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鳴声を利用してニホンジカの繁殖集団の数や適地を把握 ~音響バイオロギングによってオスジカの鳴声の発声様式を解明~

掲載日:2025.11.06

本件のポイント

  • オスジカが発する鳴声(咆哮)を検知することで、低密度でもシカの定着を検知できるボイストラップ法を筆者らは開発し、各地で普及しはじめている。一方で、シカの鳴き声様式には不明点が多く、ボイストラップ法からシカの「分布」以外の情報を集めることは従来できなかった。
  • 音響レコーダを搭載した首輪(音響バイオロギング)を設計し、野生のシカへの装着試験を世界ではじめて成功させ、オスジカの鳴声の発声様式の詳細が明らかにされた。
  • その結果、ボイストラップ法で検知できる鳴声のうち、「ハウル」は繁殖集団(オスジカと複数のメスジカで構成)の数の指標になること、「モウン」は繁殖適地の特定につながること、が明らかになった。

概要

 日本各地に分布を広げるニホンジカ(以下、シカ)は、世界有数の豪雪地である東北日本海側にも近年進出しはじめている。分布拡大初期の低密度のシカを検知できる数少ない手法として、筆者らによりボイストラップ法を2019年に開発した。ボイストラップ法とは、オスジカが秋季に発する鳴声(咆哮)を検知することで、オスが侵入しはじめた段階(侵入初期)、メスも定着しオスと繁殖集団(ハレム)を作りはじめた段階(定着初期)、を特定できる新しいモニタリング法であり、東北各地ですでに採用されている。しかし、シカの発声様式には不明点が多く、シカの分布段階を判定する以外に鳴声を活用することはこれまでできなかった。
 そこで、鳴声発声様式を明らかにし、ボイストラップ法の活用の幅を広げることを目的に、音響バイオロギング(録音機を搭載した首輪)を設計し、野生のオスジカへの装着試験を行った。その結果、繁殖期に発する鳴声のうち、ハウル(オスジカが縄張りを主張するために発する鳴声)の発声頻度の個体差は限定的であること、モウン(メスジカを囲い込む際に発する鳴声)は縄張りの中心で発声頻度が高まること、が明らかになった。この成果により、ボイストラップ法により、従来のシカ分布段階の判定だけではなく、本種の適正管理に求められる指標となる、繁殖集団の数を把握したり、繁殖適地を特定したりすることも可能であることが明らかになった。
 本成果は、山形大学・合同会社 東北野生動物保護管理センター・株式会社BOULDERなどの共同研究によるもので、Mammalian Biology 誌(ドイツ哺乳類学会が発行する国際誌)にて2025年10月に公開された。

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背景

 際立った個体数増加率と強力な採食圧により、森林の仕組みを不可逆的に変化させるシカの管理は喫緊の課題となっている。特に近年では、世界有数の豪雪地が広がる東北日本海側にも分布を広げ、その動向が注視されている。そこで筆者らは分布拡大初期にみられる低密度状態のシカでも検知できる手法として、ボイストラップ法(海外ではpassive acoustic monitoringと呼ばれる)を2019年に開発した。ボイストラップ法とは、オスジカが秋季に発する鳴声(咆哮)を検知することで、オスが侵入しはじめた段階(侵入初期)、メスも定着しオスと繁殖集団(ハレム)を作りはじめた段階(定着初期)、のそれぞれを判定できる新しいモニタリング法であり、東北各地のシカ管理事業ですでに採用されている。しかし、検知対象となるオスジカのハウル(howl)とモウン(moan)という鳴声の発声頻度にかかわる条件(気象条件、発声時間帯、周辺環境、他のオスジカの分布状況)についてはこれまで未解明であり、シカの分布段階を判定する以外には鳴声という指標を活用することはできなかった。

研究手法・研究成果

 オスジカの鳴声発声様式を解明し、ボイストラップ法から得られる「鳴声」という指標の活用の幅を広げることを目的に、音響バイオロギングを設計した。音響バイオロギングとは、高性能音響レコーダ・GPS・活動量計・脱落装置(遠隔操作により動物に装着した器材を脱落させる装置)を組み合わせた機材で、本研究ではシカ用の首輪としてデザインした(以下写真)。この首輪を福島県南会津町に分布するオスジカを対象に、2020年から2022年の秋季において装着試験を繰り返した。麻酔銃により生体捕獲した10頭のオスジカ(咆哮を発声する4歳以上)に装着し、7頭からデータ回収に成功した。その結果、1109時間に及ぶ音響データを回収し、その中から6846回の鳴声(ハウル362回、モウン6484回)を抽出した。

得られた鳴声の発声様式を解析すると、以下4点が明らかになった。

1. 「薄明薄暮にシカは鳴く」という定説は誤りで、ハウルとモウンともに一日中発声されることが多い
2. ハウルの発声頻度に個体差は少ないが、モウンの発声頻度には個体差が大きい
3. 風雨に伴う環境雑音が大きい環境条件(他個体との鳴声コミュニケーションが困難な場合)において、発声に体力を消耗するこれら2種類の鳴声の発声頻度は大幅に低下する
4. モウンは繁殖縄張りの中心(すなわち繁殖縄張りの適地)で発声頻度が高まりやすい

 これらの結果から、シカを対象としたボイストラップ法により、従来の分布段階の判定だけではなく、本種の適正管理に求められる指標となる、繁殖集団(ハレムと呼ばれる、成獣のオスジカと複数のメスジカで構成される集団)の数を把握したり、繁殖適地を特定したりすることも可能であることが明らかになった。

今後の展望

 鳴声を利用した野生動物のモニタリングは、海生哺乳類・鳥類・コウモリ類など、観察困難な動物を対象に研究が先行して進められてきた。しかし近年では、観察可能な陸上哺乳類であっても、鳴声を利用したモニタリングの有効性が指摘されはじめている。本研究で、事前に音響バイオロギングによって鳴声発声様式を特定することで、鳴声を利用したモニタリング(ボイストラップ法、passive acoustic monitoring)の精度や活用用途を飛躍的に改善・拡大できることを実証した。今後、様々な陸生動物に音響バイオロギングを装着することで、ボイストラップのさらなる普及が期待される。

掲載雑誌の詳細

著者:江成広斗(山形大学)、江成はるか(山形大学)、宇野壮春(合同会社 東北野生動物保護管理センター)、千本木洋介(株式会社 BOULDER)、赤松萌鈴(株式会社 野生動物保護管理事務所*1)、金山望(山形大学)、榎本孝晃(地方独立行政法人 北海道立総合研究機構*2)、山下純平(岩手大学大学院連合農学研究科*1)
※研究実施時の所属: *1山形大学、*2岩手大学大学院連合農学研究科
タイトル:Animal-borne acoustic biologgers to broaden the applicability of passive acoustic monitoring to terrestrial mammals: a feasibility study for deer
掲載雑誌:Mammalian Biology
DOIhttps://doi.org/10.1007/s42991-025-00537-4
公開日:2025年10月14日

研究支援

 本研究に際して、科学研究費補助金(基盤研究C「20K06089」、基盤研究B「21H03658 および 24K03124」)およびニッセイ財団(若手研究・奨励研究助成「鳴声を利用したニホンジカの低コスト個体数推定法の確立」)の支援をいただいた。また、音響バイオロギングの設計に際して、株式会社サーキットデザイン から研究器材の支援をいただいた。

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