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光合成生物の分裂に新たな仕組みを発見 -チラコイド膜を形づくるタンパク質が細胞・葉緑体分裂にも関与―

掲載日:2025.10.10

日本大学
自然科学研究機構 基礎生物学研究所
情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所
国立大学法人 山形大学

 光合成生物の細胞や葉緑体の分裂制御において、これまで未知であった多重膜の分裂を制御する仕組みが解明された。本研究は、日本大学の金恩哲助教(前・基礎生物学研究所)とドイツ・ダルムシュタット工科大学のMarcel Dann 助教授を中心に、基礎生物学研究所の鎌田このみ研究員、皆川純教授、山形大学の野村真未助教、ドイツ・ダルムシュタット工科大学の渡辺麻衣研究員(現・東京都立大学の特任助教)、国立遺伝学研究所の宮城島進也教授が参加した国際共同研究として実施され、2025年9月25日付で Nature Communications に掲載された。

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発表のポイント

  • 光合成に必須の膜構造「チラコイド」の形成に関わるタンパク質が、細胞全体の分裂および細胞内の葉緑体の分裂を協調させるという未知の役割を持つことを発見した。
  • この仕組みは、単純なシアノバクテリアから複雑な緑藻類まで共通して見られ、光合成生物における細胞増殖の普遍的なメカニズムの解明に大きく貢献する成果である。

研究の成果

 私たちの身の回りの植物や藻類が行う光合成は、細胞内にある「葉緑体」という小さな器官が担っている。この葉緑体は、もともとはシアノバクテリアという光合成細菌が細胞内に共生して生まれたと考えられている。生命が次の世代へと受け継がれるためには、細胞自身が分裂するだけでなく、内部にある葉緑体のような器官も同じように分裂し、新しくできる娘細胞へと正確に分配されなければならない。
 しかし、細胞全体の分裂と、その内部にある葉緑体の分裂が、どのようにして足並みをそろえているのか、その連携(協調)を司る詳細な仕組みは、これまで大きな謎に包まれていた。特に、光合成に必須である内部の膜構造が、分裂というダイナミックな現象とどのように関わっているのかは全く分かっておらず、生命科学における重要な未解明問題の一つだった。

研究の内容と成果

 本研究チームは、葉緑体の祖先であると考えられているシアノバクテリア(シネコシスティス、シネココッカス)と、植物のモデル生物である緑藻クラミドモナスを用いて、これまでチラコイド膜の構造形成に関わるとされてきたCurT/CURT1タンパク質の新たな機能の探索を行なった。
 遺伝子操作によってCurTタンパク質を作れなくしたシアノバクテリアを観察したところ、細胞が正常な球形ではなく、いびつな形になったり、大小不均一な大きさで分裂したりする異常を発見した(図1)。これは、細胞分裂が正常に行われていないことを示している。さらに詳細に解析を進めた結果、CurTタンパク質が、バクテリアの細胞分裂で中心的な役割を果たすFtsZタンパク質と直接的に相互作用することを突き止めた。FtsZは細胞の中央にリング状の構造(FtsZリング)を作り、そこがくびれて細胞が二つに分かれる(図2)。CurTタンパク質は、このFtsZリングの正しい配置や機能に関わることで、細胞分裂の精度を保つ役割を担っている可能性が強く示唆された。

 この機能が真核生物である緑藻の葉緑体にも保存されているかを調べるため、クラミドモナスでCURT1タンパク質を欠損させた。その結果、細胞分裂は正常である一方、内部の葉緑体が非対称(ミニ細胞とビック細胞)に分裂し、大きさの異なる娘葉緑体が作られることを見出した(図3)。この結果は、CurT/CURT1タンパク質が、シアノバクテリアでは細胞全体の分裂、緑藻では葉緑体の分裂という、それぞれの生物における分裂現象の「質」を保証する共通の役割を担っていることを示している。

今後の展望

 本研究は、これまで全く別の機能を持つと考えられていたタンパク質が、細胞とオルガネラの増殖という生命の根幹をなす現象を結びつける重要な鍵であることを明らかにした。この発見は、光合成装置の増殖メカニズムに関する教科書的な知見を書き換える可能性を秘めている。
 今後は、CurT/CURT1タンパク質がFtsZと結合し、分裂を制御する詳細な分子メカニズムの解明を目指す。この仕組みを人為的に制御できるようになれば、例えば、農作物や微細藻類の細胞分裂や葉緑体分裂を最適化し、光合成能力を向上させることで、食料増産やバイオマスエネルギー生産の効率化に繋がる革新的な技術開発への道を開くものと期待される。

論文情報

掲載誌:Nature Communications

論文タイトル:CurT/CURT1 proteins are involved in cell and chloroplast division coordination of cyanobacteria and green algae

著者:Marcel Dann1*, Eunchul Kim1* (1共同主著者、*共同責任著者), Konomi Fujimura-Kamada, Vjosa Berisha, Mami Nomura, Anne-Christin Pohland, Mai Watanabe, Matthias Ostermeier, Frederik Sommer, Michael Schroda, Shin-ya Miyagishima, Jun Minagawa

DOI:https://doi.org/10.1038/s41467-025-64163-x

研究サポート

 本研究は、NINS-DAAD 国際研究者交流事業、PPP Japan NINS Grant 57664392、日本学術振興会 科学研究費助成事業 若手研究(課題番号23K14216)、学術変革領域研究(A)(課題番号23H04960「光合成ユビキティ」)、Deutsche Forschungsgemeinschaft (DA2816/1-1)、European Union’s Framework Programme for Research and Innovation Horizon 2020 under the Marie Skłodowska-Curie Grant Agreement No. 754388 (LMUResearchFellows) およびLMUexcellent、Federal Ministry of Education and Research (BMBF) とthe Free State of Bavaria under the Excellence Strategy of the German Federal Government and the Länderの支援のもとで行われました。

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