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 山形県立保健医療大学  熊谷 純
   (保健医療学研究科長 理学療法学科教授)
 

   コロラド研修余話

 多くの大学と同様に、本学では建学以来国際的な視野を備える必要が認識され、教育目標にも『国際的な視野をもち活躍できる人材の育成』が謳われている。
 山形県とアメリカのコロラド州が提携関係にあり、また山形市が同州の大学町ボールダー市と姉妹都市であることから、11年前に本学の看護学科がデンバーにあるコロラド大学看護学部、理学療法学科が同医学部理学療法学科、そして作業療法学科はフォートコリンズ市にあるコロラド州立大学の作業療法学科と提携を結び、5年ごとの2度の改定を経て今日に至っている。そして毎年学生が同地で研修をおこなっている。本学の看護(1学年定員60名)、理学療法学科(定員20名)、作業療法学科(定員20名)の3年次の学生で希望するものが教官とともに約10日間、9月の中旬から下旬にかけて同地を訪れるのである。アメリカからも毎年、教員、ときには学生も山形を訪れている。この研修は学生のみならず教員にとっても意義が深い。筆者は整形外科医であるが、アメリカの時代の先端をいく理学療法学を見ることは大いに勉強になる。
 筆者の所属する理学療法学科の本年度の研修は9月14日から22日にかけて行われた。筆者にとっては3年ぶりの引率である。
 この研修は各学年の担任が中心になって行われる。本年も理学療法学科では40代の講師が助教の助けのもとに航空機の手配、宿泊、コロラドでの授業や見学の予定などの立案を計り、先方との調整に当たっている。本事業専属の事務員を持たない厳しさから、最後の頃は15時間の時差をもつ先方とメールのやり取りをするために、授業の準備の合間に不眠不休の活動をすることになる。大学の他にも様々な施設を訪問するが,最終的にその時間などの詳細が定まったのは出発の前日であった。今年の参加者は3年次学生22名のうち14名、引率の教員は教授1名、講師2名の計3名である。
 出発前にわれわれ教員が学生に伝えたことはいくつかあるが、主なものは1)積極的に先方の教授陣、学生と交流を計ること、2)理学療法学はアメリカから導入された経緯はあるが、現在の日本の教育が劣っている訳ではないので、今までの知識を総動員して彼らのレベルを捉えること、3)日本のことを正確に伝えられるように勉強をしておくこと、そして現実的なこととして現地では安全には十分に気を配り、とくに夜間の一人での行動は控えることであった。
 夕方に現地に到着した翌日から研修が始まった。内容はコロラド大学理学療法学科の2つの授業への参加(通訳なし)、学生が主体となった発表会(先方は糖尿病に対する理学療法の役割、こちらは花笠踊りの運動学的解析と高齢者のために山形で開発された介護予防体操の紹介)、大学病院をはじめ、さまざまな臨床および研究施設の見学、両大学の教員同士の研究発表会への参加などである。週末は学生宅へのホームステイ、コロラドロッキーズの大リーグの試合の観戦、ロッキー山脈国立公園の散策とリラックス出来る機会も設けてはいるが、英語のシャワーに浸る9日間である。そして研修の最後はコロラド大学の学生、教員が主催するポットラックパーティーで、こちらから花笠踊り、コロラドからはカウボーイダンスが披露され、盛り上がって終わる。

 「ヤバイ」「スゲー(あるいは繰り返して)スゲースゲースゲー」「ワー」「ヤッター」「かわいい!」これらが見学した施設の豪華さや、大自然やそこに生息する小動物を目にしたときに彼らの口から発せられたことばのベスト5である。コロラドロッキーを訪れたときに,同僚の教員とともに所定の時間に何回これらの言葉が発せられるかを正の字で数えてみた結果である。学生同士は分かり合って使っているようであるが,小生などにはその心情が今ひとつ伝わって来ない。理学療法士が運動の機能が損なわれた、あるいは年齢とともにその機能が低下してきた人間を相手にする職業である以上、そのときそのときの相手の気持ちを慮ることが重要であることは常々説かれている。そういう観点から言えばいささか不満の残る表現の連続である。そういえば自分の英語表現の中でも最も不足しているのは形容詞の語彙だよなあと再認識させられてしまう。

 ライオンに狙われたシマウマの群のようにお互いに頭をすり寄せ,相手に背中を見せて自分たちの世界に入りがちになる姿勢は,数日のうちに狩りに赴くライオンのように,周囲を伺いそして積極的にかの地の人々に接する姿に変わっていった。彼らが非常に素直な感性をもっていることは疑いのない事実であり,その伸びしろに期待しているが,一方で巷間言われ続けて久しい彼らの語彙の乏しさは、単に彼らがゆとり教育の世代だからとか、活字離れの結果だと短絡的に捉えることは不適当のように思われる。いかに普段の会話の中で、現象を細やかに捉え、考えを巡らせるような鍛錬が少なく、そしてそれでも成り立つ人間関係に身を置いているということではないだろうか。あるいは周囲の方々が気遣ってくれていることに慣れてしまっているのかも知れない。

 国際言語を習得することは重要であることは言を俟たないが、それに先立って、人が自然にもつ感情の機微をいかに捉え、表現する能力をどのようにしてこれから習得させていくべきか、基礎教育の重要性を改めて認識し考え続けた9日間であった。

  『つばさ』参加の先生方はどのようにお考えだろうか、忌憚ないご意見を頂戴できれば幸いである。

   
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