【授業概要】
・テーマ
自由確率論(組合せ論的アプローチによる入門)について学ぶ: 通常の確率論(古典確率論)では、独立な小さな誤差が無数に積み重なるとその分布は正規分布(ベル状のグラフの分布)に従います。これに対し、自由確率論という80年代に Voiculescu により発見された新種の確率論においては、‘独立’な小さな誤差が無数に積み重なるとその分布は半円分布(半円の形をしたグラフの分布)に従います。このことは一見したところ奇妙に思われるかもしれませんが、幾何学の発展の歴史を思い起こしてみれば理解可能なことがらです。ユークリッド幾何学においては、三角形の内角の和は180°です。しかし、非ユークリッド幾何学(双曲幾何学)では、‘三角形’の内角の和は180°より小さくなります。双曲幾何のような奇妙な新種の確率論が自由確率論なのです。
・到達目標
1.自由独立性の概念を扱うことを通して、‘確率論’における独立性概念の意義を理解する。 2.幾何の多様性(非ユークリッド幾何の存在)と同じく、‘確率論’も多様である(非コルモゴロフ確率論(=自由確率論たち)の存在)という考え方を理解する。 3.フォック空間という概念を通して、量子的数学、非可換数学の一端を理解する。 4.母函数計算により、比較的簡単な作用素(‘確率変数’)の分布を求めることができる。
・キーワード
自由確率論、自由独立性、*代数、観測量、状態、自由中心極限定理、Wigner 半円分布、非交差分割、自由畳み込み、自由キュムラント、ブール独立性、単調独立性、
【科目の位置付け】
この授業は、理工学研究科ディプロマ・ポリシー「理学の発展に貢献しようとする意欲を持ち、課題を解決するための高度な専門的知識と経験の習得」に関連する。
【授業計画】
・授業の方法
授業は講義形式で行う。
・日程
この科目で取り扱う主なトピックは、次の通りである。 1. ガイダンスと古典確率論の復習(独立性と中心極限定理)(2時間) 2. 自由独立性と自由中心極限定理(3時間) 3. 自由フォック空間と自由積確率空間(2時間) 4. 自由畳み込みと自由キュムラント(3時間) 5. 自由確率論の仲間たち(ブール確率論と単調確率論)(2時間) 6. 非可換確率論(非可換独立性)の分類定理(3時間)
【学習の方法】
・受講のあり方
自由確率論では、確率論、函数解析、非可換数学、組合せ論、数理物理などいろいろな分野に関わった発想が用いられますので、初めて聞く用語などわからない点があれば遠慮なく質問してください。 学部で、確率論を履修していない学生には内容理解が難しいと思います。物理(量子力学)の知識は仮定しません。
・授業時間外学習へのアドバイス
特別なアドバイスは特にありません。
【成績の評価】
・基準
自由確率論とは何であるか、そのアイデアを具体的に説明できる。 作用素の分布を求める方法を理解している。
・方法
出席(50点)とレポート(50点)により評価する。
【テキスト・参考書】
参考書: 講義中に適宜紹介する。
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