農村計画学
 Land Resource and Environmental Planning
 担当教員:石川 雅也(ISHIKAWA Masaya)
渡邉 一哉(WATANABE Kazuya)
花山 奨(HANAYAMA Susumu)
 担当教員の所属:農学部・食料生命環境学科・エコサイエンスコース
 担当教員の実務経験の有無:
 担当教員の実務経験の内容(有の場合):農山村地域におけるフィールドスタディを通じて、具体的な政策課題や立案の視点から課題解決に向けた実践的な地域づくりの在り方を学ぶ。
 開講学年:2年,3年,4年  開講学期:前期  単位数:2単位  開講形態:講義
 開講対象:農学部  科目区分:エコサイエンスコース選択必修科目 
【授業の目的】
今日の農村計画では,その内部に劣化要因を抱えつつも様々な価値を有している農山村地域を対象に,そうした様々な価値を維持し発展させる計画者(プランナー)の育成が求められている。本授業ではそうした様々な価値のうち,近年特に重要視されている地域環境整備を取り上げる。受講した学生が,農村計画学における基本的な概念とともに地域環境整備を主軸とした資源環境計画学の基礎知識を学び,それらの基本的な概念や基礎知識を支えている科学的知見の進歩の上に発展してきた地域環境整備の歩みを振り返りながら,地域環境整備技術の本質について理解を深めることによって,授業終了段階で,農産物の生産,販売,消費はもとより,環境,社会,経済,文化の面からの影響を取り入れた『長期展望に立脚した農山村地域のあるべき姿』を構想できるプランナー,つまり『総合的に発案できるプランナー』として必要な『科学的知見の根拠についての知識』を身につけ,地域環境整備のプランナーとして『素養と分別』がある行動を開始できることを目的とする。

【授業の到達目標】
この授業を受講した学生は,授業終了段階で,農村計画学に関して,
1)農山村地域の実態について,地域環境整備の背景・基礎となる科学的知見の進歩の観点から述べることができる。【知識・理解】
2)計画立案事例を模倣できる。【技能】
3)農山村地域の未来を切り拓く地域環境整備の視点から環境に配慮した農村計画について,討議できる。【態度・習慣】

【授業概要(キーワード)】
SDGs(持続可能な開発目標),水田,森林環境,灌漑,排水,農道,畑地,農業生産,農法,持続可能な地力の増進,環境保全,生物多様性,ほ場整備,汎用農地,計画理論,技術者倫理,アクティブラーニング

【学生主体型授業(アクティブラーニング)について】
A-1.ミニッツペーパー、リフレクションペーパー等によって、自分の考えや意見をまとめ、文章を記述し提出する機会がある。:1~25%
A-2.小レポート等により、事前学習(下調べ、調査等含む)が必要な知識の上に思考力を問う形での文章を記述する機会がある。:1~25%

【科目の位置付け】
この授業は「大地(農地と道路)」「水(水利用)」「空気と緑とエネルギー(農山村環境)」「人(社会)」の統合体を対象に,農山村の自然環境の保全と整備について様々な視点から理論的に分析・考察することで,技術者および研究者として相応しい健全な精神に裏付けられた幅広い知識を習得し,解決策を提案する力を身につけるものであり,以下のディプロマ・ポリシーとカリキュラム・ポリシーに該当する。
【ディプロマ・ポリシー:】
1.豊かな人間性と社会性
(1)人類の叡智と多様性に関心を持ち,洞察力をもって主体的,自律的に学び続けることができる。
(2)健全な批判精神を持つ良識ある市民としての倫理観と責任感を持っている。
(3)変化する社会の諸問題に他者と協働的に挑戦し,地域から世界へ羽ばたく勇気がある。
2.幅広い教養と汎用的技能
(1)自分がどのような社会状況の中で生きているかを認識し,それをもとに判断し,行動できる。
(2)現代社会を生き抜くための基本技能として,論理的思考力とチームワーク力及び膨大な情報の取捨選択力を身につけ,社会生活に活用できる。
(3)他者の多様な価値観を理解し,自らの考えを論理的に説明することにより,相互理解を促進するコミュニケーション能力がある。
3.専門分野の知識と技能
(1)食料,生命,環境科学について総合的な判断力とバランス感覚を身につけている。
(2)食料,生命,環境科学について強い好奇心と探求心を身につけている。
(3)選択したコースの専門的な知識,技術,情報処理方法,語学力を身につけている。
(4)基礎科学と基礎技術に関する知識を多角的に使うことができ,多面的に応用できる技能を身につけている。
(5)研究実行力,科学的思考力,問題解決力を身につけている。
(6)「基幹プログラム」の履修者は,上記(1)~(5)に加えて,選択したコースにおけるより高度な専門知識や技術を身につけている。
【カリキュラム・ポリシー:】
1.教育課程の編成・実施等
(4)各コースにおいて定める専門的知識と能力が身につくよう,各コースに専門科目を配置する。
2.教育方法
(1)生涯を通じて主体的に学び続ける動機づけとなるような,多様で学際的な知識と技能が身につく初年次教育を展開する。また,必要に応じて,基礎学力の定着を目的とした授業時間外学習を促す。
3.教育評価
(1)学習者が到達度を確認できる明確な成績評価基準を策定し,不断の教育課程の点検と学生の学習成果を組織的に評価する。

【SDGs(持続可能な開発目標)】
02.飢餓をゼロに
06.安全な水とトイレを世界中に
09.産業と技術革新の基盤をつくろう
12.つくる責任つかう責任
13.気候変動に具体的な対策を
15.陸の豊かさも守ろう

【授業計画】
・授業の方法
この授業は面接授業です。
1)プリント資料の精読を中心に進め,スライドや映像教材なども併用します。
特に水田については,日本(山形県の水田や灌漑・排水施設,北海道の標準区画水田と大区画水田,茨城県の谷津田・古代米水田・ICT水管理水田,栃木県の調整水田,千葉県の巨大区画水田とパイプライン給水,市川市と横浜市の親水水田,香川県の取水堰と満濃池,福岡県の三連水車,岡山県の隔壁型水路,富山県のゴミ投棄防止ネット付き用水路,栃木県のメダカ専用水路,静岡県の水田遺跡,佐賀県の菜畑水田遺跡復元田,埼玉県の堰の遺跡,高知県のオーナー制度発祥の棚田と石積み棚田・山頂の棚田,千葉県の用水源の無い棚田,新潟県の棚田など)の水田や関連施設を紹介します。さらに,世界(インドネシア,タイ,台湾,大韓民国,中国,フィリピン,ベトナム,アフリカ:コートジボワール,イタリア,フランス,オーストラリア,米国:アーカンソー州・サンフランシスコ州・テキサス州など)の水田や関連施設も学びます。
2)毎回,授業の最後に,授業の内容について小テストによる質疑を行います。
3)基本的な事項からかなり平易に解説します。
・日程
この授業は原則として毎週月曜日3~4校時,以下のテーマと順序,主な内容で行います。
第1回目 授業のすすめ方とガイダンス―農村計画学の役割と倫理観―
第2回目 農業生産計画論 1.農村計画と計画理論の意義と定義 2.農業生産の意義 3.農産物の持続的高品質安定多収の理由
(内容)農村計画を策定する上で最も大切な点について解説します。また,農作物のうちイネに焦点を当て,高品質多収稲作を持続的に展開した東北地方の篤農家による『イネ成長と栄養のとらえ方』を学び,土壌と水の管理計画について考えます。
第3回目 水田灌漑計画論 1.灌漑の意義 2.水田灌漑水の収支と灌漑計画
第4回目 水田排水計画論① 1.水田浸透(地域差の把握) 2.生産力と灌漑排水操作 3.20万年前の植生の根成孔隙造影(主担当教員撮影)
(内容)水田(タイのラテライトなど)や畑地,森林の土壌構造を造影した軟X線写真を紹介します。さらに,高品質多収水田の土壌内部構造から,水田浸透の役割と作土深について考えます。
第5回目 水田排水計画論② 4.地下水位と浸透水量が水田基盤構造におよぼす影響 5.湛水と浸透水による土層分化 6.圃場排水計画
第6回目 農地汎用化計画① 1.日本の農法の特徴 2.輪作と生物多様性の保全
(内容)農法の技術発展史における『EU諸国と日本の農法の違い』から,農業を同一の所にとどまらせ,豊富に収穫することを探求し続けた農業,つまり集約農業を展開してきた日本の農法を解説します。特に多様な生物の『住み分け』が一つの秩序を保っている田畑輪換(汎用農地)に着目し,『生態系の進化』という観点から,その優位性と持続可能性を考えます。
第7回目 農地汎用化計画② 3.台湾の立地と気候 4.華南大圳での成功例
(内容)戦前,台湾で日本の土木技術者が建設した灌漑施設を紹介します。三年輪作給水法によってもたらされた多くの成果から,現代や未来にも通じる農地汎用化の意義を確認するとともに,SDGs(持続可能な開発目標)の達成に向けた技術者の倫理観を学びます。
第8回目 農地汎用化計画③ 5.暗渠による水制御-農地の垂直構造- 6.区画整理と集団化-農地の水平構造- 7.土地利用の高度化(多彩な展開)と地域ぐるみの複合体経営
(内容)田畑輪換を行うことで様々な利点があることがわかっていながら,田畑輪換が日本全国に広まらないのはなぜでしょうか?その疑問に答えるとともに,現在までに開発された日本の技術力を駆使した解決策と今後の展開について考えます。
第9回目 ほ場整備計画論① 1.ほ場整備工事と土木工事の相違点 2.庄内での成功例 3.整備ほ場の基盤構造の仕組み
(内容)現在のほ場整備は既存水田の区画形質の変更を主に行います。一方で,国内での米価の維持と米消費量減少への対応の施策として,水田で畑作ができるように暗渠排水を施工する等,汎用化を目的とした整備も進めています。今後,わが国の農地には,国際的な潮流から,高品質な農産物や加工品の輸出増大といった,国際競争力の強化が期待されています。それに応えるために,ほ場整備に期待されることは,生産力が限界に達しているほ場に活力や再生力を与えるとともに,一つのほ場が,いつでも水田になり,畑地になり,牧草地や樹園地になるような『自由な地目』につくり変え,農家が有する可能性と潜在力を十分に発揮できる環境に整備することです。その際,注意しなければならない点や目のつけどころなどを,現在までに開発されたわが国の整備技術を解説しながら,三回に分けて学びます。
第10回目 ほ場整備計画論② 4.難透水性土層への整備とその工程について,農家(使用者)の視点から解説します。
第11回目 ほ場整備計画論③ 5.整備圃場の独自性と連帯性 6.巨大区画での大規模集約農業とICT(スマート農業)の展開
第12回目 環境保全計画論① 1.森林と農地 2.畑地からの窒素流出とその防止方法
(内容)近年,東アジアで消費される窒素肥料は40年余りで約30倍に増え,世界の使用量の半分を占めます。地球全体では窒素は限度の3倍を超えているとの試算(ストックホルム大学の研究機関)もあります。こうした現状を踏まえ,授業では二回にわたって,欧米諸国から世界中に次第に拡大している窒素問題について解説するとともに,農地・農山村での『窒素を中心とした水質に関する種々の現象』を解説し,現在行われている窒素対策の限界と今後の指針について考えます。
第13回目 環境保全計画論② 3.水田からの窒素流出とその防止方法 4.棚田・谷地田の存在意義と保全
第14回目 環境保全計画論③ 5.地球温暖化阻止に向けた農地環境の取組みと成果 6.窒素をわたしたちの生活の視点から考える 7.森林環境の重要性
(内容)農山村の地球温暖化への影響を解説するとともに,地球温暖化阻止に向けた整備ほ場の研究成果と展望を紹介します。さらに,私たちの家庭から排水される汚水の処理の現状から,森林流出水による希釈の役割について解説します。その役割が発揮されるためには,森林土壌や樹木を侵食や物理性・化学性・生物性の劣化から守る『森林保全に十分配慮した森林管理』の重要性を認識するとともに,計画的な間伐などを適切に行うといった,適正な森林管理を請け負う,新たな事業主体が創出されることもまた大切である,ということを学びます。
第15回目 まとめ-自然と人間との共生の視点からみた,農山村での今後の環境整備計画

【学習の方法・準備学修に必要な学修時間の目安】
・受講のあり方
1)プリント資料の重要部分に線を引くなどして活用してください。
2)授業で示される資料やパワーポイントを参考に授業内容をノートなどに筆記するなどして内容の理解に努めてください。その際,言われたことを鵜呑みせず,自分の頭で考えてください。
・授業時間外学習(予習・復習)のアドバイス
本授業科目では,以下の課題等を課します。単位制度の実質化のため,授業外における以下の予習・復習等の自主的な学修に取組んでください。
1)準備学修に必要な学修時間の目安は以下のとおりです。
2時間/週
2)各回の授業において,授業内容について小テストを実施します。毎回,しっかり準備してください。
3)指定されている参考書や次回のプリント資料に目を通して,内容の適切な理解に努めてください。
4)授業内容とそれと関連する参考書の箇所について,各自で整理し,自分用のノートを作成してください。整理する際,自ら図書館やインターネットで自分なりに調べて,理解を深める努力が不可欠です。
5)小テストの内容について,正解と照合し解き直すとともに,図書館やインターネットを活用し,情報を収集し,整理しながら復習し,自分の考えをまとめてください。
6)回を重ねるごとに知識の連携が必要になるので,プリント資料と小テストの該当箇所を自分で探し関連づけることが重要です。
7)わからないことは担当教員に遠慮なく質問してください。

【成績の評価】
・基準
合格の基準:授業終了時に,農村計画学に関する,授業の到達目標に示した以下の三つの事項について,授業をとおして得られた知識や経験に基づいて主体的に考察し,それぞれ適切に説明・模倣・討議できることが合格の基準です。
1)農山村地域の実態について,地域環境整備の背景・基礎となる科学的知見の進歩の観点から述べることができる。
2)計画立案事例を模倣できる。具体的には,授業をとおして得られた知識や経験に基づいて,計画立案事例の問題点の改善方法について,主体的に考え,準備し,模倣できる。
3)農山村地域の未来を切り拓く地域環境整備の視点から環境に配慮した農村計画について,討議できる。具体的には,農村計画学の諸問題に関する基本的な概念や用語を正しく理解し,地域環境整備の視点から環境に配慮した農村計画について討議できる。
・方法
授業出席回数が大学基準(「1/3を超える欠席」は不可)を満たす者について,小テスト(各100点満点)の合計を,テスト回数を考慮して100点に圧縮し,成績を評価します。
1)小テストの合計を100点に圧縮。

【テキスト・参考書】
1)主担当教員が作成したテキストのうち,次回の授業内容に該当するテキスト(プリント)を毎回配付します。
2)この授業の参考書として『農業農村工学ハンドブック((社)農業農村工学会),2010年』,『佐藤洋平 監修,「日本が誇る世界かんがい施設遺産」(東方通信社(ティ・エー・シー企画)),2019年』があります。

【その他】
・学生へのメッセージ
1)「知識の欠落」は「頭の鈍さ」と一緒ではありません。「知識の欠落」から生じた「独創性」も大事にしてほしいと思います。
2)知識の量が増えた後でも「知的興奮」が持続し,今までの農業に対するイメージが大きく変わるほどのインパクトを体験できれば,よく勉強したといえるでしょう。
3)理系・文系を問わず,学生の積極的な参加を前提とした授業です。
・オフィス・アワー
1)授業時間外に学生の質問に答える「オフィス・アワー」を石川雅也研究室(2号館2階2252号室)において,授業終了後(月曜日)から1時間と木曜日の12:00~13:00の間に設けます。
2)会議や出張などで不在にすることもあるため,確実に面談したい場合は事前にWebClassでのメールなどで予約をお願いします。メールアドレスなどの連絡先についてはWebClassと初回の授業,コース・オフィスアワーの掲示(掲示板)でお知らせします。

60500172-2025-06-69305