まなぶひと #64
飯塚琢朗
次世代型発光技術の実用化につながる
研究論文が世界的に評価される。
2026.08.15

まなぶひと #64
飯塚琢朗
2026.08.15
大学院理工学研究科2年の飯塚琢朗さんが、ナノメートルサイズの半導体を持つ結晶「ペロブスカイト量子ドット」の発光時間を長くする技術を発見。この技術は従来の発光材料を上回る色の鮮やかさを持ち、医療機器やVRゴーグルといったさまざまなディスプレイへの応用が期待されている。発表した論文は、2025年5月にアメリカで開かれた国際会議でDistinguished Student Paper Awardを受賞。世界各国の学生が論文を寄せた中、同賞に選ばれたのは上位わずか5%未満だった。
飯塚さんが研究しているペロブスカイト量子ドットは、ナノメートル(1ミリの100万分の1)ほどの極小サイズの半導体を持つ結晶。光を当てると鮮やかに発光する。その生成方法が初めて報告されたのは、2015年と比較的最近。以降、次世代の発光材料として世界中で研究が進められてきた。未知なる可能性を秘めている一方で、光を当てた状態で発光を持続するのは難しいという課題があった。
飯塚さんは「ペロブスカイト量子ドットは青色の光を受け取って緑色や赤色の光に変換する役割を担います。ですが、青色の光を浴び続けると、発光する効率が落ちてしまい、発光材料として応用することができません。だからこそ、その効率を維持する研究の必要性を見いだすためにも、価値がある研究だと考えました」と、取り組んだ経緯を語る。
研究は学部3年の後期に始め、4年の6月頃には必要なデータをまとめて学術論文を発表。その1年後に見事受賞を果たした。発光の寿命に関わる原因を解明したことが、大きく評価された。
「誰も試したことのない、新しいペロブスカイト結晶の作製手法に挑戦しました。手探りでその方法を確立するのは大変でしたが、発光効率の持続性を高めることができました」と振り返る。
新しい作製手法として、ナノサイズの極小の結晶の表面にある、有機分子の構造を意図的に変えた。本来は1カ所で結合している配位子(リガンド)だが、結合部分を2カ所にし、その間の距離を制御。5分程度だった発光を、30時間に延ばすことに成功した。「ゆっくりと結晶ができる方法で発光効率と安定性を向上させ、発光寿命を延ばしました」と説明する。
ペロブスカイト量子ドットの構造が最初に報告された2015年は中学3年生だった飯塚さん。「ディスプレイへの実用化に向け、世界で研究が進む中、自分も同じ分野に取り組んでいる面白さがあります」。
この技術はさまざまなものに応用できる。発光時間を維持できるようになれば発光スペクトルのシャープさを維持することに直結し、多彩で鮮やかな色をカバー。つまり、ディスプレイの色をより鮮明に表現できる。
例えば、X線レントゲン検査機のディスプレイなど、医療業界での活用が考えられる。「より精度の高いディスプレイがあれば、血管や臓器の色を細かく判別できます。組織の癒着や患部の微妙な色を鮮明に映し出し、手術などに活用できるはずです」と提案する。
災害現場にも有効だ。被爆地や深海、宇宙といった人が気軽に立ち入ることができないエリアでの、映像出力のモニター、ディスプレイに適している。モニターやディスプレイは平面に取り付けるのが一般的だったが、柔軟性のあるフィルムに導入して形状を自在に変えられる点も強みだ。
エンターテインメント業界にも生かせる。目に装着するVRゴーグルのディスプレイにこの技術を使えば、映像と現実の世界を融合させたリアルな世界を生み出せる。
「ペロブスカイト量子ドットの発光時間を長くできれば、デジタル空間やゲームの臨場感、没入感が高まります」
現代のパソコンやテレビなどのディスプレイはすでに十分な美しさのため、飯塚さんは「発光時間の延長技術は一般の方には求められていないかもしれませんが、専門分野では生かせるはず」と期待する。
飯塚さんは研究室の先輩から引き継ぎ、2026年4月からペロブスカイト量子ドットとも関わりのある、バイオ燃料の低コスト化の研究にも取り組んでいる。バイオ燃料は生物資源(バイオマス)を原料にした燃料。近年は自動車や航空機の燃料にも使われるなど、世界的に注目が高まっている分野だ。
現在はバイオ燃料のもとになる微細藻類(藻の一種)の培養実験を進めている。藻が育つ条件と、波長を変換する材料の効果が最大限に発揮される組み合わせを地道に探っている。
ペロブスカイト量子ドットを使って藻の培養効率を2〜3倍に高めるのが当面の目標だが、思い通りには進んでいない。飯塚さんがこれまで専門にしていたペロブスカイト量子ドットの研究には、環境の変化にそれほど左右されない結晶を用いていた。一方で、バイオ燃料はいわば生き物。「同じ条件で同様の手法で進めてもうまくいきません」と失敗の連続。それでも「藻の培養はまだ実現された例がないので、効果を実証したい」と前向きだ。
光を当てて、培養中の藻の状態を確認する飯塚さん。バイオ燃料で飛ぶ飛行機や走行する自動車が徐々に増えている今、生物由来の原料を用いた燃料への注目は高まるばかり。
このバイオ燃料の低コスト化、Distinguished Student Paper Awardを受賞した発光時間を長くする技術、いずれの研究も自身のアンテナを広げるきっかけになっている。大学院2年の飯塚さんが、本学で研究に励むのはあと3年と少し。ペロブスカイト量子ドットの発光時間の保持の実用化を第一の目標に、飯塚さんの挑戦は続く。
本学の工学部から大学院理工学研究科に進んだ飯塚さん。そもそも工学部を志望したのは、高校時代から化学に親しみを持っていたから。「元素周期表を暗記すれば、いくつかの元素を組み合わせた有機物質の性質が分かるので、化学は理解しやすい。実験ではふとした瞬間に思いがけない結果が得られたり、直感で成果が目に見えたりするのが面白いです」と、その魅力を語る
学部3年から、ペロブスカイト量子ドットを専門にする増原研究室に所属。研究室を決めるタイミングだった2023年に、ペロブスカイト量子ドットの発見に関する研究でアメリカの研究機関に所属する3人の研究者がノーベル化学賞を受賞したこともあり、「世界最前線の領域」と選んだ。
大学入学時から大学院への進学を志望。外部の大学院も検討したが「所属研究室は学部生のうちから国際学会の発表や展示会に参加でき、国内外で多彩な経験を積めました。大学院も世界レベルの研究に取り組める環境が整っている」と、最終的に本学の大学院を選んだ。
実際に大学、大学院と本学で学び、「優秀なメンバーが多く在籍しているので、日々刺激を受けています。僕は結晶の表面の有機物に着目したペロブスカイトを研究していますが、赤色ペロブスカイト、緑色ペロブスカイトといった領域を専門にしているメンバーもいるので勉強になります」と充実の表情を見せる。
恩師の増原陽人教授については「研究者としての実績はもちろん、人間関係の築き方も尊敬しています。幅広いネットワークや高いコミュニケーション能力も研究者には必要だと痛感しています」と多くを学んでいる。
所属する増原研究室だけでも多数の実績を挙げ、加えて理工学研究科の有機エレクトロニクス分野には世界トップレベルの教授陣が名前を連ねている。
「山形大学では有機エレクトロニクス分野の世界的な研究者による講演が高い頻度で行われています。世界レベルの話を直接聞ける環境は珍しい。半導体工学と有機合成を高度に融合させた研究領域は国内だけでなく、海外でも高く評価されています。社会に必要とされる研究課題ばかりだと感じています。身近なものの仕組みを科学の目で解き明かすことに少しでもわくわくする人なら、きっと楽しめるはずです」
「研究設備が非常に充実し、論文執筆に必要なデータをすべて学内で取得・完結できることは、有機エレクトロニクス分野における山形大学の大きな強みだと感じています」と強調する。
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いいづかたくろう●埼玉県本庄市出身。山形大学大学院理工学研究科2年。増原研究室に所属。有機ELに替わる色の再現性により、優れたディスプレイの実用化につがなる技術を発見し、国際会議でDistinguished Student Paper Awardを受賞。本学の校友会長賞、優秀学術研究賞にも選ばれた。将来は海外の研究機関で研究者として働く道を目指している。
※内容や所属等は2026年6月当時のものです。