【授業の目的】
本講義では、一般的に「消費者法」と呼ばれる、民法及び一部行政法の特別法たる法について扱う。そもそも、「消費者法」と謂うが、その内実は、主として消費者契約法、製造物責任法や特定商取引法などの総体であって、あくまでも「消費者法」という名そのものの法が存在しないことには留意されたい。また、学生諸君らが日々手にする商品の形態や内容が目まぐるしく変化するよう、消費者法の具体的態様も(その根本理論を維持しつつも)変化して之くものであるため、新たな技術が登場した際、どのように検討すべきかまで含めて検討できるように、細部の処理に触れつつも、基幹理論についての検討を行う。
【授業の到達目標】
1. 「消費者法」は、民法一般法に対してどのような立ち位置にあり、どのような弱点をカバーしてきたかを説明できるようにする(知識・理解)。 2. 消費者契約法や特定商取引法それぞれの射程や構造の違いを説明できるようにする(知識・理解)。 3. 「消費者の権利の実現」に於いてどのような問題があり、どのような施策が為されているかを学んだ上で、将来的な制度設計を思索する能力を身につける(技術)。
【授業概要(キーワード)】
新領域法学、消費者保護、契約法、不法行為法、法と経済学、意思理論、AI
【学生主体型授業(アクティブラーニング)について】
B-1.学生同士の話し合いの中で互いの意見に触れる機会がある。:1~25% C-1.自分の意見をまとめて発表する機会がある。:1~25%
【科目の位置付け】
本科目は、民法契約法及び不法行為法の応用分野であるため、これらに該当する科目を履修していることが望ましい。尤も、あくまでも受講要件とはしない。
【SDGs(持続可能な開発目標)】
01.貧困をなくそう 02.飢餓をゼロに 03.すべての人に健康と福祉を 04.質の高い教育をみんなに 05.ジェンダー平等を実現しよう 06.安全な水とトイレを世界中に 07.エネルギーをみんなにそしてクリーンに 08.働きがいも経済成長も 09.産業と技術革新の基盤をつくろう 10.人や国の不平等をなくそう 11.住み続けられるまちづくりを 12.つくる責任つかう責任
【授業計画】
・授業の方法
本講義は、所謂「講義形式」を基本とするが、逐次学生間でのディスカッションを行う。
・日程
1. 「民法」と「消費者法」の関係: 「卵豆腐事件」を題材に 卵豆腐事件(岐阜地判大垣支部昭和48年12月27日判タ307号87-101頁)を参考に、所謂「消費者法」が存在しない場合の法的処理や、消費者が原告である場合の消費者の立証責任等についての検討を、逐次学生に質問を行いつつ検討する。 2. 「民法」と「消費者法」の関係: 民法上のどの訴権に対応するか? 第一回講義で扱った卵豆腐事件のおさらいを行い、その上で「製造物責任法」と民法の対応を検討することで、民法のどの部分との関係で特別法となるのかを検討する。また、これに対比する形で、「消費者契約法」が民法のどの部分との関係で特別法となるのかを検討する(これまでの民法理論がどのように応用されているのかという点を明らかにすることで、感覚を掴むことを狙いとする)。 3. 消費者契約法①: 総論(消費者契約法の射程)(教科書: 第6章) 今回より、消費者契約法の具体的内容について踏み込んで之く。今回は、消費者契約法の射程についてレクチャーを行った上、どういった場合が適用事例に該るか、設問を用意した上で、学生諸君によるディスカッションを行ってもらう(特に、次回以降の内容は、この射程に該当しない限り適用されないものであるため、この段階でよく考える必要がある)。 4. 消費者契約法②: 契約締結過程及び有効性への修正(教科書: 第6章) 今回は、前回検討した射程に該当する場合に、法はどのような修正を加えているかにつき、とりわけ民法一般法上の契約締結過程・有効性に関する議論と対比しながら検討を行う。 5. 消費者契約法③: 不当条項規制(教科書: 第7章) 今回は、消費者契約法で特に問題となる不当条項規制について検討を行う。また、進度によっては、民法上の定型約款(民法548条の2以下)との関係についても触れる(特に、同条成立背景も踏まえ)。 6. 製造物責任法 製造物責任法に関する事例を用いた検討。法の概要を説明の上、同法に於ける「製造物」該当性について、イシガキダイ事件を参考にディスカッション交え検討する。また、国際取引に於ける製造物責任について。 7. 特商法①: 総論(特商法の射程とその限定について) 今回より、特定商取引法の具体的内容に踏み込んで之く。今回は、特定商取引法の射程について述べた上で、その射程の限定について、公法的性質の観点から検討を行う。 8. 特商法②: 訪問販売、電話勧誘、通信販売、インターネット取引(教科書: 第8, 9章) 今回は、所謂「クーリング・オフ」と、インターネット取引等への拡張としての「法定返品権」の異同及びその趣旨の検討・見直しを行う。 9. 特商法③: マルチ商法・連鎖販売取引(教科書: 第10章) 今回は、前回の内容を踏まえた上で、マルチ商法・連鎖販売取引について検討する。また、これらが何故規制に値するのか、経済的観点からの検討を行う。 10. 特商法④: 特定継続的役務提供契約(教科書: 第11章) 今回は、特定継続的役務提供契約につき、まず「特定継続的役務提供」にはどのようなものが該るのか、NOVA事件を基に基本的レクチャーを行った後、学納金返還訴訟を論じた後、これを題材として事例が異なった場合(例えば、大学ではなく私塾が相手だったらどうか?)にどのように検討されるかを扱う。 11. 消費者信用取引(教科書: 第12, 13章) 今回は、消費者信用取引につき、割賦販売法と貸金規制について検討を行う。それにあたり、とりわけ貸金規制に関する社会問題的背景や、進度次第で、国際取引に於ける留意などを検討する。 12. 広告・表示規制(教科書: 第14章) 今回は、広告・表示規制について、クロレラチラシ事件を題材に検討を行う。その上で、近年の社会的事例としての、ソーシャルゲームに関する問題も一部取り扱う。 13. 消費者の権利実現にかかる問題①: 消費者紛争の性質と問題点 消費者紛争(訴訟に限らない)に於いて、屡々その少額多数性から、消費者に於ける権利の実現コスト、またはそのインセンティブが問題となる。アメリカに於けるクラスアクションや、アメリカ・中国に於ける懲罰的損害賠償のメリット・デメリットについて述べたのち、日本が行なっている施策(e.g.二段階訴訟; 東京医科大学事件を題材に)等について扱う。 14. 消費者の権利実現にかかる問題②: 消費者ODRの可能性、AI技術による補助の可能性 前回の内容を踏まえ、消費者の権利実現について、訴訟手続き以外の施策(ODR補助)や、インセンティブ設計についての現状と課題を概説する。 15. 教場試験 後述。
【学習の方法・準備学修に必要な学修時間の目安】
・受講のあり方
① 講義内容について、必ずしも全ての内容のノートテイクは求めませんが、必要に応じてノートや教科書等に各人のメモを加えるなどの形で、後で自身が見直した際に理解できるようにしておくことを求めます。 ② 六法は常に持参してください。特に、条文中のどの文言にどのような解釈・争いがあるかは、法文解釈に於いて最も重要なものとなります(テクスト研究的手法)。 ③ 適宜ディスカッションを行うため、授業中は集中し、自身の考えをまとめておいてください。尤も、理解できないという場合は人間である以上誰しもありますので、その際は直ちに挙手の上、質問してください。この世に愚問はありません。あるとすれば、それは「これは愚問であるか?」という問いのみです。
・授業時間外学習(予習・復習)のアドバイス
・予習: 上記・授業計画に挙げたキーワードを指定教科書や図書館などで調べてみてください。 ・復習: レジュメを読んだ上で、レジュメにも指定教科書のページを予め脚注に書いておきますので、それに従って併せて復習してください。 ・教員への個別質問: 授業後に質問に来るでも良いですし、下記オフィスアワーに弊研究室にいらっしゃった場合、対応致します。本講義の担当教員は質問されるのが大好きなので、恐れずに質問に来てください。
【成績の評価】
・基準
消費者法分野の基礎知識の定義を適切に理解しているか、そして、その内容を個別具体的事案に適用し、扱うことができるかを問う。その意味で、定義・議論に関して記述する抽象問題を2題(30点*2)、事例問題を一題(40点)の100点満点とする(評価への割合はこれを以て100%とする)。
・方法
方法としては、上記の通り、期末試験100%とするが、上に述べたように、本講義は講義内にて適宜学生の発言を促す目的で、積極的な発言を行なったものは、その正誤に関わらず加点する場合がある(評価は試験100%として行うが、加点要素とする)。
【テキスト・参考書】
1. 中田邦博・鹿野菜穂子(編)『基本講義消費者法 [第5版]』(日本評論社、2022) 2. 河上正二・沖野眞已(編)「消費者法判例百選[第2版](別冊ジュリスト249号)」 (有斐閣、2020)
【その他】
・学生へのメッセージ
消費者法は、屡々「弱者保護」のための法と誤解されますが、当事者同士の強弱というより、個別具体的な事例に於ける情報の支配の観点から検討すると、なぜ民法のみではいけないか、或いはなぜ民法とユースケースが分かれているかが理解し易いと思います。上記「情報の支配」の観点から、民法典と消費者法、或いは消費者法とその他関連法の構造を意識してみてください。
・オフィス・アワー
月曜日13:00-14:00を予定しているが、変更の可能性有。尚、森研究室(人文社会科学部1号館3階)の表示が「在室」の場合は応答可能である可能性が高い。アポイントメールを戴ければ、最も確実である。
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