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豪雪地に定着するニホンジカの越冬生態 ~食物の獲得戦略から豪雪地への分布拡大の理由を探る~

掲載日:2025.08.07

本件のポイント

  • 「シカは多雪を苦手とする」という定説に反して、世界有数の豪雪地である東北地方にシカは分布を広げはじめた
  • 豪雪地にシカが定着可能な理由を、越冬時の食物獲得戦略から明らかにするために、奥会津において、積雪条件の異なる3年間で約450kmを山スキーで踏査し、シカが採食した樹木を1864本記録した。
  • その結果、シカは、①サル・カモシカの約4倍に相当する112の樹木種の枝先・樹皮を食べること、②積雪条件にあわせて食べ方を柔軟に変更させること、③多雪年では森林への影響が大きい樹皮食を頻繁に行うこと、が明らかになった。

概要

 「シカは多雪を苦手とする」と指摘されて久しい。しかし、2010年以降、積雪深が2mを超える世界有数の豪雪地である東北地方に分布を広げはじめた。豪雪地にシカが定着可能な理由を、越冬時の食物獲得戦略から明らかにするために、福島県南会津町と昭和村において、積雪条件の異なる3年間(2021年から2023年)の冬季にかけて、山スキーで計450kmを踏査し、シカが採食した樹木種を記録した。その結果、①シカはサル・カモシカ・ノウサギの約4倍に相当する112の樹木種の枝先や樹皮を食べること(= 際立った「広食性」であること)、②体力消耗につながる積雪時の食物探索活動を最小化させるために、積雪の多寡にあわせて入手しやすい樹木のみを選択して食べる「柔軟性」を持つこと、③多雪年(100cm以上の積雪が冬期間の7割を占める年)は、寡雪年(同積雪条件が3割の年)と比べて、樹皮食をする割合を7倍に増加させること、が明らかになった。平年の降雪量がより多い東北日本海側にシカの分布がさらに広がっている現況を考えると(たとえば、右上の写真にある、世界自然遺産に指定された白神山地)、枯死を招きやすいシカによる樹皮食が多様な樹木種(特に林冠を構成する樹木)で発生し、森林構造が変化していく可能性が考えられる。
本成果は、Ecological Research誌(日本生態学会が発行する国際誌)にて2025年7月に公開された。

詳しくはこちら(リリースペーパー)をご覧ください。

背景

 世界に広く分布するシカ科の動物は、高い個体数増加率や強い採食圧により、生態系の構造を大きく変化させる生物(「生態系エンジニア」と呼ばれる種)である。ただし、雪に対しては脆弱で、1mを超える積雪環境には定着できないと考えられてきた。アジアやロシアの東部に分布するニホンジカ(以下シカと記す)も同様に、雪に弱い種と考えられてきたが、2010年以降、積雪深が2mを超える世界有数の豪雪地である東北地方に分布を広げはじめている。豪雪環境下でシカがどのように越冬しているのか(=越冬生態)は、これまでほとんど知られていない。

研究手法・研究成果

 シカが豪雪地に定着可能な理由を、越冬時の食物獲得戦略から明らかにするために、奥会津(福島県南会津町と昭和村)において、積雪条件の異なる3年間(2021年:平均的な積雪年、2022年:多雪年、2023年:寡雪年)の晩冬季に、山スキーで計450kmを踏査し、シカが採食した樹木の種名・部位・採食量を記録した。
 その結果、1864本の樹木に採食が確認され、①シカは多雪地に分布するサル・カモシカ・ノウサギの約4倍(さらには積雪地に分布するミュールジカ、アカシカ、ムースの3倍)に相当する112の樹木種の枝先や樹皮を食べること(際立った「広食性」であること)、②体力消耗につながる積雪時の食物探索活動を最小化するために、積雪の多寡にあわせて入手しやすい樹木のみを食物として選択する高い「柔軟性」を持つこと、③多雪年(100cm以上の積雪が冬期間の7割を占める年)は、寡雪年(同積雪条件が3割の年)と比べて、樹皮食をする割合が7倍に増加し、植物個体の樹皮を5割以上剥皮する強い採食圧がみられる確率が2割増加すること、が明らかにされた。

今後の展望

 シカの分布は奥会津の北西部(東北日本海側)にも着実に広がっている。そうした新規のシカ分布域の平年積雪は、奥会津の多雪年の積雪と同等かそれ以上に達する。そのため、枯死を招きやすいシカによる樹皮食(冠状剥皮)が多様な樹木種(特に林冠を構成する樹木)で発生し、森林構造が変化していくことが予想される。
 シカによる森林生態系への影響を検討する際に、本種の分布や個体数密度の変化だけが注目されがちだが、生息環境にあわせた採食行動の変化についても注目することの重要性が本研究から示された。

掲載雑誌の詳細

著者:赤松萌鈴(山形大学大学院農学研究科、現所属:株式会社野生動物保護管理事務所、共同筆頭著者)、江成広斗(山形大学学術研究院、共同筆頭著者・責任著者)、金山望(山形大学大学院農学研究科)、山下純平(山形大学大学院農学研究科、現所属:岩手大学大学院連合農学研究科)、江成はるか(山形大学農学部)
タイトル:Overwintering foraging tactics of sedentary sika deer in a region prone to heavy snow in northern Japan
掲載雑誌:Ecological Research
DOI: https://doi.org/10.1111/1440-1703.12568 (※オープンアクセス)
公開日:2025年7月4日

※以下写真は、シカによる採食痕や調査風景

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