私のライフワーク
2010年の冬より、日本学術振興会のアジア・アフリカ学術基盤形成事業「アジア学校保健安全・環境教育研究開発ネットワークの構築と持続的な若手研究者の育成:代表者 大澤清二(大妻女子大学)」のネパール担当となり、トリブバン大学やカトマンズ大学、ポカラ大学で学校保健に関するセミナー、ワークショップ、講演を同行した先生方と実施した。回を重ねるうちにネパールにも菜食主義者(以下ベジタリアン)が存在し、出生時より菜食の食習慣をおくる子どもの存在が確認できた。
ネパールには未だにカーストが残存し、ベジタリアンが今なお動物蛋白摂取を制限している。また、カーストだけでなくヒンドゥー教も食事に関しての可食・不可食、浄・不浄といった厳格な規制がある。カーストやヒンドゥー教という社会構造の中で統制された条件は、従来においては、実験室で動物に頼らなければならなかった研究が、彼らの社会構造の中で実験が行われていることになる。つまり、複雑な社会構造が持つ影響のおかげで、かなり厳密にこれらの統制条件の発育発達に関する効果を解明できると考えている。
子どもの菜食が発育に与える影響を調査した先行研究によると、欧米の子どもを対象としたベジタリアンの発育については、子どもにベジタリアン食を摂らせても正常に発育するという見解と、子どもの菜食が健康に良いかははっきりしておらず、何らかのリスクがあるという2つの見解が見られる。しかし、開発途上国で1日2食のベジタリアンの子どもを対象とした調査が見当たらないことから、調査をすることに至り現在も続けている。
ベジタリアン食を摂る上位カーストとベジタリアン食を摂る中位カーストの摂取食物内容と発育の比較及び中位カーストのベジタリアンとノンベジタリアンの摂取食物内容と発育を比較した結果、
1)どの対象カーストも加齢と共に発育するが、ベジタリアン食を摂る上位カーストがベジタリアン食を摂る中位カーストと比して、男女とも概ね発育が優れていた。
2)食物摂取内容を比べると、ベジタリアン食を摂る上位カーストが多様な食品を頻回に摂取していた。
3)中位カーストのベジタリアンとノンベジタリアンでは、男女ともノンベジタリアンの発育が優れていた。
4)食物摂取内容を比べると、中位カーストのノンベジタリアンは多様な食品を頻回に摂取していた。
これらのことから、発育が優れていたカースト(ベジタリアンの上位カースト、ノンベジタリアンの中位カースト)は、多様な食品を頻回に摂取していたことから、カーストと菜食は発育への影響があることが示唆された。