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 東北芸術工科大学  白杉 悦雄
 (教養教育センター)

 平成22(2010)年度から、初年次教育科目の教養ゼミナールに新しいクラスが加わりました。名づけて「農芸クラス」。農業や園芸を正課の授業として行い、単位を与えるクラスです。以前から紅花や藍草を種から育てているクラス、水田からエコを考えるクラスがありました。それに加えて、この年からは、7人の教員が新しく農芸クラスを担当し、合計10クラスで、100名以上の新一年生が履修しました。
 初めての農芸クラスは、授業が始まる前も始まってからも心配なことばかりでした。教員のほとんどは農業経験者ではありません。自分たちは本当にやれるのだろうか、それが問題でした。新入生が履修を希望してくれるかどうかも心配でした。新入生は芸術やデザインを学びたくて入学してくるのだから、農業などには関心を持たないのではないか。しかし、蓋を開けてみれば、予想以上の希望者で、まずは一安心でした。
 授業が始まっても不安は尽きません。この年は天候が悪く土が乾かず、畑に入れたのは連休が明けた5月の半ばでした。初めて畑に立って学生たちが見たものは、石ころだらけの土でした。石ひろいと、石灰と肥料を撒くことから、授業は始まりました。
 6月は晴れて爽やかな天気に恵まれました。7月になると、周りの畑では、トマトやキュウリやナスが育ち、美味しそうです。隣の先生のクラスでは、取り立て野菜を天ぷらにして食べていました。自分たちで育てた野菜の味は格別のようでした。
 さまざまな不安を抱えてスタートした農芸クラスでしたが、なんとか無事に終えることができました。学生たちが自然を身体で感じてくれたのか、すこし心配でしたが、それも杞憂だったようです。ある学生のレポートにこう書いてありました。「畑に出ているときは、生物の多様性に驚かされた。当たり前のことなのだが、この世界にはたくさんの生き物が生きているということを感じた。今まで目を向けていなかっただけで、いろんな生物がいることに気づいた」、「この授業では感じることを学んだ。自分は生きていて、五感で感じている。風が吹き、虫や鳥が飛び、植物が背を伸ばす。自然はこんなにも美しい」。
 ところで、芸工大は芸術デザインを学ぶ大学です。その大学で、なぜいま「土を耕す」のか。「土を耕す」ことと芸術デザイン教育の間にどのような接点があるのか。
 私たちは、農芸クラスの意義をつぎのように考えています。「土を耕し、生命を育てる」ことを通して、自然を五感で感じ、自分が生きていること、自分が自然の一部であり、他の生命とつながりあっていることを実感する。そうした生命自然の実感を基盤にしながら自己や芸術デザインについて考える。土を耕して自然と対話し、思考を深め、自己を確立していく。それが芸工大の、美大の教養教育なのだ、と。
 芸工大は、生命自然に対する畏敬の念と、自分たちも自然の一部なのだというところから芸術デザイン教育を始めたいと考えているのです。まだ、小さな一歩を踏み出したばかりですが、この種を大きく育てて、想像力と創造力の花を咲かせたいと願っています。

   
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