先日の入試の面接で、「今までで心に残った言葉はありますか」と受験生に質問してみた。受験生はその質問の準備をしていた様子。自信たっぷりと、「高校の担任から言われた言葉で、"織田信長よりも豊臣秀吉は偉い。豊臣秀吉よりも徳川家康は偉い。徳川家康よりも私の方が偉い。でも、君には私より偉くなる可能性がある"という言葉です」と答えた。先達の成功や失敗から学ぶことの重要性を説いた言葉であろうか。良い言葉ではあるがどこかで聞いたような気がした。
私は、医療系大学で理学療法学を学び、学生を指導教育する立場にある。併せて、自身の研究活動も重要な業務としている。科学や医療の進歩は、先達の研究成果や臨床経験を学び、それを基に新たな研究や経験を加えることで進歩してきた。研究計画を立案する際、研究論文をまとめる際には、先行研究にあたり、新たな研究の意義と目的を明らかにする必要がある。新たな研究を過去の研究に積み重ねることで進歩が始まるのだと思う。かのビスマルクは、"賢い者は「歴史」に学び、愚か者は「経験」に学ぶ。"と残している。確かに、自身の経験のみでは限界があり、非効率である。まず、謙虚に歴史に学ぶことが必要であろう。
これらの言葉から大学での教育を考えてみるとどうなるか。先達の残してくれた成功や失敗から多くのことを学び、それに自身の成功や失敗から学んだことを付加し、学生に伝えていくことが必要であろう。先達よりも私が偉いかどうかは別として、少なくともその情報に何かをプラスして後進である学生に伝えていかねばならない。
さて、入試が終わり、気になったのでくだんの言葉をインターネットで調べてみた。なんと、あの松下幸之助の言葉であり、近著では、西沢泰生：「大切なことに気づかせてくれる33の物語と90の名言」（かんき出版）に書かれているらしい。決して担任の先生が考えた言葉ではなかった。そこで、早速その書籍を購入し、読んでみることにした。受験生が得意気に話したその言葉は、本の一番はじめの数ページに書かれていた。「さては、本の最初だけを読んで受験対策としたな」ちょっと悔しい気分であるが、そんなことを思ってはいけない。何せ、私より偉くなる「可能性」のある学生なのだから。
