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特色ある教育の開発、教育力の向上をめざして

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東北文教大学短期大学部 加藤 大鶴  
(総合文化学科)

 私が所属する学科では、地域とのつながりを重視したカリキュラム上の特徴もあって、フィールドワーク系の行事や授業がたくさんあります。そんな中で考えることが多いのは、授業成果をどのように地域に還元するか、あるいは還元を前提とした教育内容とはどのようなものかということです。フィールドワークは地域の方の貴重な時間をいただいて行うものですから、学校側から何がしかの還元をしたい。ところがその気持が先に立つと、学生に対する成長以上の負担や教員による「お膳立て」、あるいは「エース」学生ばかり選んでしまうことになりかねない。これによって還元の質が上がって地域から高い評価を受けても、それは教育と言えるのだろうかといったことです。

 どうもこうした悩みの根底には、還元への誤解があるかも知れないと思い至るようになりました。つまり我々教育機関の役割は地域社会にいますぐ見える形での、「役に立つ」結果を提供するばかりではなく、未来の社会を構成してゆく人間を育成するのが本来ではないか、ということです。書いていて正直むずがゆい感じもしますが、この視点に立って学生の成長に焦点をおいて地域との交流を進めると、うまく行くこともあると気づきました。学生は学生で学校が要求するカッコのつけ方に敏感です。自分の経験や肌で感じることから出発せずに、「正解」に至ろうとするところがあります。もちろんKYM(=空気読みまくり)な学生たちは、地域の前でいい顔をしたい教員の気持ちにもとっくに気づいています。しかし、経験や肌感覚に基づいて語っても大丈夫だと気づけば、自分の言葉できちんと考え地域の方ともコミュニケーションするのですね。形の上での完成度が必ずしも高くなくとも、ここで得られたことこそ、地域還元になるのではないかと思います。たとえば私が担当する異文化コミュニケーションのとある授業では、地域在住の外国人にインタビューをします。学生はすぐに「交流」「共生」といったキーワードに飛びつくのですが、地域の隣人といった当事者感覚から始めなければ、どうしてもパターナルな上から目線になってしまう。だからインタビューの大まかな骨子は作りつつも、相手の話を極力自分の体験とつなげて話を展開させるような工夫をしました。その上で学生自身が社会の一員として外国人と出会ったときに、どのように考え振舞うかということを「今ここにある気持ち」として書き出す課題を与えたりしました。そこでの気づきは、直接的に地域に役立つものではありませんが、すでに地域社会の一員である学生が社会に伝える還元というものもあるはずです。

 もっとも、こうした還元と地域が要求する還元とがかみ合わないこともあります。これは例えば理系学問や実務系学問と違って「役に立たない」と言われることがある人文系学問が直面している問題と直結しているような気がしています。「役に立つ」こと、あるいは時に「役に立たねばならない」というオブセッションとして立ち上がる風潮がどんな意味を持つのか、私たちは研究と教育の両面から真摯に考えなければとも思います。
   
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