私が勤務しております人間総合科学大学は、平成12(2000)年4月に私立大学初の通信制教育課程だけの大学として誕生しました。開設時点においては通信制の人間科学部人間科学科のみでしたが、その後、通信制の大学院人間総合科学研究科心身健康科学専攻修士課程・博士後期課程、加えて、通学制の人間科学部健康栄養学科(管理栄養士養成課程)・大学院健康栄養科学専攻修士課程、保健医療学部(看護師、理学療法士、義肢装具士養成課程)が開設されました。
私自身は通信制の人間科学科に所属していますが、兼担としてこれまで通学制の学科においても授業を担当してきました。学部の1年生の授業から、博士後期課程の院生の論文指導に至るまで、幅広い年齢層の学生と接することができたのは、授業力の向上という視点からすると、多くのことを学ぶことができたと思っています。通学制の学部の学生はほとんどが18歳から22歳ほどですが、通信制の人間科学科においては学生のほとんどが社会人であり、平均年齢も30代後半です。また、通信制の大学院の博士後期課程に至っては、院生の平均年齢は40代後半であり、大学を中心とする教育職に就いている者が大半です。
通学制の若い学生には授業内容にいかに興味を持ってもらい、どうしたら効果を上げられるかといったことに心を砕きますが、通信制の社会人学生はもともと学習意欲が違います。自分の収入の中から学費を捻出していますから、授業(通信制ではスクーリングと言います)に出る際の意欲の差は歴然としています。学習意欲の高い社会人学生に対する授業は楽ではないかと想像される向きもあるかもしれませんが、現実にはそうでもありません。彼らは予習をするのはもちろんのこと、授業中にも自発的に質問もします。また、授業中には教員のしゃべり方、板書の仕方、パソコン操作などなど教員の一挙手一投足に注目しています。授業は原則として時刻通りに始めますが、理由もなく最後を短縮しようものなら、たちまち非難にさらされてしまいます。挙句の果てはネクタイの趣味にまで言い及ぶ学生も出る始末です。その意味で、社会人学生は教員が自己チェックをするにはこの上なく良い鏡でしょう。
最近は学生による授業アンケートがどの大学おいても行われて活用されているようではありますが、アンケート慣れやアンケート疲れといったことが指摘されることも多くなりました。授業アンケートを授業改善につなげる仕組みづくりと実効性の確保も重要ですが、その際にアンケート項目の点検だけでよしとするではなく、授業というものの原点に返って、捉えなおすことも必要ではないかと思う昨今です。