まなぶひと #60
加藤幸音
砂糖を一切使わずに甘味生み出す。
健康志向のクッキーを考案。
2026.02.16

まなぶひと #60
加藤幸音
2026.02.16
本学農学部食料生命環境学科バイオサイエンスコース4年の加藤幸音さんは、発酵技術を活用して砂糖を一切添加しない甘いクッキーの開発に成功。執筆した技術論文は投稿から1カ月4日の最短期間で受理され、2026年2月15日に出版された。 加藤さんが所属する永井毅研究室では近年、卒業生4人が学部生時代に学会誌に論文が掲載され、研究者の卵の活躍が続いている。
2026年2月発行の「日本食品科学工学会誌」に掲載された技術論文「米麹の発酵と食品用酵素作用を活かして甘味を付与した砂糖無添加クッキーの品質特性」は、加藤さんが第一著者、永井教授が責任著者として発表。投稿からわずか1カ月4日という最短期間で受理された。
砂糖を用いずに、どのようにして甘いクッキーを作るのだろうか。加藤さんが着目したのは、甘酒などの材料にもなる米麹と山形県に根付く発酵技術。米麹にはアミラーゼという酵素が含まれ、特定の温度で発酵させることで自然と甘味が出る。加藤さんは「今回は2種類の酵素の作用で、甘味を作り出しました」と説明する。一つはグルコアミラーゼで、糖化を助ける酵素。もう一つはグルコースイソメラーゼで、より甘味を強くする酵素だ。
研究を始めたのは3年次の冬。テーマにクッキーを選んだ理由は「食べるのも作るのも大好き」だから。プライベートでクッキー作りをする際は市販のレシピを参考にしていたが、大量の砂糖を使うことが気になっていた。そこで、近年の健康志向の高まりに対応すべく、砂糖の代わりに米麹の甘味でクッキーを作ることを思いついたという。
加藤さんは「クッキーは小さいお子さんから年配の方まで、幅広い年齢に好まれるお菓子。日本を訪れた海外の方が土産にクッキーを買うと聞き、インバウンド需要も期待できると思いました」と語る。
現代の消費者ニーズに対応した、砂糖を一切使わないクッキー。シンプルな材料を使い、加藤さんが研究室で焼き上げた。口の中でほろりと崩れるソフトタイプで、ほのかに甘い素朴な味わい。
今回の研究の狙いは、砂糖をはじめとした甘味料の代わりに、米麹が生み出す自然の甘味が使えるかどうか。そのため、卵やベーキングパウダーは入れず、材料は小麦粉、バター、米麹、少量の水とシンプルにした。米麹は蒸した米に麹菌を加えて発酵させたもの。加藤さんは、麹菌選びから取りかかった。特性の異なる「白麹1号菌」「白麹2号菌」「白麹3号菌」「白麹しらかみ」「白麹雪こまち」の5種類の麹菌を試し、最終的に甘酒や味噌、加工品に利用されることが多い「白麹雪こまち」を選んだ。
一般的にクッキー作りに水は使わないが、今回は米麹を発酵させるために水を使用。「生地に水分が含まれているため焼くと水分が蒸発し、焼く前に比べて薄く、重量が軽くなりました。見た目の明度は低く、赤色度や黄色度の高い鮮やかな色彩。食感はソフトクッキーのよう」と焼き上がったクッキーを紹介する。
健康志向という観点では砂糖を使わないことに加え、栄養素が向上。うま味成分に関係する遊離アミノ酸の含量は、砂糖を用いたクッキーの約20.5-25.8倍にもなった。遊離アミノ酸量が多いほど甘味やうま味などを強化したクッキーといえる。ストレスの緩和や睡眠の質を高めるアミノ酸の一種「GABA」の含量は砂糖を用いたクッキーの約1.4-1.7倍になった。「粗たんぱく質量が多く、炭水化物量が少ないエネルギーの低いクッキーに仕上がりました。健康志向の新たなクッキーとして広めたいです」と自信をのぞかせる。
一方で「米麹を発酵させると甘味以外に、うま味、苦味、酸味といろいろな成分が出てしまい、クッキーの味に影響するのが難しいところでした」と課題を挙げる。甘味を高めようと、甘酒を煮詰めて乾燥させるなど試行錯誤したが、思いのほか酸味が主張した。「クッキーのおいしさを追求するなら、さらに改善の余地があります」と妥協しない。
2026年3月に卒業を控える加藤さんだが、新たな研究をスタート。これまでのイメージを覆す新たな甘酒の開発だ。「フルーティーな乳酸飲料のような飲み物を目指しています。甘酒らしくない甘酒」とにっこり。山形県をはじめ東北に根付く発酵文化に着目し、加藤さんは卒業まで、次世代のクッキーや甘酒の研究を続ける。
所属する永井研究室には、成分を分析する機器から調理器具までそろう。「やってみたいことを存分にできる環境。永井先生は学生の意思を尊重し、後押ししてくださいます」と加藤さん。
食べることが大好きで、高校生の頃から食品関係の企業に憧れていた加藤さんは、第一志望の水産加工会社の内定を獲得。出身地の新潟県に戻り、2026年春から研究・開発部門の一員として社会人の一歩を踏み出す。
この夢を実現するべく、本学農学部では身の回りの生物や食品分野の研究を専門とするバイオサイエンスコースを選択した。
「農学部の学生と伝えると『農家になるの?』と言われることがありますが、農作業を学べるコースもあれば、『ザ・研究』のコースもあり幅広いです」
入学間もなく、食品の研究を専門にしている永井研究室の存在を知り、学部生ながら論文の出版に挑戦できること、諸先輩の実績などに魅力を感じて所属。「気になることには迷わずに挑戦し、そこから徐々に探りを入れていく姿勢が大事だと感じました。大学で磨いた分析方法などは社会人になっても生かせる技術」と笑顔を見せる。
サークルやアルバイトにも力を注ぐ。小中学生時代もバレーボールをしていた加藤さんは、小白川と鶴岡の両キャンパスのバレーボールサークルを掛け持ち。「またバレーボールがしたくてサークルに入りましたが、サークルつながりで友達ができたことが良かったです。学部の枠を超えた友達が多く、皆から刺激をもらっています。山大生はやりたいことに奔放で実直な人が多いと感じています」と、仲間というかけがえのない財産ができた。
鶴岡キャンパスに移った2年次から宿泊施設でアルバイトをし、受け付けを担当。「社会に触れられるいい機会」と貴重な経験ができている。
本学を目指す後輩に「わくわくして大学に入ってほしい。高校に比べて、大学はコミュニティの規模が大きく、知見が広がります。ですが、自分から動かないと何も広がらないのが大学。自分が試される時間であると同時に成長できる時間でもあります。やってみたい、興味があるという気持ちに正直に、大学生活をスタートさせてほしいです」とエールを送る。
「食品は朝昼晩に摂取する、私たちの生活に欠かせないもの。おやつも水分も食品の一種。農学部は私たちの生活や食に密接な学部だと実感しています」と、研究器具でもある調理器具を持って語る。
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かとうゆきね●新潟県阿賀野市出身。農学部食料生命環境学科バイオサイエンスコース4年。食品創製科学分野、永井毅研究室所属。発酵技術を活用して、砂糖を一切添加しない甘いクッキーの開発に成功し、研究成果を執筆した論文が「日本食品科学工学会誌」に掲載。卒業後は食品企業に就職し、研究・開発に携わる予定。
※内容や所属等は2025年10月当時のものです。