自らの授業において「学生たちの学びの質を高めるには何が必要か」ということを授業改善の視点から考察するとき,二つの要素があげられると考えている。一つは,教授する内容の専門性を深めることである。そこには最新の知見と歴史的背景の提示が求められる。もう一つは,教授する方法を工夫することである。そこには学習者が主体的に考えを巡らせる仕組みが求められる。
かつては,「学問そのものに魅力があり,高い専門的知見を伝えることこそが,学ぶ意欲を高めるとともに学びの質をも高めていく」といった考え方があった。しかし,1960年代以降,特に認知心理学が学習観に影響を及ぼすようになってからは,「いかに学習者の表象に働きかけるか」や「学習者の思考を促す活動とは」といった,まさに授業改善や授業向上を求められる方向に進んできている。
[広辞苑,2021]は,『「講義とは,学問研究の一端を講ずること」であり,「授業とは,学問を教え授けること」である。』と定義づけている。この二つの発信力を"講義力"と"授業力"とし,それらと上述したことをふまえるならば,高等教育における授業者は,講義力と授業力を共に高める必要があると読み取れる。それは,授業者にとって,自らの専門性を高め続けるにとどまらず,その内容を学習者に効果的に教授する工夫をしていくことを求められているに他ならない。そして,ここで注視すべきは,専門性に強くかかわる講義力は個人の研鑽によって高めうるが,一般性が担保される授業力は他者との比較によってより効果的に高めることができるということである。
日本の初等・中等教育においては,授業力が強く求められている。よって"授業研究"という諸外国においてもその効果が認められている日本独自の研修制度が存在する。この方法は高等教育ではそぐわない方法かも知れない。しかしながら,教員の多忙化を促進してしまうことのない範囲で,高等教育における適切な研修機会はどのようにあればよいのかを考えることは,講義力のみならず授業力までも求められている高等教育のこれからの時代に向けてSD・FD委員会が求められている大きな課題であると考えている。
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