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週刊・授業改善エッセイ
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 鶴岡工業高等専門学校 : 岩岡 伸之

 高専における物理教員を経験して 

鶴岡工業高等専門学校に着任して以来、約7年間、2〜4年次の物理科目を教えてきました。ここでは、一個人の経験でありますが、授業アンケートを含む学生からの声をもとに試みたいくつかの授業改善の取り組み(と悩み)について述べたいと思います。
 着任して直ぐ、板書形式の授業でよくある「板書が多い」「文字が読めない」といった学生の声・アンケート意見がありました。そこで、授業で板書する基となる内容が学生の手元にあればよいと考え、2019年頃に板書用の手書きノートを授業スライド(データ)形式にまとめ直し、印刷物として配布することにしました(コロナ禍以降はTeamsを介してPDF配布)。授業ではそのスライドを基に板書するようにし、学生には「板書をノートに写経する」のではなく、授業内容を理解することを目的にして、強調している点や学生自身が授業中に考えたことをメモとして残してほしいと伝えています。説明に熱が入り(多少)文字や図が汚くなったとしても、基となる情報は学生の手元にあるため、現在では板書に関する不満は概ね解消しています。
 ここで少し話が脱線しますが、授業スライドを作成していたことは新型コロナ禍では不幸中の幸いとなり、遠隔授業に大いに役立ちました。急な遠隔オンデマンド授業にも、iPad上で作成済みの授業スライドに板書を書き込みつつ音声を吹き込めば授業動画が作成できました。はじめての遠隔授業の半期が終わった時点の授業アンケートで、「普通の授業と変わらなかった」という意見があり、暗雲とした雰囲気であったコロナ禍初期のよい思い出となっています。  
 板書に関する不満はなくなった一方、副作用として、授業スライドのPDFがあればそれで十分と考え、追記やメモをしない/教科書を読まないことが挙げられます。また、試験前にPDF内容だけを暗記すればよいと考える学生もいるようです。復習では教科書を読みつつ、PDFや授業メモをもとにして自分なりのノートを作成すれば理解が進み効果的だと定期的に伝えていますが、実践している学生はあまり多くないようです。コロナ禍を経た現在ではスライド配布は当たり前になったかもしれません。皆様はどのように対処しているのでしょうか。(スライドを穴埋め形式にするというのが一般的な処方かもしれませんが、穴埋めが目的となることや、間違ったものが学生間で共有される可能性を考えてしまい、穴埋め形式は採用していません。)   
 また、物理は「暗記する公式や数式が多くて試験が難しい」という声もよく耳にしました(聞くと、定義や法則と公式の区別がついていない、文字が苦手、数行の式変形があると難しいと感じてしまうようです)。そこで最近は、3, 4年生の試験で自筆書込み用紙(またはノート)の持込を可能としました。高専の物理は公式を暗記するのが目的ではなく、学生が工学の各専門分野で学ぶ基礎知識としての物理法則・考え方を身につけることが目的ですから、問題ないだろうと考えたからです。持込用紙は学生からは好評のようでしたが、こちらが想定するような全体的な試験点の向上はみられていません。試験後に持込用紙を回収し、各学生がまとめたものを見ていると、「法則や数式の意味を理解せず」式を並べる学生や、試験に出そうな問題と解答を列挙するだけの学生が少なくないようです。また、持込用紙があるという安心感から勉強を後回しにしてしまったという声もありました。試験のための暗記ではなく、授業内容をまとめ、問題に応用する力を養うことにつながればという思惑は外れてしまっています。   
 このように授業について教員側の手応えが十分あるとは言えません。授業後のアンケート評価は総じて3.5~4.0程度(5点満点)であり、学生にとっては無難な科目になっているようです。最近では、復習用オンデマンド動画のアップロードや担当クラスの学力を考慮した試験難易度の調整なども試みましたが、「学生に安心感を与える」ことが目的となり、本来あるべき「学生が知識を身につける」ことが疎かになっているのではないかと反省しています。授業アンケートや意見を反映することが教員側の自己満足だけで終わってしまわぬよう、学生にとって実りある授業の在り方を改めて考える必要性を感じています。   
     
  最後に、授業アンケートというシステムを経験し、思うことを述べて終えたいと思います。   
  ・各科目教員に届くアンケート結果は学生の不利益にならぬよう当然、原則匿名ですが、アンケートをまとめる際には、成績とアンケートの意見に対応関係を示すことはできないのでしょうか。例)「優」の意見:◯◯、「可」の意見:△△   
  ・物理に限らず数学などの基礎科目は、工学の各専門分野の学びを進めていく中でその重要性を認識することが少なくありません。そういったときに、過去の授業を振り返り、その知識が役立っているか/身についているかという観点での授業評価があってもよいのではないでしょうか。  
            

   
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