自然界には動物の体表模様や岩石に含まれる縞模様など、あらゆる模様 (科学的には「パターン」と呼ばれる)が存在し、これらは「自発的に」形成されることが特徴です。更に、形成されるパターンの中には何らかの「幾何学性」を伴うものも存在します。これらが自発的に形成される機構は、自然科学分野の研究者にとって長年の研究対象であるだけでなく、この機構を応用して低エネルギー・低コストで高機能材料を開発しようと、材料科学分野の研究者からも多くの関心が寄せられています。しかしながら、これらの形成機構は様々な要因が絡み合った複雑なものが多いため、単純な化学反応や数理方程式のモデルに置き換えて理解しようとする試みが従来から数多くなされています。

リーゼガング現象はそのような化学モデルの一つとして知られており、特に「自発的に形成される幾何学的な周期性を有する沈殿パターン」の現象の理解に繋がることが期待されています。しかしながら、この現象は発見から100年以上が経過しているにも関わらず、その現象の発現機構は未解明であり、化学モデルとしての有用性が不足しており、自然界への適用には大きな乖離が存在していました。

山形大学理学部の並河研究室 (https://www.nabika-lab.org/) では、実験と数理シミュレーションの双方を駆使した融合的アプローチにより、リーゼガング現象の機構の解明を目指した研究を展開しています。その研究の一環として、本学の博士後期課程に在学する板谷氏は、リーゼガング現象の中でも長年重要視されていたが、実験的検証が困難とされていた、相分離を伴うパターン形成機構を検証するための実験系の構築に世界で初めて成功し、その形成機構や幾何学性の詳細を実験とシミュレーションの双方から議論しました。この実験系の構築に向けては、板谷氏は従来のリーゼガング現象の実験で頻繁に用いられてきた反応系がこの相分離を伴う機構の実験的検証の制限となっている点に着目し、新たにコロイド粒子の凝集原理を実験系に組み込むことを発案し、リーゼガング現象ではこれまで報告例のなかった新奇反応系でのパターン形成に成功しました。以上の成果を英語論文としてまとめ、英国王立化学会の物理化学専門誌Phys. Chem. Chem. Phys誌にて発表したところ、2022年を代表する論文である2022 HOT articleに選出され高い評価を得ました。この発見は長年理解が進んでいなかったリーゼガング現象の機構解明において革新的な寄与をもたらすことが期待されます。

著者名: Masaki Itatani, Qing Fang, István Lagzi, and Hideki Nabika*

論文題目: Phase separation mechanism for a unified understanding of dissipative pattern formation in a Liesegang system

掲載雑誌: Physical Chemistry Chemical Physics

DOI: https://doi.org/10.1039/D1CP05184A

※2022年4月末までフリーアクセスとなっています。