私は外国語学部に所属し、1年生から4年生を対象に、中上級レベルの中国語および日本語・中国語の通訳を教えています。もともと専門は通訳で、いまも時々、学外で会議通訳や放送通訳の仕事をさせていただいています。
通訳は実学といわれますが、実学と聞くと、「社会に出て即戦力となるスキル」であると思われる方も多いでしょう。ただ、こと通訳に関しては、たとえ大学で4年間みっちり勉強したとしても、卒業後すぐにフリーランスの通訳者や社内通訳者といった「即戦力」足り得るわけではありません。
答えは単純です。大学は通訳現場ではないからです。通訳スキルは現場での経験を積み重ねて叩き上げていくものです。だからといって、大学ではなにもできないということではありません。通訳の基礎訓練は大学でも可能です。将来、通訳者をめざす人は、本学在学中から、プロへの長い道のりに向けて第一歩を踏み出し、助走段階に入ることができます。
さて、大学で通訳を教えていて、通訳とアクティブ・ラーニングの手法は親和性が高いと感じます。実際、私の授業では普段から、発音、訳語、訳文の確認および推敲に関しては、共同学習やグループワークを積極的に取り入れています。90分間、教員が一方的に知識を伝達するだけよりも、集中力の持続につながるし、教え合うことにより、学ぶ意欲の向上にもつながっています。
ただし、あくまでも専門的スキルなので、一人ひとりの学生に対して、かなりの部分を手取り足取り教えないと能力は伸びませんし、学生の満足度も得られません。つまり、通訳のような授業は一人ひとりに目が行き届かない大人数クラスには不向きです。それは、通訳者養成専門学校のクラス編成が、定員数を通常10人程度に絞っていることからも明らかです。よって、大人数クラスのほうが、少人数クラスより利用価値が高く、存在意義があるという市場原理主義的考え方は、通訳の授業にはなじみません。実践をふまえた専門的スキルというのは、手っ取り早く知識を詰め込み、使える人材を「大量生産」できるようなものではないのです。
個人的には、移り変わる世の中の情勢に合わせ、今後とも自らの専門スキルを強化していくだけでなく、学びのファシリテーターとしての能力の向上も求められているということを強く感じています。