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 山形県立保健医療大学 菅原京子
   
 

知識と行為のあいだ
 江國香織と辻仁成の恋愛小説に『冷静と情熱のあいだ』がある。「あいだ」とは何か、何があるのか、思わず考えてしまう印象深いタイトルである。
 さて、私は山形県立保健医療大学で地域看護学を担当している。看護学は実践の科学である。進歩あるいは変化する医療技術や保健医療福祉制度に大学卒業後も対応できる専門職業人を養成することが求められている。
 ここで、鍵となるのが知識と行為の「あいだ」だと私は思う。例えば、ある日、保健師の家庭訪問のベースとなる乳児測定の学内演習があった。この演習では、学生が予習に基づいてグループで実施していることを教員が見て回り、必要時に声をかける教育方法を取っている。
 乳児体重計は赤ちゃんを寝かせて計測する用具で、今日ではデジタルが一般的である。しかし徒歩や自転車、電車で家庭訪問する場合、一定の大きさがある体重計を背負って行く訳にはいかない。コンパクトに折畳める布製の専用製品とバネばかりを使う。専用製品に横たわった乳児を床面から持ち上げ、引力を用いて測定するのである。
 交互に赤ちゃん人形を測定していたグループに声をかけた。「ところで、どの位持ち上げれば良いの?」。学生は顔を見合せ「うーん、考えていなかった!」。学生は予習で「転落を防止し安全に測定する」との知識は持ち、手順に沿った測定はできていた。しかし、何をどのようにすれば安全なのかを意識化した行為ができていない状況にあった。「持ち上げすぎると何がどうして危険なの?」「そのような状態をお母さんはどのように思う?」。私の問いに対し、学生はグループで話し合いはじめた。乳児の成長発達、安全、親との信頼関係を統合的に考えての実践が身に付くためには、このような試行錯誤が欠かせない。
 この場面を教育方法の理論からみれば、知識と行為の「あいだ」を学生が意識的に考えられるようにコーチングのスキルを用いて学生に問いかけ、学生のリフレクション(振り返り)を促したといえる。また、私自身のコーチングとリフレクションの知識と学生への問いを発した行為の「あいだ」にも、私の思考がある。この教員自身の「あいだ」を磨く方法としては、自分の教育実践を内省したり、他の教員の授業から学んだりする教育活動はもちろん、研究活動、さらには様々な社会活動があると考える。「あいだ」とは恋愛小説に限らず奥が深い。
 学生と教員の相互作用である授業はいきものである。いきものである授業において、知識と行為の「あいだ」をいかに意識し、実践していけるのか。日々、努力していきたい。
   
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