【授業の目的】
我々の日常生活に於いては、様々な法律関係が張り巡らされている。その中でも、とりわけ、日常の消費活動に関わる法律全般及びそれにかかる理論を「消費者法」と呼び、とりわけ「情報(Information)」の観点から衡平を保つ「法則」の検討が為されている。本講義では、これにつき、学生諸君を「消費者」として想定した上での知識は勿論、各学部学生が将来、就くであろう職業上、「事業者」として課せられる諸義務が「何故存在するのか?」という疑問の解決となるべき基礎理論の修得を第一の目標とする。第二に、かかる「情報(Information)」に関わる「情報学(Informatics)」的知見からの現代技術の適用可能性と限界を検討する能力の陶冶を目標とする。
【授業の到達目標】
・「消費者」としての権利を用いた「防衛術」【知識・理解】。 ・「事業者」として課される義務の「理由」を知り、理解する【知識・理解】。 ・「技術」の導入にあたって起こりうる問題の所在を検討できるようにする【技術】。
【授業概要(キーワード)】
消費者法、法と情報学(Juris-Informatics)、リスク分配、契約法、不法行為法、コンプライアンス
【学生主体型授業(アクティブラーニング)について】
B-1.学生同士の話し合いの中で互いの意見に触れる機会がある。:1~25%
【科目の位置付け】
本科目は、基盤教養での開講であるため、法学と計算機科学の交錯的課題について扱う、学際科目である。勿論、学際的教養科目としての側面も持ちつつ、以下の如き実用も念頭に置いている。例えば、自身の「防衛術」のための消費者法の側面もあるし、反対に、学生自身が、将来、事業者・製造業者等として社会に関与する際のコンプライアンス基礎としての消費者法を予め学ぶことでリスクを回避することが可能となる側面も存する(医事法、金融商品取引法や宅地建物取引業法など一部の諸業法にも消費者法的原理類似の原理が働いてることがあるため応用可能)。
【SDGs(持続可能な開発目標)】
01.貧困をなくそう 03.すべての人に健康と福祉を 04.質の高い教育をみんなに 05.ジェンダー平等を実現しよう 06.安全な水とトイレを世界中に 07.エネルギーをみんなにそしてクリーンに 08.働きがいも経済成長も 09.産業と技術革新の基盤をつくろう 11.住み続けられるまちづくりを 12.つくる責任つかう責任
【授業計画】
・授業の方法
原則、講義形式で行うが、適宜学生諸君にも思考訓練の一環として、教員側から議論を求めることがある。その場合、上記の趣旨に照らして、答えが誤っていても減点することはしないし、寧ろ、諸君の率直な考えを聞いた上で、授業内容も適宜調整し、より理解の進む講義としたいため、誤りを恐れずに積極的に議論に参加して戴きたい。
・日程
1. ガイダンス(オンデマンド形式) 全体の概観についての説明。 2. 「教養」としての消費者法概論①: 「消費者法」と呼ばれる法ないしその具体化たる法律群が、消費者側及び事業者側双方の視点から、社会にどのように関わるかを俯瞰する。なお、医事法や金融商品取引法等の隣接分野の領域で、消費者法と通じる理論に基づく事例についても扱う。 3. 「消費者法」の法典アルゴリズム①: 消費者法と呼ばれる法律群は、法学上「特別法」として扱われる領域であるが、その対義語たる「一般法」とはどのようなもので、どのような性質のものであるかの検討を行う。これを、法典(コード)の中での構造として論じる意味で、アルゴリズム的検討と呼ぶ。 4. 「消費者法」の法典アルゴリズム②: 前回講義の内容を踏まえて、具体的事例を俯瞰し、「一般法」だけでは何が問題で、「特別法」、特に消費者法がどのような「修正」を加えているのかについての検討を行う。 5. 消費者契約法①:消費者契約法上の「消費者」の定義と趣旨 消費者法として括られる法律の一つであるところの、消費者契約について扱う。今回は、特に消費者契約法の射程(適用範囲)と、それに照らした一般法の「修正」の趣旨についての検討を行う。 6. 消費者契約法②:消費者契約法上の「契約法」の修正 消費者契約法の適用範囲につき、具体的なネット上のサービスを挙げつつ、その適用限界についての理解を深める。 7. 特定商取引法①: 消費者契約法より具体的且つ強力な「契約の修正」 特定商取引法という、消費者契約法に類似するが、一方で特定の数種類の業態に於ける取引(特定商取引)に限定した上で、より細かく強固な規定を置く法律について、その趣旨と射程(及び限界)について検討する。 8. 特定商取引法②: 各論 特定商取引法各規定について、具体的事例を挙げながら逐条的に検討を行う。また、これらが何故規制に値するのか、経済的観点からの検討を行う。 9. 特定商取引法③: クーリングオフと経済学 クーリングオフ制度趣旨と(通信販売等に於ける)「返品権」との異同。また、その意義について、経済学的検討を行う。 10. 製造物責任法①: 製造物責任法の意義について、「卵豆腐事件」を題材に、「情報」の支配者を考えた後、製造物責任法の意義について、その趣旨、定義、射程を具体的事例の上で検討する。特に「イシガキダイ事件」を参考に「製造物」の定義を具体化を行う。 11. 広告・表示規制: 今回は、広告・表示規制について、クロレラチラシ事件を題材に検討を行う。その上で、近年の社会的事例としての、ソーシャルゲームに関する問題も一部取り扱う。 12. 消費者と「情報(Information)」①: GDPRと個人情報の支配 消費者の保護の一環として、消費者が自身の情報を「支配する」或いは「支配可能」な状態にするためにどのような検討が為されているか。また、その批判。 13. 消費者法と「情報(Information/Informatics複合)」②: 「適合性原則」とAI 消費者法や金融商品取引法に於ける「適合性原則」とロボットアドバイザー(AI)による処理の問題点。および自動運転車(Lv4, Lv5)に於ける責任主体について。 14. 消費者法と「情報学(Informatics)」: 消費者の権利の実現にかかる諸問題 消費者紛争(訴訟に限らない)に於いて、屡々その少額多数性から、消費者に於ける権利の実現コスト、またはそのインセンティブが問題となる。アメリカに於けるクラスアクションや、アメリカ・中国に於ける懲罰的損害賠償のメリット・デメリットについて述べたのち、日本が行なっている施策(e.g.二段階訴訟; 東京医科大学事件を題材に)等について扱う。その上で、消費者アドバイザーとしてAIを活用する可能性と、その困難性(特に、GPT 4.0にかかる問題)について検討する。 15. 教場試験若しくはレポート 第一回〜第二回に於いて、学生諸君と協議の上決定する。
【学習の方法・準備学修に必要な学修時間の目安】
・受講のあり方
① 講義内容について、必ずしも全ての内容のノートテイクは求めませんが、試験を行う場合は持込可とするため、後で自身が見直した際に理解できるようにしておくことを求めます。 ② 教養科目であることに鑑みて、資料は適宜配布する(テクスト研究的手法)。 ③ 適宜ディスカッションを行うため、授業中は集中し、自身の考えをまとめておいてください。尤も、理解できないという場合は人間である以上誰しもありますので、その際は直ちに挙手の上、質問してください。この世に愚問はありません。あるとすれば、それは「これは愚問であるか?」という問いのみです。
・授業時間外学習(予習・復習)のアドバイス
・予習: レジュメを読んだ上で、レジュメにも指定教科書のページを予め脚注に書いておきますので、それに従って併せて復習してください。 ・教員への個別質問: 授業後に質問に来るでも良いですし、下記オフィスアワーに弊研究室にいらっしゃった場合、対応致します。本講義の担当教員は質問されるのが大好きなので、恐れずに質問に来てください。 ・その他: 日々の消費者関係のニュース、例えばリコール問題などもそうですし、最近ですと、高校生による「後払い」サービスにおける諸問題などにアンテナを張ってみてください。
【成績の評価】
・基準
上記の内容を「知識」として身につけ、それを適用できるかの「技術」ないし理論に基づく「応用」が可能であるかを図るべく期末試験もしくは期末レポート(受講者との協議の上決定する)にて100%決する。但し、欠席が4回以上となった場合、上記採点の対象としない。
・方法
教場試験もしくはレポート100%
【テキスト・参考書】
消費者法判例百選 [第2版]
【その他】
・学生へのメッセージ
「授業の目的」欄にも記載したが、高等教育機関たる大学に進学した諸君は、将来的に、事業者側として責任ある立場につく可能性が高い。そこで、「消費者法」を以て、消費者としても事業者としても、法的防衛手段として戴きたい。また、諸君らが大学で学ぶ学問は多岐にわたり、その何れもが社会的影響を及ぼしうる。その観点から、特に社会、情報(Information)、情報学(Informatics)がどのように関係してくるかを学び、それらの意味で、本講義を「教養」として戴ければ幸いである。
・オフィス・アワー
月曜日13:00-14:00を予定しているが、変更の可能性有。尚、森研究室(人文社会科学部1号館3階)の表示が「在室」の場合は応答可能である可能性が高い。アポイントメールを戴ければ、最も確実である。
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