私は、社会福祉学科に所属し、社会福祉士や精神保健福祉士を目指す学生に講義をおこなっています。彼らは4年生の1月末もしくは2月初めに国家試験を受験するので、どうしても講義の内容が国家試験に出題されやすいものに偏りがちです。むろん、国家試験合格を望んでいるのは学生であり、大学はそれをかなえる場所ですからそれはそれでよいのかもしれません。一方で、一人の教員としては、国家試験にはおそらく出題されないけれども、大学時代に一度は考えておいてもらいたいことや、ぜひとも読んで欲しい書物などもあって、今ひとつ割り切ることができません。
そこで、「分業」を試みることになります。すなわちXやYやZといった科目では国家試験に出題されそうな内容を中心としてとりあげ、PやQといった科目ではそれにとどまらず広い意味での教養を深める内容にしていくということです。たまたま本学ではAP事業の一環としてICEモデル(Ideas,Connections,Extentionsの頭文字。基礎概念の理解、それら相互の関係性の発見、応用課題への取り組みといった意味)を講義や演習に適用するという試みをはじめたところですので、これを使って、科目の割り振り(=分業)の妥当性を点検してみることにしました。すると、意外なことがわかりました。例えば現実に起こった複雑な問題を考えさせるEを組み込んだ科目は、むしろそれをカットして基礎概念の教授(I)中心に切り替えたほうがバランスがよいとか、Iを中心におこなってきた科目に実はEを組み込むことが可能で、そのほうが講義に膨らみが出てきそうだ、などといったことです。
昨今、大学改革のうねりのなかでついつい主体性を見失いがちですが、学生に何を学ばせ、どのような知を身につけて欲しいか、教員側がはっきりとした認識をもったうえで、カタカナで表記されるこれらさまざまな試みにつきあうならば、翻弄されることも少なく場合によっては本来の教育目標に近づくことも可能なのかもしれません。