学生の「主体性」と大学からのかかわり
筆者は，大学専任教員となってから日はまだ浅く，
学生が主体性をもつということや，専門知識を深く学ぶということの難しさを感じながら，日々指導をおこなっているところである。
難しさの原因の一つとして，学生たちが大学教育全体から何を獲得したいと思っているのかということや目標設定が十分ではないことが挙げられる。
現在は学際領域が広がっているといわれることがある。このことは，特定の学問を自ら選択することが困難であることを意味するともいえるだろう。
また，たとえ経済学・経営学をやりたいといっても（本学は，経済学部の大学である）いまだ「経済学のなにをやりたいのか」は明確にしていくことは難しいかもしれない。
このように，少なくとも入り口段階において，学生がある学問体系を自ら主体的に学ぶということは，困難なことであろうと考えられる。
大学教育によって得られる専門能力を十分に特定できていないからである。したがって真の意味で「主体的に」なりきるということを学生に単に任せておくのは一般に難しいであろう。
しかし，大学の方から学生に期待・要求する資質は，仮にそのような主体性が十分ではない学生たちにとっても大きなものであり，
獲得できさえすれば，どのような道に進むにしても大きな武器になるに違いないのである。
したがって，学生の（不確かな）期待と大学から学生に求める（確たる）資質の間隙をどのように埋めるのかが重要であり，筆者は，大学が学生に求める資質に関して，
より具体的でわかりやすい提示が必要であると考える。いうまでもないが，これは，シラバスやディプロマポリシーによってすでに提示されているところである。
しかし，これが学生に十分伝わっていないという認識がある。FDについての議論においてシラバスの書き方等が議論されるのはその証左であろう。
ところで，先日，卒業論文の発表会が開催され，そこで発表されたテーマは多種多様なものであったが，他方，学生によって対象としている問題への理解の深さにもバラつきがあったという感想をもった。
テーマに多様性があったのは，興味関心の異なる学生自らが主体的にテーマを決めた結果であろう。卒業論文は，主体的な学習によってはじめて完成するものであると考えることができる。
しかし各テーマの中身をみると，解決を図ろうとしている問題への深い理解が不十分であるものも散見された。当該学生の論文は，完成へ向けてさらなる努力が必要である。
筆者は，優れた卒業論文を作成させることが，大学教育の重要な目的であり，学生が期待すべきものであると考える。
そのために，取り組む問題へ向き合う主体性や，社会の現状把握・分析能力やそれへ切り込む理論への深い理解等，必要な能力がある。
学生が以上のような能力を普段の授業等で身につけるべきだと大学側が提示する必要がある。そして，多少逆説的にはなるが，
このような能力を身につけることにより学生は自らを規定して主体的な学習が可能となると考える。このことを教員が念頭において，学生にもそのことを意識させたい。
以上のように大学と学生の期待のギャップを埋めるのは，大学の方からないし個々の教員が「どういう学生になってもらいたいのか」ということを具体的に提示することであると考える。
そのひとつの例として，優れた卒業論文の完成までのプロセスを普段の大学教育において提示し，学生と共有したいと考える。
