山大マーク 学長室だより
 告 辞(平成19年4月6日入学式)

春爛漫も近づいてきたこのときに山形大学に入学した2,465名の学生諸君、入学おめでとう。諸君の山形大学入学を心より祝福いたします。またご列席の保護者の皆様、お子さまの入学まことにおめでとうございます。今回の入学に至るまでの長い月日のことを考えてみますと、お喜びもいかばかりかと拝察申し上げる次第でございます。
 
さて、学長として、今日は入学生諸君に、二つのことを話してみたいと思います。一つは、平成16年度に山形大学を含む国立大学は法人化して、新しく生まれ変わり、それに伴って山形大学も新しい歩みを始めましたが、いま山形大学は、どのような方向に向かって歩いていこうとしているのか、その内容について説明いたします。二つ目の話は、これから大学生として生活していく上で、いまなにが大切かということについて話をします。
まず、国立大学の法人化の話から入っていきます。従来、国立大学は国の一つの機関でしたが、平成16年度から、国の機関ではなくなり、国立大学法人という法人になりました。ですから、現在の山形大学の正式な名称は、国立大学法人山形大学ということになります。
 
国立大学が法人化でどのように変わったかというと、国の機関だったときと比較して、大学の裁量性が大きくなったことが挙げられます。つまり、大学の考えに基づいて色々なことが、自由にできるようになりました。各大学はそれぞれ独自の目標を立てて、その目標に向かって歩いていき、そして一定期間後にその目標が達成されたかどうか、外部の人の評価を受けることになります。
 
山形大学では、大学の目標の基礎になる三つの理念を掲げました。「自然と人間の共生」「充実した人間教育」そして「社会との連携重視」です。具体的な内容を少し説明してみましょう。
 
まず、「自然と人間の共生」について説明します。最近、「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)から「地球の温暖化の原因は人為的なものである」といことが発表されました。つまり、私たち人間の活動が原因で地球の温度が上昇してきたということになります。この状態が続けば地球は将来大変なことになってしまうということが警告されています。地球には数え切れないほど多くの生物種が生息しています。一つの生物種である人間が、地球環境を悪化させて、他の生物の生存に影響を与えるようなことは、最も進化した生物種である人間として厳に慎まなければならないことだと思います。山形大学では、経済最優先、人間の便利さ最優先といった考え方を克服し、一歩さがって、自然と人間の共生の上に社会を築いていこうということで、「自然と人間の共生」を大学の理念として掲げ、その実質化のために色々な試みを行ってきました。
 
つぎは、二つ目の山形大学の理念である「充実した人間教育」について話してみます。大学の教育の第一の目標は、将来職業人として活躍するための物の考え方と知識と与えることにあります。入学一年目に行われる教養教育においては、専門科目を学ぶための語学や情報処理教育をまなび、専門教育ではその基礎の上に職業と関連したより専門的な学問を学びます。
 
しかし、これだけが大学の教育でしょうか。私はそうは思いません。専門教育は大学の教育にとって大変大切なものではありますが、それだけでは、十分な大学教育であるとは言えないと思います。諸君には十分な専門知識を持つと同時に、豊かな人間性を備えた人間に成長した姿で社会に飛び立っていって欲しいと思います。そのためには、立派な大人としての教養を身につけてもらうための教育も必要になります。そのような教育を私たちは「人間教育」と呼んでおります。山形大学ではこのような「人間教育」を重視し、大学の理念の一つとして「充実した人間教育」を掲げ、その目標に向かって色々な試みをしております。山形県の北部に位置している最上地域全体を山形大学のキャンパスと見立てて、そこで現地体験型の授業を行う「エリアキャンパスもがみ」は人間教育の一つとして全国的にも注目されております。
 
さて、第三の理念として、山形大学は「地域との連携重視」を掲げております。従来大学の主な機能は教育と研究だと考えられていましたが、社会の変化に伴って、大学は社会との関わりがより求められるようになってきました。大学が象牙の塔である時代は終わりをつげ、大学の教育や研究の成果は社会に還元されなければならないと考えられるようになりました。そして、21世紀は知識基盤社会と呼ばれるようになり、大学は知の拠点として、その役割は益々重視されるようになってきました。このような状況の中で、山形大学では、産業界や経済界との連携事業に力をいれ、また県や市町村の活動を大学の立場から支援する努力を重ねてきました。そして山形大学のスローガンの一つとして「地域に根ざし、世界を目指す」といことを掲げて頑張っています。
 
以上、山形大学の三つの理念について説明しましたが、入学生諸君もときどきこのことを思いだし、大学で行われる色々な試みの目指すところを、この三つの理念と関連づけて理解してもらいたいと思います。学生諸君は非常に大事な大学の構成員であると私は考えております。入学生諸君も一緒になって明日の輝かしい山形大学を築いていきましょう。
 
さて、つぎには入学したいまなにが大事かということについて話をします。高校と大学の大きな違いは、高校では社会科や理科の選択等を除いては、受ける授業科目はすべて決まっているわけですが、大学で最初に諸君が受講する教養教育では、語学や情報処理教育など学部によって決められた科目は勿論ありますが、自分で選択しなければならない科目がたくさんあります。つまり、大学では学生諸君の自主性を最大限尊重しているということになります。大学では、履修科目が全部掲載されているシラバスを用意し、そのシラバスの中から諸君が選択しても良いかなと最初に考えた講義を試験的に聴講する機会を与えて、最終的に受講する科目選択の参考にしてもらうなど、諸君が適正な科目を履修できるように十分な工夫を凝らしています。しかし、分厚いシラバスに目を通すだけでも大仕事ではないかと思います。そして、おおよその見当をつけた講義を試験的に聴いてみることを繰り返すなど、その労力は大変なものだと思います。しかもそれを短時間でこなさなければならないということになります。
 
しかし、入学したいまが肝心なときなのです。多くの諸君は知らない土地にきて、まだ山形の案内もよく分からないうちに、こんなハードワークが待ち受けていて、疲労困憊に陥ってしまうかもしれませんが、ここは頑張って自分の力を出し切って、この科目を選択してよかったと一年後に思えるような科目を選ぶように努力してください。なにごとも最初が肝心と心得てください。
 
さて、そろそろ私の話を終わりに致しますが、その前に入学生諸君にお知らせしたいことがあります。諸君は、学部入学生と大学院入学生を合わせた今回のすべての入学生の最高の年齢は何歳だと思いますか。実は、なんと83歳の方が入学なさっています。佐藤安太さんという方で、理工学研究科のものづくり技術経営学専攻の博士課程に入学されました。  
 
佐藤さんは山形大学工学部の前身である米沢工業専門学校を昭和20年に卒業した、諸君の大先輩です。おもちゃメーカー株式会社タカラを創業され、一部上場会社に発展されました。有名な商品に皆さんご存知のだっこちゃん、リカちゃん、チョロQ、人生ゲームなどがあります。ものづくり技術経営学専攻の博士課程に入学され、新しい学問体系をつくりあげたいのだそうです。
 
「62年ぶりで大学に入学し、改めて学習できることに感謝の気持で一杯です」と申されています。
 
その佐藤さんが、今日入学式に出席しておられます。佐藤さんどうぞお立ちください。佐藤さんの若さと夢とその力に諸君と一緒に拍手を贈りたいと思います。(拍手)。どうもありがとうございました。どうか若い学生諸君を叱咤激励してやってください。
若い入学生諸君も、佐藤さんに負けないような大きな夢と実行力を持って、大学生生活を過ごしていってください。輝かしい山形大学の明日に向かって一緒に頑張っていきましょう。これで私の入学生諸君に対する激励の挨拶を終わります。