前任校の松大時代のこと。私は経営学概論の再々履修生のクラスを担当していました。この講義は前期に週2回もありました。受講生は必修科目を二回も落としているので、みんな3年生以上です。経営学なんて面白くないと考えて、学習をあきらめている学生たちです。
そのクラスを担当するにあたって、私は彼らの立場に立って考えてみました。一つは「欠席をするから単位が取れない」、二つ目は「わからないから面白くない」、三つ目は「だから自分はできないと思い込んでいる」。きっと、経営学そのものを学習する意欲を失っていたことでしょう。これでは、他の科目にも興味を持てないし、学校に来ることが苦痛です。
そこで私は講義の方針を考えました。一つ目は「遅刻厳禁・欠席即失格」のルールです。彼らは、講義に出ないからわからなくなる、わからないから面白くない、面白くないから講義に出ないという悪循環に陥っていました。そこで、まず学習に対する姿勢を整えました。
二つ目は、興味を持ってもらうために、教える内容を極限まで削りました。3年生以上の学生なので、就職を意識しているはずです。そこで、企業で使えるような経営戦略とマーケティングに絞り込んで教えました。ビジネススクールの講義を参考に、実用性を意識した内容にしました。
三つ目はグループ学習とアウトプットの機会を設けました。講義の中で教えるマーケティングや戦略論のツールを使って分析する課題をグループに与えて、それを発表してもらいました。
講義が始まって、欠席禁止を伝えたところ、学生たちは必死に出席するようになりました。こちらの本気度を示すために、2回目の講義からノコノコとやってきた学生に対して、その場で失格を宣言して追い返したりもしました。
残った学生たちは、続けて出席していくうちに、だんだんと講義の内容がわかるようになり、面白いと感じるように変化していきました。さらに、グループでの課題発表があるので、一生懸命、講義を聴くようになりました。そして、グループで課題をまとめるために、時間外に集まって学習をするまでになったのです。
その結果、講義が終わったとき、ほとんどの受講生から「やっと、経営学の良さがわかった」とか、「面白さがわかった」という感想をもらいました。私の目論見は見事に叶ったのです。
このような取り組みからいえることは、第一に「共感」が大切だということです。相手の立場になって考えなくては、受け入れてくれません。
第二に相手が受け入れられる量を考えて講義を設計することです。教えたいことがあるからといって詰め込んでも、相手が受け入れてくれなくては「教えた」ことにはなりません。
そして第三に、教えたことを実際に応用する場を与えて「できる」「使える」という意識を持ってもらうことです。
大学教員がよくやる失敗に、学生ができないことを嘆くというものがあります。しかし、そういう人たちは「できない」という基準をどこに置いているのでしょうか。それ以上に、そもそも学生がわかるような工夫をしているのでしょうか。結局は、自分が教える技術や力量が無いことの言い訳をしているだけです。文句を言う前に、自分を見つめることから始めましょう。