大学は伝統的に、学生諸君が主体的に学ぶことを前提に教育課程を編成してきました。大学における教育を講義室における教員の授業のみに頼ることは、あまりに非効率で不適切であり、大学がユニバーサルアクセス化し、入学時点では学生諸君の内面に自主的に学ぶmind-setが形成されていることを期待できなくなったとしても、学生諸君には主体的な学びを期待せざるを得ません。このようなことから、授業のあり方について考える際には、「学生の学びという応答を引き出す教員の働きかけ」という点がとくに重視される訳です。こうしたことは、「大学における学びのプロセスは、教員と学生の言わばチームワークの中で形成され、徐々に発展していくものだ」という大学教育の根本的な理念と響き合うものです。
大学教員は、教えようとする意欲、教科目及び関連分野に関する深い知識を有することは言うまでもなく、ユニバーサルアクセス時代であるからこそ、「知識を意義深く生きたものとして学生に伝え、学生に自発的学習を促し、学生を動かす力」がとくに重要視される訳です。このような優れた教師としての能力は、伝統的には、長い年月にわたる試行錯誤を通して徐々に形成されるものであるとされてきました。しかしながら、個々の教員の孤立した努力のみに依り頼むのでは、悠長すぎます。優れた教師の経験を教員間で分かち合うことで、各教員が自己批判的かつ自己発展的に自らの授業の内容と方法について検討し、改善する活動を組織的に活性化できると思います。これこそがFDの伝統的な意義であり、米国では50年以上も前から盛んに行われてきました。わが国では、2008年になって漸くFD活動が義務化されました。
神奈川大学は、7学部、9研究科、二つのキャンパスを有する総合大学で、当初はFDの取り組みには組織間で温度差がありました。しかし、2009年度に大学基準協会の認証評価を受審したことを契機とし、FD活動が徐々に学内に浸透し、授業アンケートの組織的活用や学部単位でのFD研修会等のFD活動が活発に行われるようになってきました。一方、2008年以前からFD活動に精力的に取り組んできた学部では、活動が停滞し、動脈硬化を起こしつつあるという憂慮すべき事態が見られます。10数年の長期間にわたって主要なメンバーが変わらない小さな教員集団で、そのFD活動が動脈硬化症を起こさないほうが不思議です。FD活動をつねに新鮮で活発なものとするには、絶えず新鮮な血をその活動に巻き込むことが肝要です。この観点から、FD活動の活性化には、教員に加え、大学教育の一方の担い手である学生諸君が参画することが切に望まれます。さいわい神奈川大学では、学生諸君が自主的に学生FDの活動を立ち上げつつあり、本学教育支援センターが主催する全学レベルのFD研修会に学生諸君が参加し、教員と学生がフラットな立場で話し合うことが行われています。このような文化を学内に広く深く浸透させることで、FD活動を新しいフェーズへと突入させ、FD活動を教員と学生の双方にとって間違い無く意義深いものへと進化させることができると、大いに期待しています。
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