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ミトコンドリア外膜の透過口の新機能の発見 ー透過口が関わる病態やミトコンドリアDNA漏出の機構解明に期待ー

掲載日:2025.08.27

京都産業大学
東京大学
産業技術総合研究所
金沢大学
山形大学
ストラスブール大学(仏)

発表論文

「Oligomer-based functions of mitochondrial porin」
(ミトコンドリアポリンのオリゴマー形成に基づく機能)

著者

1筆頭著者、2責任著者、3京都産業大学、4東京大学、5産業技術総合研究所、6金沢大学、7山形大学、8ストラスブール大学(仏))(研究当時)
竹田弘法1、3、 篠田沙緒里1、3、 後藤千穂3、 包 明久4、 阪上春花3、 張春明3、 平嶋孝志3、 小西雄大3、 小野春佳3、 山守 優5、富井健太郎5、 椎野浩也7田村 康7、 Solène Zuttion8、 Bruno Senger8、 Sylvie Friant8、 Hubert D. Becker8、 荒磯裕平6、 小林菜々子6、 古寺哲幸6、 吉川雅英4、 遠藤斗志也2、3

概要

 京都産業大学生命科学部 遠藤斗志也教授らの研究グループは,クライオ電子顕微鏡を用いてミトコンドリアの小分子/イオンの透過口の6量体構造を決定することに成功。この構造に基づいて6量体と機能の関係を変異体解析で明らかにしました。特にミトコンドリアDNAの漏出という重要な現象の機構解明や透過口と病態との関係解明が進むことが期待されます。論文は「Nature Communications」に掲載されました。

詳細はこちら(プレスリリース)

背景

 ミトコンドリアは、ヒトから酵母まで、すべての真核生物で生命活動に必要なエネルギー(ATP)を生み出す必須オルガネラ(小器官)です。ミトコンドリアは外膜と内膜の2枚の生体膜に囲まれています。ミトコンドリアが正常に働くためには、この二枚の膜を越えてミトコンドリアの外から必要な物質を取り込み、ミトコンドリアの中でつくられたエネルギーの通貨ATPなどの物質を外に送り出すことが重要です。外膜でこうした物質の出入りを担うのがポリン(ヒトではVDAC、酵母ではPor1)という円筒状のタンパク質で、その円筒構造が小さな分子やイオンの透過口として働きます。ポリンはミトコンドリアの機能に必須であり、ヒトではVDACの異常とさまざまな病態(アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患、がん、網膜変性疾患など)との関連が知られています。こうした病態との関係はポリンの透過口としての機能だけでは説明できず、ポリンの未知の機能が関わることが考えられています。
 ポリンの未知の機能を解明するためには、ポリンがミトコンドリア上でどのような集合状態をとるのか(どのようなオリゴマー構造をつくるのか)を知ることが重要です。しかし、これまでのポリンの構造研究はすべて、精製したポリンを変性させてから巻き戻しつつ人為的に膜に組み込んで構造解析を行っているため、実際のミトコンドリア上での集合状態については不明でした。
 エネルギー産生をはじめとするミトコンドリアの多様な機能は、ミトコンドリアを構成する約1000種類のタンパク質によって担われています。これらのタンパク質の大部分は核ゲノムにコードされ、ミトコンドリアの外(サイトゾル)で合成されてから、ミトコンドリア内に取り込まれます。この取り込みは当研究室が解明したTOM複合体というタンパク質専用の搬入口によって行われています。一方ごくわずかのタンパク質(ヒトでは13種類)は、ミトコンドリア内のミトコンドリアDNA(mtDNA)にコードされ、ミトコンドリア内で合成されます。したがって核ゲノムにコードされたタンパク質とmtDNAにコードされたタンパク質が協調して、ミトコンドリア内で機能できる複合体をつくることがミトコンドリアの働きには必須です。しかし一方で、特定条件下ではmtDNAがミトコンドリア外に漏出し、分解されるという現象が知られています。ヒトではmtDNAの漏出が免疫応答や細胞死の引き金となるなど、細胞にとって重要なイベントを引き起こします。真核生物のモデル生物である酵母でも、 mtDNAが欠失することがあり、そうすると酵母はミトコンドリアではエネルギーを産生できなくなるため、発酵という仕組みを使って生きることになります。mtDNAの漏出はヒトでは自己免疫疾患の原因になるなど、臨床においても重要な現象ですが、その仕組みについてはまだほとんど分かっていません。したがってmtDNA漏出のメカニズム解明の突破口の確立が待たれていました。

研究内容

図1: クライオ電子顕微鏡で決定した酵母ポリン(Por1)の6量体構造の画像
図1: クライオ電子顕微鏡で決定した酵母ポリン(Por1)の6量体構造

 今回、遠藤教授を中心とする研究チームは、酵母ミトコンドリアのPor1を変性させずにミトコンドリアから精製し、クライオ電子顕微鏡を用いて構造を解析、Por1が6量体構造をとっていることを見出しました(図1)。さらに架橋実験を行って、ミトコンドリア上のPor1が実際に6量体構造をとっていることを確認しました。また、高速原子間力顕微鏡(HS-AFM)を使った解析でも、6量体の存在を確認しました。
 これまでポリンの集合の様子が分からなかったため、ポリンの集合の意義については全く分かっていませんでした。今回Por1の6量体の精密構造を決定できたので、この6量体構造に基づいて、6量体を構成するサブユニット(プロトマー)の界面にさまざまなアミノ酸置換変異を入れ、ミトコンドリア機能への影響を調べることで、ポリンの集合状態に基づく未解明の機能を探索することが可能になりました。実際これらの変異の中には、小分子/イオンの輸送には影響が出ないのに、他の形で機能に影響がでるものが見つかり、ポリンの集合の意義、集合状態に基づく、新しい機能が明らかになりました。
 一つ目は、TOM複合体という搬入口を介したミトコンドリアへのタンパク質取り込みの制御機能です。TOM複合体にはそこを通る基質タンパク質が異なる2つの状態があり、この2つの状態の変換を制御するのがPor1であるというモデルを当研究室は提案していました(引用論文:Sakaue et al. Porin associates with Tom22 to regulate the mitochondrial protein gate assembly.  Mol. Cell 73, 1044-1055 (2019))。ただ、これまでの研究ではPor1の欠失株を用いて一部の基質の取り込みが阻害されるという観察に基づいていたため、Por1による小分子/イオンの輸送が欠損することによる間接的な影響を排除できませんでした。今回、6量体界面に変異をいれることで、小分子/イオンの輸送は正常ですが、TOM複合体を介したタンパク質取り込みの制御に異常が生じるPor1変異体を取得することができました。この変異体を利用して、これまでに提案したモデルの正しさを証明することができました。

図2: 分子動力学計算で見出された反転した脂質(上)と反転経路(下)の画像
図2: 分子動力学計算で見出された反転した脂質(上)と反転経路(下)

 二つ目は脂質の取り込みに関わる機能、スクランブラーゼ活性です(図2)。ミトコンドリアの二枚の膜(外膜と内膜)をつくる脂質の多くは小胞体(ER)で合成され、それがER-ミトコンドリア接触部位を介してミトコンドリア外膜の外側面に輸送されます。続いて、脂質は外膜の脂質二重層の外側面から内側面へと反転拡散し、外膜から内膜への脂質輸送を担う輸送タンパク質へと引き渡されます。しかし脂質二重層の外側面と内側面の間の反転拡散は、リン脂質の極性頭部が二重層内の疎水性コアを通過せねばならないため、自発的には起こらず、何らかのタンパク質の助けを借りる必要があります。この反転拡散を促進するのがスクランブラーゼと総称されるタンパク質であり、ミトコンドリアの外膜では何がスクランブラーゼ活性を持つのかが未解明の問題でした。今回6量体構造のプロトマー界面には多数のリン脂質分子が結合していることが分かりました。さらにプロトマー界面の構造を詳細に見ると、極性残基が外側面から内側面まで並んで極性のリン脂質頭部が反転可能な経路の存在が示唆されました。今回の構造に基づいてリン脂質を加えた分子動力学計算を行ったところ、この経路を通ってリン脂質が反転できることが示されました。また酵母のPor1にヒトVDACのアミノ酸置換を導入して計算すると、さらに反転効率があがることが分かりました。そこで6量体構造を壊す変異体を作成したところ、小分子やイオンの輸送活性は変わらないものの、ミトコンドリアの脂質組成に異常がでることが分かりました。したがってPor1は6量体をつくることで、プロトマーどうしがつくる極性の経路を介してリン脂質の頭部が外側面から内側面に移動する、反転拡散を誘導することが分かりました。

図3: ミトコンドリアからのmtDNAの漏出と分解の画像
図3: ミトコンドリアからのmtDNAの漏出と分解

 三つ目の機能はミトコンドリアDNA(mtDNA)の維持を担うことです(図3)。今回Por1の6量体界面にさまざまなアミノ酸置換を導入して変異体を作成したところ、mtDNAが急速に失われる変異体が見出されました。mtDNAを失う速度は細胞が増殖する速度より速いので、単にmtDNAの複製が阻害されて、増殖とともにmtDNAが希釈されて消失するのではないことが分かります。さらにこのPor1変異株において、酵母のすべてのヌクレアーゼを一つ一つ欠失させてmtDNA欠失への影響を調べたところ、mtDNAの欠失を阻害するヌクレアーゼ関連タンパク質が7つ見つかりました。これらのタンパク質のうち6つはmtDNA欠失への関与は全く知られておらず、5つはミトコンドリア内に存在するものでした。またそのうち4つはヒトにも相同体が見つかっており、酵母と同様のmtDNA欠失への関与が考えられるものでした。したがって通常は、ミトコンドリア内の5種のうち4種のヌクレアーゼはmtDNAの分解活性が抑えられていますが、Por1に変異が入ると何らかのシグナル伝達が起こってその活性が上がり、mtDNAの切断と内膜の通過、そして外膜の通過が起こり、最終的にはサイトゾルのヌクレアーゼによって分解されると考えられます。今回のPor1変異体を用いることで、こうした分子レベルでのmtDNA漏出に関わる因子を探索することが可能となり、自己免疫疾患にも関わるmtDNA漏出の機構解明が急速に進むことが期待されます。

 

今後の展望

ミトコンドリア外膜の透過口ポリンはミトコンドリアの機能維持に必須のタンパク質です。今回,ポリンの集合状態の詳細が分かり,透過口が集合すると透過以外の新しい機能が生まれることが分かりました。ポリンはヒトのさまざまな病態との関連が報告されていますが,その理由は十分には分かっていませんでした。こうした病態とポリン集合の異常との関連が,今後分かってくることが期待されます。またミトコンドリアDNAのミトコンドリア外への漏出は,免疫応答の制御という観点から,そして自己免疫疾患との関連から,機構解明が待たれていますが,そうした機構解明にも貢献することが期待されます。

用語解説

ミトコンドリア
 酵母からヒトまで広く真核生物の細胞内に見られる必須の細胞内小器官(オルガネラ)。生命活動に必要なエネルギー(ATP)を酸素呼吸によって産生するほか、アミノ酸や脂質、ヘムなどの代謝やアポトーシス(細胞死)にも関わる。ミトコンドリアの機能低下や機能異常と、老化やがん、糖尿病、さまざまなミトコンドリア病との関連が分かっている。 

クライオ電子顕微鏡
 生体試料を液体窒素/エタン冷却下で急速凍結して電子線を照射し、生体分子を染色することなく電子顕微鏡で観察する方法。これまで精密構造決定の主役であったX線構造解析には試料の結晶化が必須だったが、良質のデータの高感度取得法および大量の観察画像データから三次元構造を再構成する手法(単粒子解析法)の開発により、結晶化しない生体試料でも分解能3Å程度で構造を決定することができるようになった。 

プロトマー 
 オリゴマー構造の構成単位(サブユニット)

 mtDNA
 ミトコンドリア内に保持されているDNA。ヒトでは13種、酵母では8種のタンパク質と各種RNAをコードしている。ミトコンドリア機能に必須であり、mtDNAの変異はミトコンドリア病を引き起こす

 高速原子間力顕微鏡(HS-AFM) 
 カンチレバーと呼ばれる微小な針を試料表面に接触させ、原子間力によって試料表面の凹凸を高分解能で検出。この検出を高速で行うことで、動画観察が可能となる。

論文情報

論文タイトル

「Oligomer-based functions of mitochondrial porin」

(ミトコンドリアポリンのオリゴマー形成に基づく機能)

掲載誌

「Nature Communications」(オンライン版)

掲載日

2025年7月25日(金)

DOI

10.1038/s41467-025-62021-4

謝辞

JSPS 科研費(特別推進研究,基盤研究S,学術変革領域研究,JST-CREST(事業名:ライフサイエンスの革新を目指した構造生命科学と先端的基盤技術,研究開発課題名:ミトコンドリアをハブとする構造機能ネットワークの解明),AMED-CREST(事業名:プロテオスタシスの理解と革新的医療の創出,研究開発課題名: タンパク質の交通が制御するミトコンドリアプロテオスタシスの解明),武田科学振興財団研究助成,AMED-BINDS(事業名:生命科学・創薬研究支援基盤事業,研究開発課題名: クライオ電子顕微鏡による分子・細胞構造解析の支援と高度化、ライフサイエンス研究加速のためのバイオインフォマティクス研究),金沢大学ナノ生命科学研究所(WPI-NanoLSI)のBio-SPM技術共同研究  

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