【授業の目的】
水に垂らしたインクがジワジワと拡がる,洗濯物が乾く,玉コンニャクに正油出汁が染み込んでいく,汚染物質が大気中や海洋中に拡がる,反応装置の中で起こる反応物質同士の分子レベルでの出会いの場に分子が移動していく。これらは全て「物質移動」と呼ばれる現象です。この現象は,日常生活の中から,工業装置の内部など,広く観察される現象です。この授業では,物質が移動していく現象について基本的な原理と応用的な手法を学びます。物質移動には,濃度差があれば起こる「拡散」と流れに乗って素早く運ばれる「対流」があります。授業では,物質移動の仕組みを解説し,移動速度を定量的に取り扱う数学的手法を身に付けることを目的とします。
【授業の到達目標】
(1)拡散現象,対流現象の基本概念を述べることができる。【知識・理解】 (2)想定した物質移動を含む物理現象が微分方程式で記述できることを理解できる。【知識・理解】 (3)微分方程式を解くことで,濃度の空間的分布や時間的変化を予測できる。【知識・理解】 (4)物質移動,熱移動,化学反応などが直列で起こる場合の複合現象に対する律速過程を特定することができる。【知識・理解】 (5) 熱と物質の同時移動など化学プロセス内に多くある複合移動現象が理解できる。【知識・理解】
【授業概要(キーワード)】
Fickの法則,濃度勾配,物質移動流束,境膜,拡散係数,一方拡散,等モル相互拡散,物質移動係数,熱と物質の同時移動現象,物質移動と反応の同時進行現象
【学生主体型授業(アクティブラーニング)について】
A-1.ミニッツペーパー、リフレクションペーパー等によって、自分の考えや意見をまとめ、文章を記述し提出する機会がある。:76~100% A-2.小レポート等により、事前学習(下調べ、調査等含む)が必要な知識の上に思考力を問う形での文章を記述する機会がある。:76~100%
【科目の位置付け】
この科目はいわゆる「移動現象論」の一つの分野であり,物質が移動する現象を,数学モデルを駆使して解析する具体的な手法を,その基礎知識とともに身に付けるものである。化学工業プロセスにおける装置内で起こる現象を理解する上で不可欠な内容である。なお,本授業を受講する前に,移動現象 I および移動現象 II を受講しておくことが望ましい。
【SDGs(持続可能な開発目標)】
04.質の高い教育をみんなに 09.産業と技術革新の基盤をつくろう
【授業計画】
・授業の方法
スライド (PowerPoint) による講義。講義前日に資料を WebClass で公開する。それを各自参照のこと。ほぼ毎回,講義の最後に演習問題を課す。
・日程
以下の各項目を順次講義するが,進行の度合いによっては多少の内容変更を行う。 第1回:イントロダクション ー物質移動とは何か? Fick の法則ー 第2回:拡散と対流現象の定性的理解と定量的な記述方法 第3回:拡散係数の推算方法について 第4回:一方拡散と等モル相互拡散の取り扱い 第5回:一次元定常拡散方程式の導出と解法ならびに物質移動速度式の導出 第6回:直交座標系,円筒座標系,球座標系における拡散方程式の解法 第7回:一次元非定常拡散方程式の導出と解法ならびに物質移動速度式の導出 第8回:一方拡散と等モル相互拡散の物質移動速度式の応用 第9回:異相界面を横切る物質移動ーガス吸収と二重境膜説 第10回:層流場での物質移動現象ー流下液膜中へのガス吸収 第11回:物質移動係数の定義とそれを用いた物質移動現象の解析事例 第12回:装置内の物質移動現象のモデル化ーアナロジーと境膜モデル 第13回:熱と物質の同時移動現象ー蒸発,湿球温度 第14回:拡散と反応の同時進行現象の解析(多孔質触媒内の濃度分布) 第15回:期末試験とまとめ
【学習の方法・準備学修に必要な学修時間の目安】
・受講のあり方
講義資料を参考にして講義内容の理解に努めること。講義前日に講義資料を WebClass にアップするので,それを読み込んで,数式の導出などを試みることが講義内容の理解を助ける。講義と同等の 1.5 時間程度の学習を推奨する。
・授業時間外学習(予習・復習)のアドバイス
講義内容に関連する書籍を紹介するので,参考書を参照しつつ講義内容の理解に努める。 また,授業中に解説した例題などはもう一度自分で解いてみること。さらに宿題として指定された問題は必ず自力で解いておくこと。知識の積み上げとなる科目なので,前回の内容を理解しておかないと次の内容が理解できないこともあり得る。十分復習し,不明な点は質問すること。復習にも講義と同等の 1.5時間程度の学習を推奨する。
【成績の評価】
・基準
授業の到達目標が達成されていることを以下の方法により評価する。 1.物質移動現象を数学モデルで記述できること。 2.上で作った数式を解き,物質の空間的,時間的分布をきちんと表現できること。
・方法
100点満点の期末試験で60点以上を合格として、成績評価を行う。
【テキスト・参考書】
適当なテキストがないのでテキストは使わない。講義資料は,以下の参考書などから抜粋した内容から構成されている。 R. B. Bird, W. E. Stewart and E. N. Lightfoot, "Transport Phenomena", 2nd Edition, John Wily & Sons, (2007) A. F. Mills, "Mass Transfer", Prentice Hall(2001) E. L. Cussler, "Diffusion - Mass transfer in fluid system-", 3rd Edition, Cambridge University Press. (2009) 吉川史郎「ベーシック 移動現象論」化学同人 (2015) 伊東 章「物質移動解析」朝倉書店 (2013) 浅野康一「物質移動の基礎と応用 Fick の法則から多成分系蒸留まで」丸善株式会社(2004) 伊東 章「Excel で気軽に移動現象論」丸善出版 (2014) 小宮山宏「速度論」朝倉書店(1990)
【その他】
・学生へのメッセージ
大学は自分で勉強するところです。自分が苦労したことしか身に付きません。講義には技術者として必要な知識を選んであります。それが難しいというなら,理解する努力をするように。自分で選んだ進路ですから。卒業後の長い人生のためのトレーニングです。
・オフィス・アワー
質問がある場合は授業終了後に直接問い合わせるか、WebClassのメッセージ機能を活用して下さい。
|