近年の大学教育は、アクティブラーニング等による主体的な学びをますます活発化させています。その一方で、自己肯定感を減退させて他者とのかかわりそのものを拒絶してしまう学生も少なくありません。そこで、「対話」を主軸とした少人数ゼミナールを、学部や学年の異なる学生たちが集う全学共通科目として開講することにしました。
対話は、徹底的なプロセス志向です。これまでの人生の様々な場面で身に着けてきた価値観や「あたりまえ」を問い直すことに、最も価値をおきます。その問い直しの過程で生じる紆余曲折や葛藤、場のダイナミズムこそが、深い学びの素材となるのです。社会構成主義(社会の最小構成単位を個人ではなく「関係」とみなす思想)と呼ばれる、一見すると常識外れの考え方を共有することも、学生たちにとって良い刺激となっています。ある学生は、このゼミ全体を包む雰囲気を指して「親近感と異世界感の共存」と表現してくれたこともありました。
対話の場を成立させるうえで重要なことは、互いの異質性を尊重しあいながら自分の考えを安心して率直に表明できる空間、いわゆる「心理的に安全な場」の形成です。この心理的安全性を高める工夫として、ゼミの始めと終わりに「今この瞬間に自分の心に浮かんでいる考え」を共有する時間をとるほか、学生同士の対等な発言を促す小道具(トーキングオブジェクト)を導入しています。金曜日の最終コマに開講することも、「いま」「ここ」への意識の傾注を促し、心理的安全性の向上に貢献しているようです。実際に、コミュニケーションに抵抗感をもつ学生ほど、対話の空間によく馴染んでいるように思います。
ゼミに参加した学生は、「考えをまとめてからでないと話せない自分に気づいた」「先ほどの場は内輪感が強くなりすぎて周囲への配慮が欠けてしまっていたのではないか」などと語り、実際にプロセスの学びを日常生活や大学の学業、サークル活動に生かす学生も現れ始めました。自分・他者・場のプロセスそのものが掛け替えのない学びに満ちていることを、学生たちから日々教えられています。
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