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石巻専修大学 丸岡 泰

体験して考える
 

「人間というのは、怖いものだと思った」

これは、私の身近なある学生が、2011年3月の東日本大震災の約2ヶ月後に書いた体験記の、結びの一節である。

彼は、津波から辛くものがれたが、海の中に取り残された自分の親戚の救助に向かい、無事救出したのだという。

危険の中で人命を救ったことは大いにほめられてよい。

ところが、その後、周囲の人々に毛布や着るものを提供してくれるよう大声で助けを求めても、誰一人としてそれに応えてはくれなかったそうだ。

その体験から出てきた感想が、冒頭の「怖い」という表現だ。

これを読み、私はしばしその場の様子を想像した。津波が来た住宅街で、誰かが助けを求めている。しかし、町中が海水につかっている。皆、自分と家族のことしか考える余裕はないだろう。見知らぬ人に毛布や着るものを探してやることができなくても、それはやむをえないと思う。自助しかない状況だったのではないか。

私の大学は震災・津波で最も多くの犠牲者を出した宮城県石巻市にある。震災以後、私の教育上の課題は、体験を学生の成長につなげることである。

上記の文章を書いた学生は、本人と家族に被害はなかったものの、命の危険にさらされた一人だった。体験として、これほど激しいものはあまりない。

ただ、その体験から出てきた、人間は「怖い」という言葉には違和感があった。人の助けを期待しすぎではないのか。大学生にしては、少し、周囲への依存心が強いのではないか。

山形大学が進める大学間連携事業「つばさプロジェクト」には、「大地連携」という概念が使われている。これは「大学と地域の連携」をさす造語だが、学生が地域の人々と協力して地域社会の問題に取り組めば、視野を広げる良い機会になると思う。

少子化・高齢化・人口流出など、今の自治体が抱える社会問題に、多くの学生は無関心に見える。ほとんどの学生は何らかの役割を果たせるとも思っていないようだ。テレビ、ネット、ゲーム、単位、就職ほどには、自分が属する地域社会に関心が向かいにくい。

本来身近なはずの地域の人間も自然も、意識の中では近くはない。それを近づける体験機会が必要である。その意味で体験を通じた学習には大賛成だが、それだけでは十分ではない。

津波で激しい体験をし、人間を「怖い」と書いた学生は、しばらく大学に来ず、その後退学してしまった。理由は、震災前からの学習動機不足である。体験について彼と意見交換をできなかったことが残念だ。また、不幸な災害を体験しても、世の中のために役立つ知識を身につけ成長することが大切だ、と思ってもらえなかったことが残念だ。

私が今確信していることは、体験即成長ではないことだ。体験を生かすには、適切な考え、体験から何かを得る考察が必要だ。それはどのような体験についても言える。教員の仕事はそこに至るための道案内である。





   
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