電子・エネルギーデバイスの発展とともに、「光透過性(透明)電極薄膜」は欠かせない部品となっています。特に、薄膜太陽電池開発が世界競争となる中で、その電極薄膜の需要は加速度的に増大しています。電極材料としては、金属酸化物や銀ナノワイヤが実用化されています。しかし、(1)真空プロセスによる金属酸化物薄膜の作製には、大きな熱エネルギーが必要であること、高価・低埋蔵量の金属元素が必要でること、(2)銀ナノワイヤは、腐食による性能劣化などに課題が残っています。

化学分野において、ナノ材料を中心に研究している石﨑・栗原研究グループでは、SDGsの観点から材料が枯渇しない炭素のみからなる単層カーボンナノチューブ(SWNT)を用いた新しい電極作製法を確立しました。SWNTは、電気を良く通し、薄膜にすることで光をよく透過するフレキシブルな電極を作製することができます。また、耐腐食性が高いことから安定した性能を維持できます。これまで報告されている溶液プロセスによる低消費エネルギー型のSWNT薄膜作製法では、限られたな材質や構造物の上にしか製膜できませんでした。本研究では、この課題を解決し、「どんな材質・形状の材料の上にもSWNT薄膜を簡単に作製できる手法」を発明(特許出願)し、デバイス応用に新たな道を拓きました。この方法で、次世代太陽電池として、その実用化に向けて最先端の研究開発が進んでいるペロブスカイト薄膜太陽電池の上部電極としてSWNT薄膜を形成し、太陽電池として機能させることにも、既に、成功しています。

この成果は、炭素材料を用いた電極作製法において、特に、フレキシブル・シースルー薄膜デバイスの開発に大きく貢献するものであり、関連の論文が、2021年10月11日に、Advanced Materials Interfacesにオンライン掲載されました。また、11月23日には、cover pictureとして同雑誌に紹介されています。

著者名: Manabu Ishizaki*, Daiki Satoh, Rin Ando, Mikuto Funabe, Jun Matsui, Masato Kurihara*

論文題目: Solution-Processed Chemically Non-Destructive Filter Transfer of Carbon-Nanotube Thin Films onto Arbitrary Materials

掲載論文:Advanced Materials Interfaces

DOI:10.1002/admi.202100953

本研究は、JST A-STEP(JPMJTM20BA)、および、科学研究費基盤研究C(20K05523)、基盤研究B(21H01945)、挑戦的研究・萌芽(21K18972)の支援を受けて研究を継続しています。