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文教大学 亀田 裕見


「フィールドワーク授業の表舞台と舞台裏」

私が担当する日本語学の授業では知識や解釈などのデスクワークだけでなく、フィールドワークを通じての体験学習をさせるよう心がけている。私の専門が方言学であるということから方言調査に行くことが多いが、それに限らず広く現代日本語の実態を調査し、データを学生自ら収集し、整理し、分析し解釈するということをゼミや授業で行う。研究とは私たちの日常生活とかけ離れたところで行われる特殊な活動ではなく、身近な生活の中に問題があり、その中に情報や解決の道もあるのだということを知る一つの方法である。テーマや調査方法を指定して与えることもあれば、テーマから考えさせることもあり、必ずしも調査はいい結果や結論に結びつくとは限らない。うまくいかなかった学生やグループには、「その方法ではいい結果が得られないのだ、ということがあなたたちの研究成果なんだよ」と言う。それは私が自身の授業の行い方に対して思っている言葉でもある。

フィールドワークを経験するというと、本を読むのが勉強だというイメージの強い文学部というところでは、なにか華やかな楽しそうなイメージを学生は持つ。しかし、現実は、準備からしてすでに様々な困難に立ち向かわなければならない。学力より、体力的・精神的な強さが求められる。調査の実施中にトラブルに遭うと嫌になってしまったり、近年は費用がかかることや、時間がとられてバイトにいけないことを嫌がったりする学生も増えてきている。

そこで、教員としては様々な判断を要求される。どこまで学生に任せ、どこからは教員がフォローするのか。表舞台と舞台裏の調整である。

例えば、実際にあった例であるが、連絡の行き違いでインフォーマント(調査協力者)を怒らせてしまった。大学に電話が来る。さて、学生に謝らせるか、私が謝るか。このときはまず私が謝罪に行き、その後、学生に謝罪をさせた。学生によると、電話での感触ほど相手の方は怒っていなかったようである。むしろ優しくしてもらってきたらしい。はたして、私が先に謝罪に行ったことはよかったのか。むしろ、相手の怒りに学生をさらしたほうが彼らのためになったのではないか。フィールドワーカーにはフィールドを荒らさない、というルールがある。後に調査に来るほかの研究者のために、その土地で悪印象を残してはいけないのである。そのルールと本学の評判の悪化をおそれて先に教員が行動を起こしてしまったが、他の道もあったのではないか。

フィールドワーク授業の問題は、調査費用をどこまで負担させ、どこからか私が捻出するか(日本語学のこういう授業活動に対する費目部門はたいてい大学にない)。多人数調査を行うつもりが目的数に達しない、工夫のアドバイスをしてあくまで目標まで続けさせるか、私が手を貸してインフォーマントを探すか、途中で断念させるか。データの入力フォーマットから作らせるか、私が作って入力だけさせるか。尽きることはない。

これはもちろん、学生の学年や専門、ゼミ生や院生か一般学生かによっても異なってくる。院に進んで研究者になるという学生がほとんどおらず、学部4年で卒論を書いて社会に出ていく、というレベルまでの学生が多い本学では、私の舞台裏の苦労の方がどうしても多くなる。しかし、少しでも体験的学習はさせたい。学生に体験させる表舞台と自分が奔走する舞台裏の配分を、自分の体力と時間も交えて考えながら、また授業準備をするのである。


 

 

   
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