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 筑波技術大学障害者高等教育研究支援センター  長南 浩人

 10月を迎え本学のキャンパスにも夏休みを終えた学生が戻ってきました。図書館で熱心に勉強している学生が増えると、新学期が始まったことを感じます。彼らの中には、点字で表された教科書や拡大読書器を利用している者も少なくありません。また一方のキャンパスの中庭では帰省したときの出来事を手話で楽しそうに語り合っている学生もいます。
 本学は、視覚障害者もしくは聴覚障害者のみを受け入れるわが国で唯一の高等教育機関です。前身は、昭和62年10月に開学した筑波技術短期大学であり、障害をもつ学生が、障害者に配慮されたキャンパスで、彼らの能力を遺憾なく発揮してもらうことを目的として設立されました。視覚障害者が学ぶ保健科学部のキャンパスには、点字ブロックが敷かれ、聴覚障害者が学ぶ産業技術学部のキャンパスでは、字幕などの視覚手段による情報伝達システムが設置されているのは、そのような本学設立理念の具現化の一つです。
 施設面の整備のみならず、授業における工夫は、開学当初からの課題でした。視覚や聴覚といった学問の修学に重要な感覚経路を十分に利用できない学習者に対して、授業中にどのような話し方かをしたら良いのだろうか、配慮すべきこととは何なのであろうかということを問い続けてきたわけで、やや口幅ったい言い方ですが、その意味では本学の歴史は、授業改善の歴史でもありました。このようにして蓄積してきた約20年間のノウハウを本学では、2009年に「筑波技術大学FDSDハンドブック」としてまとめました。教職員の入れ替わりも増えてきたため、培ってきた技術を振り返ることで、指導法のモデルができるのではないかと考えたわけです。
しかし、ハンドブックを作成する過程で、執筆にあたった教員から「これまでの経験をまとめて文字にしようとすると、どうしても実際に行った授業の平均値的な内容になってしまう。毎年入学してくる学生の実態は、様々であり、それに対応してきたつもりなのに、そのことがうまく伝えきれない。」という声が聞かれるようになりました。本学は、1学年の入学定員が視覚障害者のキャンパスでは40人、聴覚障害者のキャンパスでは50人と少人数であるがゆえに個人差が教員にはっきりと見え、障害の程度の違いのみならず、学生の学力の違いに応じて指導の内容や仕方を変える指導が行われてきました。このため、既述のような感想を漏らす教員が出てきたのでしょう。
 本学のように特定の学習者集団の属性を詳細にアセスメントし、その結果をエビデンスとして授業方法を考えるという授業研究スタイルは、高等教育機関においては少数派であると思われますし、特殊な背景を持たないと実施も難しいことでしょう。しかし近年、一般大学でも学生の多様なニーズに着目しようという動きは確実に見られ、今後、高等教育機関においても個に対する肌理細かい学習指導の必要性がさらに高まった場合、アセスメントはどうするのか、また学習項目の何を、どこまで、いつ、誰が指導を行うのが合理的なのかという点が問題になるものと思われます。これについて、本学のこれまでの経験から何らかの方向性を示せれば、授業改善路線の少数派の取り組みも、少しは公共的な役割を果たせるのではないかと考えています。
   
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