的な応用力を身に付けることを目的とする。

【授業の到達目標】
(a) 熱力学量の概念説明できること。
(b) 熱力学の第一法則と第二法則を説明できること。
(c) 熱力学量変化についての初歩的な計算ができるようになること。
(d) 相平衡、化学平衡に関係する初歩的計算ができるようになること。

【授業概要(キーワード)】
熱力学第一法則,熱,仕事,内部エネルギー,エンタルピー,熱力学第二法則,エントロピー,ギブズエネルギー,相平衡,相図,化学平衡,平衡定数

【科目の位置付け】
この講義は,物質の性質の理解やその応用に関する熱力学の基礎的知識を身に付けるためのものである。

【授業計画】
・授業の方法
基本的に板書による講義を行う。熱力学の概念と基本法則の説明,簡単な例題を解くことを行う。また,理解を深めるために毎回課題を課す。
・日程
以下の日程で,ほぼ教科書に沿って講義する。毎回課題を課し,翌週に簡単な解説を行う。
第1回:はじめに(物理化学の基本概念)
第2回:熱力学第一法則(エネルギーの保存)
第3回:熱力学第一法則(内部エネルギーとエンタルピー)
第4回:熱力学第一法則の応用(物理変化)
第5回:熱力学第一法則の応用(化学変化)
第6回:熱力学第二法則(エントロピー),熱力学第三法則
第7回:中間試験およびその解説
第8回:熱力学第二法則の応用(ギブズエネルギー)
第9回:ギブズエネルギーの計算
第9回:純物質の相平衡(相転移)
第10回:純物質の相平衡(相図)
第11回:溶液の化学
第12回:混合物の相平衡
第13回:化学平衡の原理
第14回:平衡組成の計算
第15回:期末試験とまとめ

【学習の方法】
・受講のあり方
テキストを中心にして,内容を詳細に講義する。基本的な内容は教科書に記載されているものの,教科書だけではわかりにくい部分を説明するので内容をノートに筆記して理解に努めること。「自由エネルギー」や「エントロピー」など抽象的な概念が多数出てくるため,その理解が容易でない。1回欠席すると,以降の講義内容を理解することが困難になる。そのため,できる限り欠席しないように。
・授業時間外学習へのアドバイス
次の週にはそれまでの知識を前提にして新たな概念が導入される。宿題はその日の講義内容を自分の頭に定着させ翌週への備えとするものなので,怠らずに取り組むこと。さらに週に1時間程度は図書館等で復習の時間を確保し,テキストのほか下記に挙げた参考書の該当箇所を通読してほしい。講義とは違った角度から説明されているので自分がイメージしやすい説明を探してみると良い。それらを自分なりにノートに絵や数式で表してみることも,理解を助ける極めて有効な方法である。
また,高校の物理と化学の教科書・参考書は捨てずに取っておき,復習に活用されたい。

【成績の評価】
・基準
上に記したキーワードの内容を理解して,説明でき,さらにそれに関しての計算問題を自力で解くことが出来ることを合格の基準とする。
・方法
課題はそれをこなすことによって知識の定着を目的とするものであり,点数化はしない。また,中間試験は第1回から第6回までの講義内容,期末試験は第8回から第14回までの講義内容をそれぞれ試験範囲とする。中間試験,期末試験を合計して100点を満点とし,60点以上を合格とする。なお,中間試験を受けなかった者は期末試験を受けることができない。

【テキスト・参考書】
テキスト(講義で使用するので必ず購入のこと)
P. Atkins, J. de Paula著,千原秀昭・稲葉章 訳「アトキンス物理化学要論 第5版」,東京化学同人 (2012)

参考書(理解を助ける書籍として薦める)
P.W.ATKINS著,千原秀昭・中村恒男訳:「アトキンス物理化学(上・下)第8版」,東京化学同人(2009)
W.J.Moore著,藤代亮一訳:「ムーア物理化学 (上・下) 第4版」,東京化学同人(1974)
小宮山宏 著:「入門・熱力学 実例で理解する」,培風館(1998)
塩井章久 著:「理工系基礎レクチャー物理化学 1 化学熱力学編 (1)」化学同人 (2007)
P.W.Atkins, J.de Paula 著,稲葉章,中川敦史 訳:「アトキンス 生命科学のための物理化学」,東京化学同人(2008)
柴田茂雄 著:「物理化学の基礎」,共立出版 (1999)
田中 潔,荒井貞夫 著:「フレンドリー物理化学」,三共出版 (2004)
原公彦,藤村陽,米谷紀嗣 著:「ベーシック物理化学」,化学同人 (2008)

【その他】
・学生へのメッセージ
地球のエネルギー問題を解決するにはどうしたらよいのか~エネルギーは創成も消失もないのである。とにかく抽象的で理解しづらい熱力学であるが,これが理解できれば,自然現象のほとんどが理解できる。これは必ず君たちの役に立つ能力になるはず。頑張ろう。
この授業は,教科書を独習するだけで理解することは困難である。したがって,授業への積極的参加が重要である。また,高校物理における力学的エネルギー保存則や物理量の単位,高校化学における気体の状態方程式,熱化学方程式を理解しておくことが望ましい。
・オフィス・アワー
金曜日:16:00~17:00,工学部3号館2107号室
これ以外の時間でも空いていれば随時対応する。

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