文教大学国際学部は2008年度より、国際的な視座から文化施設のありかたについて学び、考えていく人材の養成を目標に博物館学芸員養成課程を設置している。毎年15名前後の学生が卒業時に学芸員資格を取得しており、小規模であることを活かし新しい授業実践を試みている。
この養成課程の最初の必修科目が1年秋学期の交流文化論Aである。これは博物館概論に相当するもので、博物館の歴史や関連法規、役割、現状などを教えている。と同時に、博物館等の利用体験が少ない学生に「自分とものとの関わり」について考え、「人とものとの関わり」とは何かを実感を通して学ぶことを目標に「自分史展覧会」というアクティビティを取り入れている。
「自分史展覧会」の主人公は「自分」であり、自分が生まれてから今日まで関わってきた大切な「もの」である。この展覧会は授業期間中に4回開催され、大学編・中高編・小学校編・誕生から幼児編からなる。各回とも机上に自分にとって大切な「もの」とその解説を展示する。そして各展示を鑑賞した学生はそれに対するコメントと質問を記名入りでシートに書いてもらうことで見る側と作った側のやりとりが生まれている。
展覧会の準備段階で、学生たちは自分にとって大切な古い「もの」と向き合い、そのものへの想いが人に伝わるように解説するという作業を繰り返す。回を重ねるごとに展示の見せ方と内容のレベルが格段に向上し、学芸員の能力として不可欠な人に伝わる情報の伝え方を獲得していったことがわかる。受講後のレポートには「目の前にいる相手だけではなく、その相手の後ろ=歩んできた歴史にも気持ちを向けて人と接するように心がけるようになった」、「人間として生まれて嬉しく感じた」という声が寄せられた。人が「もの」を通して自分と向き合い、他者そして社会とも向きあう。これこそが博物館のエッセンスである。この経験が学生にとり博物館学を学ぶ上で最初のステップとなるゆえ、今後も改善してより充実した授業を目指したい。