無機材料化学
 Inorganic Materials Chemistry
 担当教員:吉田 司 (YOSHIDA Tsukasa)
 担当教員の所属:理工学研究科(工学系)物質化学工学分野
 開講学年:3年  開講学期:後期  単位数:2単位  開講形態:講義
 開講対象:高分子・有機材料工学科  科目区分:専門科目・選択必修(合成化学、光・電子材料コース) 
【授業の目的】
この授業では、典型的且つトラディショナルな「無機材料」に限らず、有機物と複合化したハイブリッド材料や金属錯体、さらには機能性有機分子までを含めた材料の創出、評価、応用について学ぶことを目的とします。その学術基盤となり、特に不均一場や界面での電荷の授受による反応を取り扱う「電気化学」の内容を講義します。実用技術との関連性を明らかにし、次世代技術を展望する力を身につけるために、今後の人類の存亡に関わる最重要課題としての再生可能エネルギーの利用拡大に資する技術をテーマとし、太陽光発電によるエネルギー変換、蓄電技術、電力の化学燃料への変換を例として学び、学術的理論に基づく合成手法や分析解析手法が実用技術開発にどの様に活かされるのかを理解することで、基礎から応用への橋渡しをすることもこの授業の目的です。

【授業の到達目標】
機能性材料の創出、評価、応用に関わる電気化学的現象について、その論理を正しく理解し、測定解析法を習得し、いつでもそれを研究開発に利用できる能力を身につけることを目標とする。具体的には、以下のことが出来るようになることが目標である。
(1)平衡電位とは何か、電極/電解液界面の構造をイメージし、速度論的平衡状態にある系を熱力学との関係において正しく記述できるようになる。
(2)過電圧と電荷移動速度の関係を理解し、電極触媒の役割、電極活性の概念を正しく説明できるようになる。
(3)物質輸送による反応の律速を正しくイメージし、電荷移動律速との関係を分離分析できるようになる。
(4)種々の電気化学分析法の論理を正しく理解し、測定解析ができるようになる。
(5)材料合成やデバイス研究において、電極/電解液界面の諸現象と律速がどの様にシステムの高性能化と関係するのかを正しく理解し、研究開発において基礎的学問がどの様に活かされていて、その習得が必須であるのかを知り、知識を応用することができるようになる。
(6)先端的な無機材料の工業化学的応用について知識を深め、今後の社会の持続的発展、安全安心社会の構築に必要となる技術開発を展望できるようになる。

【授業概要(キーワード)】
無機材料、ハイブリッド材料、有機材料、電気化学、反応動力学、エネルギー変換

【科目の位置付け】
この科目は、高分子・有機材料工学科ディプロマポリシーの3「専門分野の知識と技能」について、特に電気化学的手法を基礎とした無機、ハイブリッド、有機機能材料の創出とデバイス応用に取組む力を養うための、学術的基礎と先端事例に関する知識、基礎と応用の密接な関連を身につけることを目標とします。また、カリキュラムポリシーの1.(7)と2.(4)に対応し、特これからの安全安心社会構築の基盤となる再生可能エネルギーの利用拡大に必要とされる産業技術を構想できる様になるための、エネルギー変換貯蔵技術に関わる知識の獲得を目指します。

【授業計画】
・授業の方法
講義は担当教員がオリジナルに作成したパワーポイントを使用して、下記の計画に沿って進めるが、特に理論の数学的取り扱いなどが系統的に丁寧に説明されているので、無機化学、物理化学、電気化学に関する参考書を別途購入して学習にあたることを推奨する。特に重要で、メモ等が難しい内容については、別途プリントを配布する。講義内容の理解を確認するための小テストを時々行い、授業全般を振り返る期末テストを行う。
・日程
第1回 ガイダンス、無機材料化学で何を学ぶか
第2回 機能性材料とデバイス、暮らしを支え、未来を拓く工業化学
第3回 水の電気分解、指示電解質、電気二重層
第4回 平衡電位と電池の起電力
第5回 過電圧と電荷移動速度の関係
第6回 電極の活性と電極触媒
第7回 物質輸送律速反応・クロノアンペロメトリー
第8回 回転ディスク電極を用いた電気化学分析
第9回 電気化学測定バーチャル体験と解析演習
第10回 化学析出、電解メッキを利用した薄膜合成
第11回 有機太陽電池と光エネルギー変換
第12回 様々な実用電池
第13回 レドックスフロー電池
第14回 ソーラーフューエルと再生可能エネルギーシステム
第15回 期末試験と解説、授業のまとめ

【学習の方法】
・受講のあり方
パワーポイントで示される講義内容は、丸写しではなく、重要と感じたことをノートに記入したり、口頭で説明されたことで「なるほど」と思ったことをメモする様にすると自分にとって有用になります。式の導出などは参考書類に正確かつ丁寧に記載されていますから、スクリーンを丸写しすることは時間の無駄です。色々な用語の説明も、参考書やWeb等ですぐに調べることが出来ます。むしろ、「自分にはそう言ってもらえると分かった様に感じた」ということをメモするのが有効です。同じ事柄であっても、人によって捉え方が若干違うのが普通ですから、「自分の理解」の助けになる記録を残すのがノートの良い使い方になります。
・授業時間外学習へのアドバイス
授業の進行に応じて、諸概念を適切に理解出来ているかどうかを問う小テストを時折実施するので、自分自身の理解度のチェックに活用してください。理解が出来ていないと感じた場合は、参考書類の当該箇所を読んだり、授業のメモを再確認するなどして復習してください。同じ内容であっても、教科書によって説明の仕方が異なる場合が多いですが、別の言葉で言い変えられると自分には良く分かった、というのはよくあることです。それでも良く分からない場合などは、オフィスアワーを活用したり、個別にアポイントをとったりして、積極的に教員に質問、相談してください。また、普段から先端的技術に関するニュースなどに関心を持ち、自分自身が将来やってみたいことを常に考える習慣を身につけることが、基礎と応用(実用技術)との関係を認識し、学問基礎の習得無くしてそれに貢献は出来ないということを納得し、自身を改めて基礎の学習へと向かわせるために重要です。

【成績の評価】
・基準
授業の前半では上記到達目標の(1)-(4)に関わる電気化学の基礎的理論、合成手法や評価計測法について学び、後半では(5)(6)に関して、実用材料やデバイスに関する知識を深めると共に、前半で学んだ基礎がどの様に活かされるのかを学習します。その進行に応じて、不定期に学習状況をチェックするための小テストを行います。また、最終回には全体を振り返る期末テストを実施して、目標がどの程度達成されたかと評価します。
・方法
小テスト(学習への取組み状況)40点、期末テスト60点の計100点で、60点以上を合格とします。

【テキスト・参考書】
参考書
アトキンス物理化学(下)P.W. Atkins著、千原秀昭・中村亘男訳 東京化学同人
電気化学 渡辺 正、金村聖志、益田秀樹、渡辺正義著 丸善
電子移動の化学 渡辺 正、中林誠一郎著 朝倉書店

【その他】
・学生へのメッセージ
「無機化学」を履修し、材料を構成する元素の構造と基本的性質、反応性、酸化還元電位等の概念を理解していることが望ましいです。
「無機材料化学」といっても、その範囲は広大で、材料を応用する分野も多岐に渡ります。さらに無機材料に限定することはあまり意味が無く、有機とのハイブリッド材料や有機材料も同様に扱われるべきです。実際にも、無機材料の合成に有機分子を使っていたり、有機デバイスの構成に無機化合物が必須の役割をしていたりするのです。ほぼ全ての産業技術では、固体材料が使われており、固液界面や固気界面での現象を物質の生産やデバイス創出や計測に利用しています。そして、ほぼ全ての化学反応は酸化還元反応です。無機化学で学習したことを基礎としながら、この講義ではそうした界面現象を取り扱う学問基礎となる電気化学を学習し、さらにこれを応用した技術分野の知識を得つつ、基礎的概念や手法が実用材料の創出や利用にどの様に活かされているのか、基礎と応用の結びつけをしたいと思います。電気化学というと、電気を使って何かを作ったり、化学反応から電気を生じたりすることだけを扱う様に思うかも知れませんが、電線を伝って電気を流す様なことをしていなくても、界面現象のほとんどは電気化学の概念で説明されます。これまでの知識の習得を主眼とした初歩的な学習から一歩踏み込んで、実用技術の研究開発への橋渡しをすることがこの講義の目標です。
諸君の多くは、工学を通じた新しい価値の創造によって人類の幸福に貢献することを目標として、工学部で学んでいると思います。将来価値の受け取り手から送り手へと成長するのです。「自分に何が出来るだろうか?」「何が求められるテクノロジーだろうか?」「何をやってみたいか?」を思いめぐらせるためにも、世の中で起こっていること、不幸を生む諸問題や幸せに貢献し得る新しい研究開発課題に対して、普段から強い関心を持って欲しいと思います。この講義がその一助となることを目指して授業に取り組みたいと思っています。
・オフィス・アワー
金曜日 12:00-12:45
それ以外の時間帯は個別にメール等でアポイントをとってください

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