大学教育の現場は、"データサイエンス"の具体的な意味が曖昧にされたまま"データサイエンス教育"が求められるに至り、混乱することになりました。
それ以前に、従来の統計学教育について、潜在的な問題がありました。非理工系学部において、いかにして統計学や統計解析の科目を講義するのかが、教員にとって、非常に大きな問題でした。つまり、非理工系学部に入学してくる学生が、一部例外を除き、大学入学前に、理数系科目を十分に履修していないことは周知の事実です。しかし、たとえば経済学の学習において、学生には、計量経済学など、統計学や統計解析を用いる講義を理解することが求められますが、入学前の数学知識が不十分であるために、消化不良になって苦しむケースが散見されます。今後、データ解析の知識が社会的に求められる傾向はさらに加速すると思われます。他方で、教育現場では、基本的な統計学について有効な教育方針が見いだせないままに、"データサイエンス教育"が要求されています。この現状を改善するための方策は、私が考える限り、次の通りです。
まず、"データサイエンス教育"の前に、従来の"統計学"教育を、今までより一層、充実させる必要があります。つまり、基本的な統計学を理解できていない学生が、"データサイエンス"を理解できるはずはありません。原点に立ち返り、従来の統計学教育のカリキュラム編成を、今までよりも階層的なものに組み替え、学生が段階的に統計学を学ぶことができるよう、講義科目の配置を再編成する必要があります。たとえば、「初級」段階で『統計学入門T』・『統計学入門U』、「中級」段階で『統計学T』・『統計学U』・『ベイズ統計学T』・『ベイズ統計学U』、「上級」段階または「応用」段階で『経済統計学』・『計量経済学』・『ベイジアン計量経済学』・『データサイエンス』を学ぶような、階層的な学習が可能になる環境を、学生に提示することが肝要です。つまり、「初級」→「中級」→「上級」または「応用」という順で統計学・統計解析を学ぶ、階層的な(ハイアラーキカルな)カリキュラムを整えることが必要であると考えます。
このように、私は、"データサイエンス"という言葉に翻弄されることなく、従来の統計学教育における一層の充実を図り、その延長線上に"データサイエンス教育"を捉えることが重要だと思っております。
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