はばたくひと ♯36
安孫子眞鈴
2社のベンチャー企業に所属し、
アルファ化米粉の食品開発に奮闘。
2025.10.15

はばたくひと ♯36
安孫子眞鈴
2025.10.15
本学工学部を経て大学院有機材料システム研究科を卒業した安孫子眞鈴さんは、在学時に専念した米粉の研究に現在も取り組む。本学の西岡昭博教授が開発した技術「Amorfast®(アモルファスト)」の普及を行う本学発のベンチャー企業「株式会社アルファテック」と、安孫子さんが学部4年の時に仲間と起業した「インキュベーションポートやまがた株式会社」の2社に所属し、米粉を活用した食品を開発している。
非常食でおなじみのアルファ米は、炊飯した米を急速に乾燥させ、長期保存を可能にした加工米。それを粉状にしたものがアルファ化米粉だ。一般的なアルファ化米粉は米を加水・加熱し、冷却、乾燥、粉砕の工程を経て完成する。一方で、安孫子さんが研究で扱っているAmorfast®の技術によるアルファ化米粉は、水を使わずに加熱と粉砕を同時に一瞬で行うのが特長だ。シンプルな工程で粉状にできるため、省エネかつ環境への負荷を軽減し、米粉そのものの品質は格段に向上する。
安孫子さんは「一般的なアルファ化米粉は独特の香りが気になる場合がありますが、Amorfast®によるアルファ化米粉はにおいがなく、調理の際にダマになりにくいといった良さがあります」と説明する。
▲アルファテックの研究室でアルファ化米粉に水を加え、吸水状況を確認。大学、大学院時代も研究に没頭した安孫子さんは「工学部は個性豊かな先生が多く、楽しい授業ばかりでした」と振り返る。
▲Amorfast®によるアルファ化米粉。粒子が細かくさらさらとしている。一見では一般的な米粉やアルファ化米粉との判別は難しい。活用方法や魅力を広く発信し、普及させるのが安孫子さんの任務だ。
Amorfast®は本学アグリフードシステム先端研究センター(YAAS)の重点研究プロジェクトの一つにも採択されている画期的な技術。安孫子さんはAmorfast®によるアルファ化米粉を食品分野で普及させるために、製品の開発に取り組んでいる。
菓子の材料に適し、フランスの伝統菓子「カヌレ」作りに挑戦。「表面がぱりっと、中がとろっとなり、小麦粉だけで作るより食感にメリハリが出ます」と自信を見せる。ほぼ完成し、2025年内に販売予定だ。
▲Amorfast®によるアルファ化米粉を用いて作ったカヌレ。見た目は一般的なカヌレと変わらないが、食感が劇的に向上。Amorfast®によるアルファ化米粉は特に菓子作りに適している。
食品分野で新たな食材として活用が期待されるAmorfast®によるアルファ化米粉だが、一般的な米粉と同様の感覚で使うと失敗してしまう。例えばパン作りであれば、Amorfast®によるアルファ化米粉は一般的な米粉に比べて少量で十分。膨らみと弾力を生み出す力が強いからだ。
軟らかくなめらかな口当たりに仕上げるのにも向いている。例えば「卵や乳製品を使わずに、カスタードクリームのようなクリームを作ることができます」と安孫子さん。アレルギーに対応する食材としてなど、活用方法は無限大だ。
安孫子さんは株式会社アルファテックの研究員であり、インキュベーションポートやまがた株式会社の取締役CTO(最高技術責任者)でもある。どちらも米沢市に拠点を置くベンチャー企業だ。インキュベーションポートやまがたは安孫子さんが学部4年の3月に、「学んだ研究や技術をビジネスにつなげたい」と、当時の工学部と理学部の学生仲間5人で立ち上げた。
現在はこの2社が連携し、Amorfast®の普及のために商品化やレシピ開発に取り組んでいる。安孫子さんがアルファテックに入社して2年が過ぎ、測定、分析、商品開発といったアルファテックの研究員としての仕事が業務の軸になっている。完成した商品の販売先を開拓するため、営業担当者と菓子店やパン店などを訪問することもある。アルファ化米粉を広めるため、アルファ化米粉を使用した商品のオンラインショップの扱いを計画中だ。
安孫子さんは「測定や分析は装置を使ってすぐにできますが、収集したデータを元にレシピを考える作業が大変。菓子やパンの基本的な作り方を把握した上で、何度もアルファ化米粉の割合を変えながら、材料の配合、加熱時間などを探っています」と苦笑する。
研究者でありながら、時にはパティシエやパン職人のような仕事もこなしているが、「感覚的においしい菓子やパンを作るのは、その道のプロの方。私の役目はおいしさを数値で示すことです」と強調する。
▲菓子やパン作りも研究の一環のため、アルファテックの研究室には泡立て器やボウルといった調理器具もそろっている。「これまで一番苦労したのは、型を使わずに焼く手ごねパンでした」と安孫子さん。
高校時代、「大学進学は考えていなかった」という安孫子さん。しかし、高校の恩師に勧められ、化学が好きだったことから本学工学部を受験。実際に通い始めると「楽しい授業ばかり」と専門的な学びに引き込まれた。
米粉の可能性を研究する西岡教授のゼミに所属。「米粉は原料の米が国産か海外産か、さらに粉にする際の擦り方でも粘りや風味が変わります。小麦粉に比べて確立されていない未知の分野だからこそ面白いです」と、その奥深さに魅了された。
学部時代は次世代アントレプレナー育成事業EDGE-NEXTに参加し、自身の研究を世の中に役立てたいという気持ちが強まった。ビジネスアイデアを考えて各種コンテストに応募し、多くが受賞。特に思い入れがあるのは米粉のグミで、自身が菓子のグミを好きなことからひらめいた。本来、米粉はグミの材料ではないが、安孫子さんは「米粉は自分が最も知識のある分野」と学部4年の時に米ゲルを用いたグミの開発を始め、大学院有機材料システム研究科博士前期課程2年だった2021年に完成させ、「米Time(マイタイム)」の名称で発表した。
米粉のグミは元々白濁していたが、蜂蜜シロップに漬け込むことで透明感ある見た目にできた。さらに、適度な弾力を生み、保存性を高めることにも成功。次世代アントレプレナー育成事業EDGE-NEXTで知り合った菓子店と共同で製造し、販売にこぎつけた。
当時の米Timeは米ゲルで作ったが、現在はAmorfast®によるアルファ化米粉を用いて改良を進めている。近い将来、ブラッシュアップした米Timeを販売予定だ。
▲ブラッシュアップした「米Time」。「グミは高校生の時からよく食べていています。特に噛み応えのあるハードなハリボーが好きなので、米Timeも噛み応えを大切に作っています」。
アルファテックとインキュベーションポートやまがたの2社に籍を置き、学生時代の経験を生かして研究を続けている今の環境は「私にとって理想的な働き方。機器が十分にそろっているので、いつでも測定や分析ができています。自分には研究職が向いていると痛感しています」と充実の表情を見せる。両社ともフレックスタイム制を導入しているため、兼業が可能だという。「寝ている間にアイデアが思い浮かぶこともあって、仕事が趣味のようになっています」と笑顔を見せる。
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あびこまりん●宮城県角田市出身。宮城県角田高等学校を経て、山形大学工学部高分子・有機材料工学科に入学。西岡昭博研究室に在籍していた学部4年の時に大学発ベンチャー企業「インキュベーションポートやまがた株式会社」を起業し、米粉の食品開発事業を担当。大学院有機材料システム研究科に進学し、博士後期課程2年から西岡研究室の研究成果の事業化を目的に設立された大学発ベンチャー企業「株式会社アルファテック」に研究員として在籍。2024年3月に博士号を取得。
※内容や所属等は2025年6月当時のものです。