移動現象Ⅲ
 Transport Phenomena III
 担当教員:宍戸 昌広(SHISHIDO Masahiro)
 担当教員の所属:大学院理工学研究科(工学系)物質化学工学分野
 開講学年:3年  開講学期:前期  単位数:2単位  開講形態:講義
 開講対象:物質化学工学科  科目区分:専門科目・選択必修 
【授業の目的】
水に垂らしたインクがジワジワと拡がる,洗濯物が乾く,玉コンニャクに正油出汁が染み込んでいく,汚染物質が大気中や海洋中に拡がる,反応装置の中で起こる反応物質同士の分子レベルでの出会いの場に分子が移動していく。これらは全て「物質移動」と呼ばれる現象です。この現象は,日常生活の中から,工業装置の内部など,広く観察される現象です。この授業では,物質が移動していく現象について基本的な原理と応用的な手法を学びます。物質移動には,濃度差があれば起こる「拡散」と流れに乗って素早く運ばれる「対流」があります。授業では,物質移動の仕組みを解説し,移動速度を定量的に取り扱う数学的手法を身に付けることを目的とします。

【授業の到達目標】
(1)拡散現象,対流現象の基本概念を述べることが出来る,(2)想定した物質移動を含む物理現象を微分方程式で記述できる,(3)微分方程式を解くことで,濃度の空間的分布や時間的変化を予測できる,(4)物質移動,熱移動,化学反応などが直列で起こる場合の複合現象に対する律速過程を特定でき,それに基づいた数学的記述ができる,(5) 熱と物質の同時移動など化学プロセス内に多くある複合移動現象の解析が可能になる。

【授業概要(キーワード)】
Fickの法則,濃度勾配,物質移動流束,境膜,拡散係数,一方拡散,等モル相互拡散,物質移動係数,熱と物質の同時移動現象,物質移動と反応の同時現象

【科目の位置付け】
この科目はいわゆる「移動現象論」の一つの分野であり,物質が移動する現象を,数学モデルを駆使して解析する具体的な手法を,その基礎知識とともに身に付けるものである。なお,本授業を受講する前に,移動現象 I および移動現象 II を受講しておくことが望ましい(むしろ,必須である)。

【授業計画】
・授業の方法
板書による講義を進め,講義の最後に演習問題を課すこともある。
・日程
以下の各項目を順次講義するが,進行の度合いによっては多少の内容変更を行う。
1)イントロダクション ー物質移動とは何か? Fick の法則ー
2)拡散と対流現象の定性的な理解
3)拡散と対流現象の定量的な記述方法と一方拡散と等モル相互拡散の取り扱い
4)一次元定常拡散方程式の導出と解法ならびに物質移動速度式の導出
5)直交座標系,円筒座標系,球座標系における拡散方程式の解法
6)一次元非定常拡散方程式の導出と解法ならびに物質移動速度式の導出
7)一方拡散と等モル相互拡散の物質移動速度式の応用
8)異相界面の存在する場合の物質移動ーガス吸収と二重境膜説
9)層流場での物質移動現象ー流下液膜中へのガス吸収
10)物質移動係数の定義とそれを用いた物質移動現象の解析事例
11)装置内の物質移動現象のモデル化ー境膜モデル
12)境膜モデルによる物質移動現象の解析事例
13)熱と物質の同時移動現象ー蒸発,湿球温度
14)反応と物質移動の同時現象
15)試験とまとめ

【学習の方法】
・受講のあり方
板書する講義内容をノートに筆記して内容の理解に努める。
・授業時間外学習へのアドバイス
講義内容に関連する書籍を紹介するので,参考書を参照しつつ講義内容の理解に努める。
また,授業中に解説した例題などはもう一度自分で解いてみること。さらに宿題として指定された問題は必ず自力で解いておくこと。知識の積み上げとなる科目なので,前回の内容を理解しておかないと次の内容が理解できないこともあり得る。十分復習し,不明な点は質問すること。

【成績の評価】
・基準
試験では,
1.物質移動現象を数学モデルで記述できること
2.上で作った数式を解き,物質の空間的,時間的分布をきちんと表現できること
を合格の基準とする。
・方法
100点満点の期末試験で60点以上を合格とする。

【テキスト・参考書】
テキストは使わない。参考書は以下の通り。
R. B. Bird, W. E. Stewart and E. N. Lightfoot, "Transport Phenomena", 2nd Edition, John Wily & Sons, (2002)
小宮山宏,「速度論」朝倉書店(1990)
A. F. Mills, "Mass Transfer", Prentice Hall(2001)
E. L. Cussler, "Diffusion - Mass transfer in fluid system-", 3rd Edition, Cambridge University Press. (2009)

【その他】
・学生へのメッセージ
大学は自分で勉強するところです。自分が苦労したことしか身に付きません。講義には技術者として必要な知識を選んであります。それが難しいというなら,理解する努力をするように。自分で選んだ進路ですから。卒業後の長い人生のためのトレーニングです。
・オフィス・アワー
教員が在室していて,特に急ぎの用事がない限り対応します。

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