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城戸淳二教授が第62回 (2021年)藤原賞を受賞 ~有機EL素子の先駆的研究および工業化に大きく貢献~

掲載日:2021.06.03

本件のポイント

  • 城戸淳二教授は1989年より有機電子・光機能材料に関する研究を行って おり、特に、有機エレクトロルミネッセント素子(有機EL素子)の研究 で、基礎研究から工業化に至るまで幅広い分野での独創的な成果が高く評 価された。
  • 高性能化に不可欠な、高量子効率の発光材料など新規材料の開発、化学ドーピング法による低消費電力化において、スマートフォンなどの中小型ディスプレイの実用化に貢献した。
  • 高輝度での長寿命化に必須の技術であるタンデム型構造を考案し、特に白色有機EL素子や大型ディスプレイの工業化に大きく貢献した。
  • 三菱重工株式会社などと合弁会社を設立し、世界で初めての照明用有機EL白色パネルの生産を開始した。

概要

 城戸淳二教授(有機エレクトロニクス/有機材料システム研究科担当)が第62回藤原賞を受賞しました。この賞は、わが国の科学技術の発展に卓越した貢献をした科学者を顕彰するもので、1960(昭和35)年に第一回贈呈式が行われて以来、毎年2名に贈呈されています。今回の受賞は、有機EL分野における材料及びデバイスの先導的な研究および工業化において、その成果を高く評価されたものです。山形大学では初、東北地方でも東北大学以外での受賞は初めてとなります。
 なお同賞の贈呈式については、新型コロナウイルス感染防止の観点から、6月17日(木)にオンラインで開催される予定です。

詳しくはこちら(プレスリリース)をご覧ください。

有機EL素子について

 有機EL素子は高い輝度、高効率、面発光、直流低電圧駆動、多色化の特徴を有し、その応用として、中小型の有機ELディスプレイが携帯電話やスマートフォン、タブレットなどに使用されています。55インチを超える大型テレビも普及し始め、極めて高い画質と省エネルギー性及び軽量薄型が液晶テレビを超えると期待されています。さらに、有機ELを光源とする照明も実用化され始め、LEDとともに省エネルギー光源として注目を集めています。

研究手法・研究成果

 城戸教授の業績は、この有機ELの分野において非常に多岐にわたっており、新素材の設計・合成から、新規素子構成の提案、素子作製方法、工業化まで総合的な研究開発を展開しました。
 城戸教授は1989年より、専門である化学合成の手法を駆使し、分子量の小さい低分子量のn型、p型有機半導体材料から、分子量の大きい高分子半導体材料、発光性金属錯体や近年では無機量子ドットまで、設計、合成し、有機EL素子の性能向上に努めました。
 例えば、有機半導体では、陰極からの電子注入層や電子輸送層などn型有機半導体の研究開発において、リチウム金属錯体がアルミ陰極からの電子注入性が極めて高いことや、ピリジン環を有する材料において、窒素の位置により、分子間水素結合による基板上での配向効果の違いを実証し、分子構造のみならず、分子間相互作用を利用することによる分子配向及び高移動度化を明らかにしました。これらの研究により、今ではピリジン環含有材料が一般的に使用されるようになり、有機EL素子の駆動電圧の低減に大きく貢献し、同氏らの材料設計指針は有機半導体材料の開発の加速に大きく貢献しています。

 城戸教授は、白色有機ELの分野で、世界で初めて高分子分散型、積層型、単層型などの種々の新規な素子構造で白色発光を実現し、さらには、蛍光等並の高輝度発光を得ることにも成功しました。特に、異なる発光色を有する蛍光色素を積層することにより発光色を混色することにより白色発光を実現した成果は、Science誌に掲載され、Wall Street Journal誌の第一面でも紹介され世界的に注目されました。この白色素子では、異なる発光色を有する発光層間に、新規に開発したHOMOレベルの深い1,2,4-トリアゾール誘導体をホールブロック層として挿入して、電荷再結合領域を制御することにより、発光色を混色するという極めて斬新な技術であり、その後、ホールブロック層や電子ブロック層など、電荷の移動を制御する技術が一般的になり、有機EL素子の高性能化に用いられています。               

参照 https://www.sony.jp/bravia/products/KJ-A8H/の画像
参照 https://www.sony.jp/bravia/products/KJ-A8H/

 素子構造の研究においても、高輝度での長寿命化に対して重要な技術の開発に成功しています。これは、有機EL素子の発光ユニットを重ねて多段化する方法であり、すなわちタンデム化することを考案し、それにより低い電流密度でも高い輝度が得ることが可能になりました。これにより、従来不可能とされていた高い輝度を必要とする照明用の光源としても白色有機EL素子が使えるようになり、実際に大型有機ELテレビは、この高輝度白色素子とカラーフィルターの組み合わせにより製造されており、城戸教授らの大型有機ELテレビ実現への貢献は絶大です。

今後の展望

有機ELディスプレイは、究極の壁紙ディスプレイを目指して、さらに低コスト化や大型化が進んでいます。また有機半導体分野の進展が、有機太陽電池や有機トランジスタなど、他の電子デバイスの開発にも生かされ、有機エレクトロニクスの分野として飛躍して、新しい産業になることが大いに期待されています。

城戸淳二 プロフィール

 教授/専門は有機エレクトロニクス、有機デバイス工学。大阪府出身。1989年米国・ポリテクニック大学大学院博士課程修了、工学博士。同年に本学着任。有機EL素子の分野において、新規材料の創製、新規素子構成の提案、製造プロセスの考案など独創的かつ先導的な研究を展開。企業との応用研究、開発、事業化に至るまで有機ELの産業を総合的に牽引。これらの業績により、2002年高分子学会賞、2015年米国情報ディスプレイ学会K.F. Braun賞等、2013年紫綬褒章受賞、2021年日本化学会賞受賞。高分子学会有機EL研究会運営委員長、同学会有機エレクトロニクス研究会運営委員長、(財)山形県企業振興公社有機エレクトロニクス研究所長などの要職を歴任。研究成果をまとめた数多くの論文は、その被引用件数に基づき、日本では唯一2014年より5年連続でWeb of Science GroupによりHighly Cited Researcherに選出されている。

参考

「公益社団法人 藤原科学財団」は、1959年(昭和34年)に日本の製紙王と呼ばれた故藤原銀次郎が私財を基金として創立されました。藤原賞は日本国内の科学技術の発展に卓越した貢献をした科学者の検証を目的としており、これまで小柴昌俊、赤崎勇、大村智などノーベル賞受賞者も受賞しています。
 公益社団法人藤原科学財団

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