はばたくひと ♯37
佐藤英世
「好き」で、人生を切り拓く。
青春を過ごした街で地域に貢献
2025.11.14


はばたくひと ♯37
佐藤英世
2025.11.14

「好きなことにモチベーションを発揮できると、生活も勉強も楽しくなります」と力を込めるのは、学生時代を過ごした鶴岡市に家族とともに移住した佐藤英世さん。子どもの頃から好きだった生き物について山形大学で学び、学んだ知識を活かして故郷の北海道で就職。鶴岡市に戻ってからも生き物や写真、音楽といった「好きなこと」を原動力に鶴岡市職員として広報業務を担当するとともに、前職で得た資格や経験を基に地域の環境イベントをサポートするなど、多方面で活躍している。

佐藤英世さん(写真右から2番目)は、鶴岡市内のNPOから依頼を受け、「ざっこしめ」と呼ばれる魚とりイベントの講師役を務めるなど、環境教育分野でも活躍している。
魚や昆虫などの生き物が好きで、子どもの頃から川遊びや釣りに親しみ「生まれ育った札幌とは違う、本州の夏に憧れていた」という佐藤英世さん。“河川環境や生き物について勉強でき、街中に川がある本州の大学”として選んだのが鶴岡市にキャンパスのある山形大学農学部だった。
入学後に受講した教養科目に、今も強く印象に残っている思い出がある。
「『学問は統合を前提に細分化されなければいけない』とおっしゃった地理学の先生がいて。学んだ専門分野を最終的に社会のためにどう役に立てるのか意識して勉強するように、と教わりました。宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』に出てくる博士のようで、いいなと思った覚えがあります」と振り返る。

学生時代、早田川での調査の様子。研究室では大久保博教授に師事し「大久保先生は民間企業で 技術職の専門家を経て研究の道に進まれた方。直接の言葉ではありませんでしたが、『何のために学ぶのかを意識して』と導いていただきました」と語る。
生物環境学科では河川環境学の研究室に所属し、サケの遡上を阻む砂防ダムや堰堤などの人工物に着目。治水や防災のため、土砂を止める機能を保ちながら「魚道」や「スリット」を設けてサケが遡上できるようにする工夫などを学び、生態系に与える影響をいかに減らすか、「人間と生き物との距離感」への興味を深めていった。

大学寮で暮らしながら友人たちと共に生活を満喫した学生時代。右は啓明寮祭での1コマ
在学中に過ごした鶴岡の街にほれ込み「いつか戻ってこよう」と考えてはいたものの、卒業後は志望する環境アセスメント関連の仕事の多い北海道に帰郷。
学生時代の学びを活かし、建設コンサルタント業に約10年間従事した。「仕事は公共事業に関わる生き物の調査。たとえばダムや道路をつくる際に、できるだけ自然環境に影響が出ないように工事を進めるため、その場所にどんな生き物がいるかを調べます」
難関の「技術士」資格も20代で取得。調査道具を積んだ車で道内各地を巡る日々は充実していたが、激務だった。「北海道は広いので、現場によっては運転だけで片道8時間かかることも。繁忙期は複数の現場が重なるので、1週間のうちに調査地をはしごしたり、いったん札幌に戻って荷物を積み替えて別の現場に向かったり。金曜の夜にやっと帰宅して土・日曜のうちにデータをまとめて翌週また別の現場、といった生活でした。楽しかったので辛くはありませんでしたが、ほとんど家におらず、健全とはいえない毎日で妻に心配をかけてしまいました」。

前職時代、カラフトマスの死骸を調査したときの様子。「『調査しデータを取ってまとめる』作業は大学の卒論研究と同じでしたが、学生時代と違って仕事には『クライアントに分かりやすく報告する』作業が加わります。自分の好きな淡水魚だけでなく鳥類から両生類、爬虫類、植物、水質まで、さまざまな生き物を含めて広く扱うため、詳しい専門家と一緒に調査します。何本もの卒論研究を並行して進めるような感覚でした」という。
鶴岡市への移住を決意し、川遊びイベントの手伝いなどを通して学生時代から交流のあった赤川漁業協同組合の知人に古民家を紹介してもらい、2015年に引っ越した。
鶴岡市役所の臨時職員、第三セクター契約社員を経て、2017年に正規職員として市役所に入庁。環境課に配属され、環境教育施設「ほとりあ」の担当として経験を活かした。
コロナ禍で、環境課からワクチン接種対策室に異動したことが次の転機になった。ワクチンの種類や接種スケジュールの案内といった広報を担当し、「どうすれば分かりやすく伝えられるか」を試行錯誤しながら市の広報紙やチラシで発信する業務に、「大変でしたが面白くもあった」と手応えを実感したという。
2022 年春から総務課広報広聴係(現・総務課つるおか広報室)に所属し、学生時代から趣味として取り組んできた写真撮影の特技も活かしながら、広報紙やYouTube 、SNS を使った情報発信、ウェブサイトの管理運営まで、多岐にわたる広報業務を担当している。

表紙を手がけた鶴岡市の広報紙。「“ひとりよがり”にならないように意識している一方で、自分自身が面白いと思ったところ、工夫したところに反響があると“してやったり”の気持ちにもなります」と話す。
鶴岡市の広報紙は原稿執筆から、写真撮影を含む取材・編集、割付、組版、校正まで全て職員が担っている。
佐藤さんが特に力を入れてきたのが、職員が交代で撮影する「表紙」。例えば学校給食を特集した号では、あえて給食用のトレーではなくカフェのような器に盛り付けて料理の魅力を演出。地元食材や行事食など豊かな食文化を盛り込んだ献立で、鶴岡市の学校給食の取り組みを紹介した。
「職場の研修で初めて鶴岡市の学校給食を食べたとき、ものすごく美味しくて。『この街の子どもたちは、こんなにすごい給食が食べられるのか』と驚いて、当時の感動を込めた広報紙になりました。市外出身で、いわば“よそ者”の私だからこそ気づけることがあると思います」。
さらに、子育て中の市民に「自分ごと」と感じてもらえるようにと、水田と月山を背景に友人家族を撮影し“地元らしい”表紙を目指した子育て特集号は、全国広報コンクールの写真の部で入選するなど高い評価を得た。
119番通報特集の表紙は“アメコミのヒーローもの”風の大胆なデザインで、救急隊員が老若男女を助ける姿を表現。批判的な意見もあったが、普段広報紙を読まない層にも「いつもと違う」と興味を持って読んでもらえたのは最大の成果だった。
鶴岡市の魅力を紹介するショート動画の編集作業。「鶴岡は、市街地から海にも山にも温泉にもすぐ行けて、食文化も豊か。『海を見ながら豪華な刺身定食の朝食』『朝ラーのはしご』『温泉で朝湯』『月山八合目で朝日を見る』そういった贅沢を平日の出勤前にできてしまう環境です。地元の方々にとっては当たり前だけど実は面白い、すごく魅力的なところをすくい上げて、シティプロモーションにつなげたいと考えています」
プライベートでは、学生時代に同窓生と結成した音楽ユニット「ヒバリズ」としても活動。鶴岡市の「ふるさとCM」制作業務では、動画撮影・編集から、CM曲の作詩・作曲・演奏・歌まで手がけたという佐藤さん。
後輩の山大生や高校生にアドバイスを伺うと「行動するとき、『“覚悟”はそれほど決めなくてもいい』と思います。とりあえず動き出してみると、意外となんとかなるものです。学生の皆さんも、動く前に悩むより『とりあえずやってみて、うまくいかなかったら次』という気持ちでいると、いろいろなことに触れる機会が多くなって楽しいですよ!」と教えてくれた。

バイオリンとシンセサイザーでインストゥルメンタルを演奏し、地方都市での生活を歌う「ヒバリズ」。「全天候型ポップ・ユニット」としてライブハウスから野外まで、さまざまなステージに立つ。なじみの飲食店の角煮をテーマに曲をつくったことも。
佐藤さんが担当する鶴岡市のYouTubeショート「つるとぴ!」は、こちらからアクセスが可能です。
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さとう ひでよ●札幌市出身。2006年3月農学部生物環境学科(現 エコサイエンスコース)卒業。15年に妻子とともに鶴岡市に移住。市職員として公務に従事しながら、技術士事務所「オフィスカッケン」を設立・運営し地域の環境イベントなどにも尽力。音楽ユニット「ヒバリズ」としてステージにも立つ。
※内容や所属等は2025年10月当時のものです。