Japanese/Englishリンクお問い合わせ

特色ある教育の開発、教育力の向上をめざして

週刊・授業改善エッセイ
つばさとは?
つばさ連携校
事業内容
FDカレンダー
週刊・授業改善エッセイ
 
 

筑波技術大学産業技術学部 : 梅本 舞子

“聴覚障害者のための大学”における『食堂』を舞台としたPBL型学習       

多くの大学で取り組まれているPBL型学習、その現場は学外、地域のどこかであることがほとんどであろう。これを本学では2021年度からキャンパス食堂にて、学部内全学科・コースの学生を対象に、専門教員が協働で実施している。ここでは、一連の取り組みで得られた3つの気づきを紹介したい。
 プロジェクト開始当初は、COVID-19拡大も重なり食堂としての営業は休業中、がらんと広いだけで寂しい空間であった。本来、食事をとるだけでなく、休憩や誰かとの待ち合わせ、サークル活動、自習やグループ学習、催し物など多様に使えるはずの空間である。まずはここをどう使いたいか、どんなことができそうか、その話し合いからスタートした。
 ここで一般的なPBL型学習には見られないであろう1つ目の特徴が表れた。それは、ユーザー視点に立つまでもなく、初めから“自分ごと”として取り組めた点である。全国から集まった学生の多くがキャンパス内の寄宿舎にて生活を送る本学において、食堂は身近な場所だ。空間的にも、学びの場である校舎と、私生活の場である寄宿舎とのちょうど境目に位置している。そのため、表向きの使い方だけでなく、自らの私生活を充実させ得る拠点として学生らは想像を巡らせることができた。そして、この両者を担う拠点を目指すべく、ONOFFというプロジェクト名で進むこととなった。
 2点目に学部内の連携が進んだ点である。1学年50人という超小規模校の本学部においても、学科やコースを超えて互いを知る機会は少なく、教職員においても同様であった。それが、“食堂”という全関係者が利用する空間を改善するという目的の下、一気に進んだ。データベースやアジャイル開発、ソフトウェア開発、機械加工学、グラフィックデザイン、福祉施設計画、住環境整備やまちづくり等、教員が互いの専門を知り、その特技やネットワークを生かした学生誘導を実現した。学生同士も、誰が何をできるのか、何が得意なのかを知り、協力と役割分担をすすめた。さらに大学を運営・管理する職員の意見を通じて、互いの立場の違いを理解し、歩み寄る術を議論することができた。
 最後に、“聴覚障害者がマジョリティー”という特異な環境を持つ本学だからこその、学びや成果が生みだされつつある点である。快適な環境整備を目指す際、一般的に聴覚障害者に対しては、“いかに聴こえにくさを補うか”に終始しがちであるが、その点は既に日常的に工夫できているのが本校である。そのため具体の改善案の検討においては、“聴覚障害者の習慣・文化に寄り添うデザイン”という一段上の議論ができている。特に手話という視覚言語を用いる彼らは、その見易さの観点から、壁や照明の色、テーブルやべンチの形等を検討し、具体化した。また嗅覚や触覚の活用によるアイデアも様々に議論され、実装された。このようなダイナミックな空間改善は、おそらく本学だからこそできたものであろう。
 生まれ変わった食堂は日常的な居場所へと変化し、学生からも教職員からも様々な活用アイデアが出始めている。今後は聴覚障害者の文化を発信する、地域住民にも開かれた食堂を目指し、現在もプロジェクトを進めている。
            

   
  Copyright 2009 Yamagata University higher education research project center , All Rights Reserved.
 
このホームページに関するご意見・お問い合せは、山形大学教育開発連携支援センターまで。
山形大学 教育開発連携支援センター
〒990-8560 山形市小白川町一丁目4-12
TEL:023-628-4720 FAX:023-628-4836
yu-syugaku@jm.kj.yamagata-u.ac.jp