山大マーク 学長室だより

山形大学アクションデザイン
〜2006 Sept.−2007 Aug.〜

学長任期最後の一年にあたり、以下の6項目を山形大学の最重要事 項と定め、その実施を目指します。
 二期目の学長任期が始まるときに「これからの2年間の山形大学の行動指針(仙道マニフェスト)」を発表しました。その後2回にわたって仙道マニフェストの進行状況をチェックし、その結果を山形大学のホームページに掲載いたしました。平成18年7月1日現在、「山形大学の中・長期的行動指針の策定」、「サイバーキャンパス形成に向けた2年計画」等を除いて、当初の目標として設定された各事項はほぼ達成されました。「山形大学の中・長期的行動指針の策定」については当初の予定よりは若干遅れていますが、現在「行動指針ワーキンググループ」で精力的に作業が進められており、平成18年12月頃までには指針全体の成案が得られることを期待しております。「サイバーキャンパス形成に向けた2年計画」については予算要求との関係等もあり、今年の暮れまでには予算措置も含めた大学としての全体計画を示すことができると思います。
 以上のような状況下で、2006 Sept―2007 Aug学長として私は何をしなければならないか、また何ができるかを考慮にいれて、この間の「山形大学アクションデザイン」を示してみたいと思います。一年間という期間内で、新しい大きな企画を立ち上げて、それを終了させることは不可能ですので、これまでの山形大学の施策の流れをベースにおいて、それを更に進展、進化させることが基本になります。また平成19年度の政府の政策課題にも機敏に反応していかなければならないと思いますので、山形大学としてどのように政策課題を受け止めるのかも含めて、私の考えを説明したいと思います。私個人としては刈り入れの時期に入るわけですが、改革の具体をこぢんまりとまとめることはせずに、変わり続ける山形大学の一断面として2006 Sept―2007 Augを捉えようと思います。
1)グローバルCOEプログラムに向けて:COEプログラムの終了に伴い、平成19年度からグローバルCOEプログラムが開始されます。全学的な取組によって、その採択を目指します。
 現在要望されている大学の研究は各大学の個性が輝いている研究であり、山形大学の研究に対する一つの施策として、山形大学のブランドとなる世界的な先進的研究にフォーカスを絞って、大学全体でこれを推進していくことがあげられると思います。
 平成14年度から開始された「21世紀COEプログラム」は、施行年度に応じて平成18年度から5年間の終了年度をそれぞれ迎え、平成19年度からは新しい「グローバルCOEプログラム」がはじまることになりました。本年5月22日には中央教育審議会大学分科会において『「ポスト21世紀COEプログラム」の在り方について』が発表され、その基本構想が提案されております。(筆者注:ポスト21世紀COE=グローバルCOE)基本的な考え方としては、「COEの基本的な考え方を継承しつつ、更に充実し、国際的に魅力のある世界的な教育研究拠点の形成を図る」とされ、さらに「人材養成機能の強化に向けて支援の充実を図るとともに、国際競争力のある大学院づくりを更に促進する」とされております。支援内容としては、○若手研究者や博士課程の学生が独立して研究に専念できる環境の整備、○海外の優れた研究機関との連携、○海外の優れた研究者の招聘などが揚げられ、審査の視点としては「オンリーワン」的なもの、「日本発」のものも、対象とするとあります。
 山形大学にはいくつかの世界的な先進的研究があります。種々の状況を勘案しながら、可及的早期に「グローバルCOEプログラム」に申請する先進的研究を学内的に選考し、平成19年度の採択に向け全学的に歩を進めていきたいと思います。
2)小白川キャンパス大学院の整備:教員養成のための専門職大学院(教職大学院)の設置を含む、小白川キャンパス大学院の発展・整備を目指します。
 「仙道マニフェスト」においても示したように、中教審の大学院改革に関する答申を受け、現在、各大学において大学院の抜本的な改革が進んでおります。また平成18年7月11日に中教審から「今後の教員養成・免許制度の在り方について」というタイトルの最終答申が提出され、教員養成における専門職大学院の在り方の基本的な国の考え方が示され、いわゆる教職大学院の設置に向けた各大学の取組が開始されました。
 山形大学においては、教育学部の地域教育文化学部への改組に伴い、教員養成に関しては開放型養成としましたが、このような山形大学の教員養成の現状を、国の教職大学院のシステムとどのようにマッチングさせていくのか、早急に大学としての考え方をまとめていかなければなりません。
 以上の地域教育文化学部が抱える喫緊の問題を始めとして、各研究科をいかに時代の要請に応えるものに改革していくのか、具体的な方針を決めなければならない時期に来ています。その要請に応える一つの方策として、学長主導で、同一の問題を抱えている小白川キャンパスの各大学院研究科の問題を検討する懇談会を遠藤理事をチーフとして立ち上げました。現在懇談会において種々の問題が検討されておりますが、その検討結果を踏まえながら、大学としても可及的速やかに、この問題についての方向性を決めなければならないと考えております。
3)分散キャンパス問題の止揚に向けて:分散キャンパス問題を克服するために学内機構の整備を行います。
 山形大学固有の問題として最も大きな課題の一つは分散キャンパス問題であることは大学構成員の誰も否定する人はいないでしょう。
 現状において分散キャンパスであることから被る不利益を学長として現状をそのままの形で肯定することはできず、何らかの改革が必要であると考えております。一方、地方大学にとって地域との連携が、単なるお題目ではなく、大学の生き残りの重要な課題の一つとなりつつある現在、分散キャンパスは各地域のニーズを汲み上げるうえで有利な構造であるとも言えます。そこで、これらの分散キャンパスにまつわる問題を整理するために、今回学長指名の委員による学長をチーフとする「分散キャンパス問題懇談会」を立ち上げ、検討を開始いたしました。現在、田村理事の論文「田村幸男著 わが国の分散キャンパスの研究―実態の調査・分析とメリット化策の提案― 山形大学紀要(社会科学)第37巻第一号53頁〜65頁,2006(山形大学ホームページに掲載)」を参考資料として討議を進めております。
 長期間における分散キャンパスという組織形態のなかで培われた、独自の各キャンパスの文化を無理に変えようとするのではなく、それぞれの文化を尊重しつつも、山形大学としての統一性をより完全なものにし、各キャンパスも光り輝くようにするための方策が奈辺にあるのかを、具体的に検討しなければなりません。「大学全体の統一性をより明確にするための施策」(はじめに山形大学ありきであって、始めに○○学部ありきではない)と「各学部の自由裁量をより大きくするための施策」の、一見逆の方向性を有するように見える二つの施策を有機的に結合した総合大学としての山形大学を創出できるか否かに、分散キャンパス問題の止揚の成否が掛かっていると思います。懇談会の中で、そのための一つ一つの新しい方策、あるいは既存の仕組みの変更等を検討していき、最終的には平成18年度末までに学長提案として教育研究評議会及び経営協議会に提案したいと考えております。
4)教養教育の再構築に向けて:教養教育は山形大学の理念の一つ、「充実した人間教育」の最重要の環です。時代の要請を受け、その再構築を目指します。
 最近私は「山形大学の教養教育はこれで良いのだろうか?」と考えるようになりました。実は以前からため込んでいた教養教育に関する資料にすこし丁寧に目を通してみましたが、その結果私が理解したことは、我が国ではいま再び「教養教育はいかにあるべきか」に関して議論が展開されているということ、そしていまだにそのことに関して一定の結論が得られているわけではなく、百家争鳴の状態であるということでした。
 日本学術振興会人文・社会科学振興プロジェクトの一つとして行われた「教養教育の再構築」の二回に渡るシンポジウムの記録を通読してみますと、「教養教育のあるべき姿」は個々人でかなり異なっているということやアメリカのliberal artsとの関係が問題にされていることなどが見て取れます。シンポジウムの主題とはかけ離れているのですが、私が気になったのは、広島大学の先生の報告の中の「― ― ―今の授業内容は、ある先生がいるから授業科目が張り付くという形ですが、もう少し違った形で、ある授業科目に教員が対応してどのようにするかを考えなければならないということです。― ― ―」という発言です。これは現在の山形大学の教養教育にも若干あてはまるのでないかと思ったりしました。
 この間私がもっとも触発されたのは、東京大学教養学部小林康夫・船曳建夫編著「知の技法」です。1994年発行ですから、もう10年以上前の話ですが、教養教育についての問題提起としてはけっして古いものではないと思います。著書の(はじめに)の中で「― ― ―問題の立て方、認識の方法、論文の書き方、発表の仕方など、― ―将来どのような専門領域を研究するにしても、かならず身に付けておかなければならない極めて基本的な知の技法を― ― ―」とあります。いま流行の言葉でいえばリテラシーということになるのでしょうか。現在教養教育の中で最も高い比重を占める「知の技法」は、もちろん外国語と情報教育ですが、それだけではなく、「知の技法」の序文に例示されている、いま示したリテラシーも非常に重要なものだと思います。申すまでもなく、教養教育は人間教育の中核であります。中教審答申にも書き込まれてある「21世紀型市民の育成」を目指して、山形大学の教養教育の再構築を目指していきたいと思います。
5)アジア大学間のWebによるネットワーク形成に向けて:大学の「知」を国際協調に生かすことを最終目標に、大学間協定締結大学間のWebによるネットワークを形成します。
 現在我が国において国際交流の推進は大学の一つの大事なプロジェクトとして位置付けられ、各大学で姉妹校協定締結が進められていますが、その交流のコンセプトはあまり明確でないような気がしてなりません。このような状況の中で、相手の国の事を相互に理解し、その理解を自分の国の社会に発信していくことを通じて、なんとか国際間の争いを減少させる方向への努力をすることも、大学間の国際交流の一つの大きな目的ではないのかと、私は現在考えております。いま21世紀は「知の時代」と言われ、その中での大学の役割が強調されていますが、産業を盛んにするための「知」だけではなく、国際間の争いを防ぐための「知」の養成も大学に要求されているのではないでしょうか。  山形大学では、いろいろな国の大学と交流協定を締結していますが、中国や韓国などのアジア地域の大学が中心です。我が大学の国際交流が国際関係に影響を与えるなどと大言壮語はしませんが、少なくともその芽吹きを作りだすことはできるのではないかと考えました。方策としては次のようなことを考えています。@山形大学が発信者となって交流協定を締結している中国や韓国などのアジア地域の大学にWebを介したネットワークを形成しないかと提案します。A協定締結大学には、山形大学以外の国際交流を行っている大学に対して主旨に同意すると言う条件付きで、同様の主旨を呼びかけてもらいます。参加した大学も同様のtrialをします。このような試みにより、Web上に大きなネットワークが成立します。Bネットワーク上で討議する内容については、参加大学の構成員であれば、誰でも提案できますが、無責任な提案を阻止するため、参加大学の国際交流の責任者の許可を得たものだけを有効とします。提案に対する意見提出も同様の手続で行います。CWeb上の共通言語は英語とします。  このような取組によって、ネットワーク参加大学間の相互理解が得られ、引いては、国際理解にも繋がっていくのではと夢見ます。少なくとも、このネットワークから共同研究が生まれていくことを期待しています。
6)第一期中期目標・中期計画全体の具体化:評価結果に基づいたつぎの新しい山形大学を築くため、中期目標・中期計画の達成状況を徹底的に検証します。
 種々の問題を孕みながら国立大学の法人化が始まったわけですが、平成19年度には法人化4年目を迎えることになります。現在企画部が中心となって膨大な労力を費やして年度毎に事業年度に係る業務の実績報告書をまとめております。第二期の中期目標の期間においては、数値評価を多用することなどによって、年度報告書の記載をより簡略化してもらいたいと思います。
 さて、第一期中期計画の実施状況の評価を次の第二期中期計画になんらかの形で利用しようとすると、時間的に平成19年度内には第一期中期計画全体の暫定評価が始まるという計算になります。ということは、大学側としては平成18年度内にしっかりした中期計画全体の実施報告書作りのプランを立てなければならないということになります。なんとも忙しい話ではありますが、評価を次の国立大学の施策に反映させるためには、避けて通ることができない道であると思います。国立大学全体の評価の問題について論立てをするとこのような話になりますが、山形大学固有の問題として考えてみても、自分たちが立てたプランがどのように具現化されているかを理解することは、評価結果に基づいて次の新しい山形大学を築くための重要なポイントになると思います。

 6項目の重要事項の中には、その実行が非常に困難なものも含まれていますが、皆が力を合わせることによってその方向性を探し求めて行きたいと思います。  何か御意見がありましたらgakucho@jm.kj.yamagata-u.ac.jpまでご連絡ください。