まなぶひと #58
横山陽音
医学生・看護学生が
病院でボランティア演奏。
活動理念は「患者さんのために」。
2025.08.15

まなぶひと #58
横山陽音
2025.08.15
音楽を愛する医学生、看護学生らが集う学生サークル「医学部室内合奏団」。 「For the Patient(=患者さんのために)」を活動理念に掲げ、病院や福祉施設で演奏活動を行っている。コロナ禍で自粛・縮小していたサークルの活動を再び本格化させ、初の定期演奏会を成功させたのが2024年度団長・横山陽音さん。団長としての取り組みを振り返ってもらい、これからの活動についても話を聞いた。

30年以上の歴史を誇る「医学部室内合奏団」の2025年度のメンバーたち
「医学部室内合奏団」で活動する医学生、看護学生は毎年70 人前後。小中学校、高校の吹奏楽部出身の管打楽器経験者から、オーケストラで活動していた弦楽器経験者、個人でレッスンを受けたことのある学生まで「音楽が好き」という共通点で集まった団員たちの楽器歴はさまざまだ。
「大学で新たに挑戦してみたい、という楽器未経験者も結構います」と、説明するのは2024年度に団長を務めた指揮者兼サクソフォンの横山陽音さん。
普段の活動日は火・水・金曜の 週3 回。管楽器、弦楽器とパートごとに練習し、外部での演奏会には、会場の規模や団員のスケジュールを踏まえて30~40人程度で参加する。楽器編成は、参加メンバーによって演奏会ごとに変化する。
横山さんは「どんな編成のときでもサウンドづくりを工夫し、全員で演奏できるようにしています。さまざまなバックグラウンドを持っている人たちが集まって一緒に『1つの音楽』を作り上げるのが活動の魅力」と笑顔で語る。

鶴岡市立荘内病院での演奏。歌の得意な看護師の方との共演曲も盛り込んだ。
活動の主軸となっているのが「病院コンサート」と呼ばれるボランティア演奏会。2024年度は庄内、最上、置賜、村山と山形県内各地域の病院、福祉施設に出向いて演奏した。
初めて訪れる病院だけでなく、コロナ禍前に毎年演奏していた施設での再開もあったが、自粛中に窓口担当者が交代。直接現地に挨拶に出向き、ゼロから手探りで計画を立て、準備していくケースが多かった。
「病棟から演奏会場への患者さんの移動や会場設営など、職員の方々にお願いしなければならないことは多い。病院のご協力あってこその活動です」と横山さん。
吹奏楽部やオーケストラとしての活動経験はあっても、病院での演奏は初めてという団員がほとんど。「団員の気持ちをつくることも大切でした。『患者さんに音楽を楽しんでほしい。ちょっとでも元気を与えたい』という思いで取り組んでいるコンサートですが演奏者自身が楽しんでいなければ、思いは伝わりません」と振り返る。

公立置賜総合病院では季節に合わせ、クリスマスにちなんだ曲も披露した。
プログラムは病院担当者と相談しながら、幅広い世代が楽しめる選曲で構成。高齢者が多い会場では演歌なども盛り込む。
「演奏を聴いて涙してくれる方がいたり、アンケートに子どもや孫のように思って聴いた、と書いてくれる方がいたり。演奏会後に直接『良かったよ』『来てくれてありがとう』と言っていただいたりすると、やっぱり嬉しいですね」と横山さん。
「数年後に医師、看護師になる私たちにとっては学問から離れ、直接患者さんと時間を共有し、医療者として大事な精神も学べる貴重な機会。準備は大変なこともありますが、続けてきて良かったな、と感じます」とかみしめる。

2024年に初開催した「第1回定期演奏会」。これまで医学部室内合奏団の活動の根幹をなしていた山形大学医学部附属病院での「ハートフルコンサート」が中止となったことを受けて開催を決断した。
11月に初めて挑んだ定期演奏会は、約半年という短い準備期間での決行。
横山さんは「満席でも80人程度しかお客さんを入れられない学内での開催でしたが、普段練習している交流会館が会場で、かえって演奏しやすかった。団員もみんな本当に楽しそうでした。先輩方が繋いできたハートフルコンサートを続けられないことには葛藤もありましたが、OBOGの方々からもお祝いの言葉をたくさんいただいて、会場全体があたたかい雰囲気に包まれた一日でした」と手応えを感じている。

地域住民ら幅広い層が来場する定期演奏会ではクラシックや吹奏楽のオリジナル曲など普段の病院コンサートとは違ったプログラムにも挑戦した。
しかし、定期演奏会開催までの道程は平坦ではなかった。足りない楽器があったり、これまで練習場所として使っていた学内施設が取り壊しになったりと、さまざまな困難に直面。横山さんは「楽器が足りなければ演奏できる曲も限られる。私たちの演奏を聞くために足を運んでいただくお客さまの前で『中途半端なことはできない』という思いがありました」と振り返る。
医学部室内合奏団にはOB会が組織されていなかったが、伝手をたどってOB、OGらに連絡を取って寄付を募り、必要だったティンパニを購入。大学職員の協力を得て交流会館や50周年記念講堂で練習できるようにするなど、一つ一つ解決していった。「いろんな方々の支えがあっての活動なのかな、と思っています」と横山さんはかみしめる。
最大の課題となったのが、団員たちの学業と楽器練習の両立だった。医学部は試験期間が学年によって異なり、医学科では4年次、看護学科では3年次から臨床実習も始まる。所定の練習日に1 年生から 6 年生までの全団員が一堂にそろうことはほとんどなく、各自が時間を見つけて自主的に練習を重ねるしかなかった。
なんとか練習時間を確保しようと企画したのが宮城県東松島市での合宿。一定の人数が集まり、団員たちの一体感も高まったという。

定期演奏会に向けた合宿。「気合いも入って、たっぷり集中して練習できました」と横山さん。
この春、団長の職務を後輩に引き継いだ横山さん。これまで団長として、特に団員たちのモチベーション維持に心を砕いてきたといい「医学部は勉強と実習だけでも忙しい。ステージ経験の浅い団員もいる中、さらに定期演奏会の練習も加わって、技術だけでなく気持ちの面も、どう引き上げていくのか、ちょっと考えるところがありました」と振り返る。

横山さん自身の学業とサークル両立のコツは、「とにかく講義を聞くこと。試験前に頑張ってつめ込もうとすれば、それだけで練習の時間が取れなくなってしまう。授業のその場で、できるだけ理解するようにしています」
医学部室内合奏団の第2回定期演奏会は山形県生涯学習センター「遊学館」で2025年11 月 30 日に開催される予定だ。
横山さんは「初めてのホールでの開催で、第1回とも違う苦労があるはずです。集客もより頑張らなければなりませんし、団員たちのモチベーションも高めていかなければなりません。お客さんに楽しんでもらいたい、という気持ちを、団員のみんなが表現できるように、まずは士気を高めていこう、と常に伝えています」と新団長を気遣い、「なんとなく練習して、なんとなく本番を迎えても『なんとなく』の感想しか残りません。バックグラウンドの違う団員が70 人もいれば、いろいろな意見が出て大変なこともありますが、そこから頑張って練習していくうちに、集団のまとまりがサウンドのまとまりとして表れてきます。『壁』を乗り越えた先に、 本番での『達成感』がある。感動的な演奏会ができたらいいな、と思っています」と、自身も気を引き締める。
定期演奏会など医学部室内合奏団の活動の最新情報は、X(@ymed_shitsunai)やInstagram(yamamed_shitsunaigaku)でも発信している。
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よこやまはると●医学部医学科4年生。米沢市出身。5歳からピアノを嗜み、中学・高校時代は吹奏楽部でサクソフォンを担当。医療の道を志して入学した山形大学でも音楽を続けようと、室内合奏団に入団。現在は吹奏楽の指揮とサクソフォンを兼任している。「卒業後は診断から治療まで自分で診ることのできる “患者さんとの距離が近い”診療科に進みたいと考えています」。
※内容や所属等は2025年7月当時のものです。