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 北海道薬科大学  野呂瀬 崇彦
 



 

薬学教育が6年制に移行した8年前、私は医療現場を離れて大学教員になった。以来、薬剤師実務経験のあるコミュニケーション教育担当教員として、薬剤師が患者さんやご家族とどのように関わるべきか、に関する授業を担当している。その学習方略の一つに、「模擬患者参加型ロールプレイ」がある。読んで字のごとく、患者さん役を演じる一般市民である「模擬患者」さんと学生が、医療におけるコミュニケーション場面のロールプレイを行うトレーニングである。学生はロールプレイで薬剤師役を演じる中で、さらには模擬患者さんからのフィードバックを通じて様々なことを学ぶ。

 

一昨年の冬、4年次学生のロールプレイ実習を終えて、最後に模擬患者さんから少しお話をしていただく機会があった。50代女性のその模擬患者さんは、こんな話をして下さった。

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「身だしなみとか言葉づかいとかって大切だと思うんです。でも普段私が薬局に行ったときに、そこを注意深く見ているかというと、そんなことはありません。なので、どうして私は『見た目。清潔感が大事』だと思うのかなーって考えてみたんです。普段病院や薬局では、具合悪いし、意識の半分は『早く帰って休みたい』と思ってて、半分は『ひとまず自分の薬のことは聞いとかなくちゃ』って思ってるんです。だから服薬指導のときは薬のことだけに自分の意識を集中しておきたい、というのが本音です。でもそんなときに薬を説明してくれる薬剤師さんの髪がボサボサだったり、爪がのびてたり、マニキュアがべったりだったり、白衣がきたなかったり、言葉づかいが乱暴だったりすると、そっちに気が行っちゃうんです。ただでさえ具合が悪くて集中できる自分の意識が少ないのに、そっちに気が行っちゃうと薬のことに意識を向けられないんです。そうすると、説明をされても頭にはいってこないし、説明を受けても自分の家に帰ったら何を言われたか覚えてないんです。もっとひどい場合は、おんなじ薬なのに、そういう薬剤師さんからもらうと『この薬大丈夫かな?』なんて思ってしまうこともあります。『見た目、清潔感、言葉づかい』はきちんとしてて当たりまえで、それができてないと、どんなに知識があってもインタビューされても患者にしてみれば、この人でよかったとは思えません。だから皆さんには身だしなみ、清潔感、言葉づかいを、まず第一に考えていただきたいんです。」

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背筋が伸びる思いである。薬剤師としての説明の内容とか、説明の仕方とか以前に、対人支援職のプロフェッショナルとしての「前提」を語っていただいた。

翻って「大学教員」という職業も、学生の学習を「支援」しているのだから、「対人支援職」である。往々にして私たちは、FDというと、学生に「何を」「どう教えるか」「どう評価するか」に関する、より効果的、効率的な方法を学ぶプロセスをイメージするが、そもそもその「前提」についてどれだけ意識しているだろうか?「教員」以前に、学生にとって最も身近な「社会人」として、範たる「身だしなみ」「清潔感」「言葉づかい」を実践できているだろうか?大学のユニバーサル化とともに、「社会人として役に立つ人材の育成」がその存在の第一義となりつつある今日の大学において、改めて自身の、大学教員としての立ち振る舞いをふり返るきっかけとなった、模擬患者さんのお話である。




   
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