ホーム > 新着情報:プレスリリース > 2026年03月 > 学長定例記者会見を開催しました(3/5) > 蔵王山山頂の気温変化と今後について 〜「オオシラビソ」および「樹氷(アイスモンスター)」の衰退〜

蔵王山山頂の気温変化と今後について 〜「オオシラビソ」および「樹氷(アイスモンスター)」の衰退〜

掲載日:2026.03.05

本件のポイント

  • 山形市と蔵王山頂駅の9時の気温には相関があり、温暖化の影響で気温上昇している事が示された。両者には9℃の気温差があり、気温逓減率は0.6であった。
  • 蔵王山頂駅の気温は年間を通じて上昇傾向にある。温量指数(暖かさ指数)および夏季の平均気温は亜高山帯・針葉樹林帯に適さないものになっている。
  • 蔵王山頂駅における冬季の気温は上昇傾向にあり、今世紀末には樹氷(アイスモンスター)はできにくくなると推定される。

 山形市および蔵王山山頂駅における9時の気温の変化(2015年から2025年)の画像
山形市および蔵王山山頂駅における9時の気温の変化(2015年から2025年)

概要

 山形市と蔵王山頂駅の9時の気温には相関関係が認められた。この事は気温上昇がエアコン等からの排熱ではなく、地球温暖化の影響である事を示している。また、両者には9℃の気温差があり、気温逓減率は0.6と求められた。この値は山で使われる値と一致している。蔵王山頂駅の気温は年間を通じて上昇傾向にある。2015年から2025年までについて求めた温量指数(暖かさ指数)、および、夏季(7-8月)の平均気温は、基準値である45℃・月、および16℃を超えており、亜高山帯・針葉樹林帯に適さないものになっている。蔵王山頂駅における冬季(1-2月)の気温は上昇傾向にある。今世紀末には-5℃程度になると推定されることから、樹氷(アイスモンスター)は成長しにくく、生成しても脱落しやすくなると考えられる。

詳しくはこちら(リリースペーパー)をご覧ください。

はじめに

 山形大学は冬季(12月〜3月)の午前9時に計測された気温を、高湯(蔵王)温泉にあった堀田第三小学校(880m)1933年〜1936年、地蔵岳山頂にあった中央気象台蔵王山測候所(1760m)1943年9月〜1947年9月、蔵王ロープウェイ蔵王山頂駅(1661m)1985年〜2015年について調査した。この結果、蔵王山頂付近の気温は上昇傾向にあり、今世紀末には樹氷はできなくなる可能性があることを示した。一方、東桜学館高等学校では、2015年から2025年までに蔵王山頂駅と山形地方気象台で9時に計測された気温を調査した。気温は上昇傾向で将来的に樹氷はできなくなる可能性があることを発表している。
上記2つを総合して、蔵王山頂における気温変化を求めると共に今後の予測を行った。なお、一日の平均的な気温が午前9−10時にでることから、午前9時の気温を収集したものである。午前9時の気温が欠測している場合には午前8時の気温を用いている。

山形市と蔵王山頂駅の気温について

 山形市および蔵王山山頂駅で9時に計測された気温の変化(2015年から2025年)を図1に示した。山形市(赤)と蔵王山山頂駅(青)の気温は、8月はじめに最高気温、1月末に最低気温となる良く似た年間変動を示している。

図1 山形市および蔵王山山頂駅における9時の気温の変化(2015年から2025年)
の画像
図1 山形市および蔵王山山頂駅における9時の気温の変化(2015年から2025年)

 2015年から2025年までの山形市と蔵王山頂駅の9時の気温を比較すると(図2)、両者に相関関係(相関係数0.89)が認められた。この事は気温上昇がエアコン等からの排熱ではなく、地球温暖化の影響であることを示すものである。また、両者に9℃の気温差があった。山形市の標高は153m、地蔵山頂駅の標高は1661mで、標高差は1508mであることから、標高が100m上昇するに伴って生じる気温の低下(気温逓減率)は0.6と求められた。この値は山岳で用いられている湿潤状態における値と一致している。

図2 山形市と蔵王山頂駅の9時における気温の比較(2015年〜2025)の画像
図2 山形市と蔵王山頂駅の9時における気温の比較(2015年〜2025)

山形市と蔵王山頂駅の年間の気温変化

 山形市における1890年から2026年までの年平均気温の推移を図3に示した。年平均気温は上昇傾向にあり、特に1980年以降の上昇率が大きくなっている。蔵王山頂駅における2015年から2025年までの平均気温の推移を図4に示した。蔵王山頂駅の年平均気温についても上昇傾向にある。1944-1947年の蔵王山頂駅の年平均気温は1.3-1.7℃であったことから(表1)70年間で3℃近く上昇したことになる。今世紀末には亜高山帯の基準となるといわれている6℃を超えると推定される。

図3 山形市における1890年から2026年までの年平均気温の推移の画像
図3 山形市における1890年から2026年までの年平均気温の推移

図4 2015年から2025年までの蔵王山頂駅における年平均気温の推移の画像
図4 2015年から2025年までの蔵王山頂駅における年平均気温の推移

蔵王山頂駅の夏季平均気温と温量指数(暖かさ指数)

 東北地方の亜高山帯下限の基準となる夏季(7-8月)の平均気温は16℃±1.1℃とされている。また、気温5℃以上の月の平均気温から5℃引いた値を1年分積算した温量指数(暖かさ指数)について、東北地方の亜高山帯下限の基準となるのは45℃・月とされている。
 地蔵岳山頂(1760m)では1943年9月から1947年9時まで中央気象台蔵王山測候所によって気象観測が行われた。蔵王山測候所と蔵王山頂駅とでは標高差100mの標高差がある。そこで、気温逓減率0.6として、蔵王山測候所で測定された気温に0.6℃を加算して1944年から1947年までの蔵王山頂駅付近の温量指数(暖かさ指数)、夏季平均気温、冬季平均温度、年平均温度を算出した(表1)。夏季平均気温は16℃以下であり、温量指数は30代であったことから、1940年代の蔵王山頂駅付近は亜高山帯の気温条件を満たしていたことになる。

表1 蔵王山頂駅における1944年から1947年までの温量指数(暖かさ指数)、夏季平均気温、冬季平均温度、年平均温度
(地蔵岳山頂1760mで1944年から1947年まで計測された気温に0.6℃を加算して蔵王山頂駅1661mの気温に補正した)
の画像
表1 蔵王山頂駅における1944年から1947年までの温量指数(暖かさ指数)、夏季平均気温、冬季平均温度、年平均温度
(地蔵岳山頂1760mで1944年から1947年まで計測された気温に0.6℃を加算して蔵王山頂駅1661mの気温に補正した)

 2015年から2025年までの蔵王山頂における夏季(7-8月)の平均気温の推移を図5に示した。蔵王山頂における夏季(7-8月)の平均気温は17-18℃の間にあり、東北地方の亜高山帯下限の基準となる夏季(7-8月)の平均気温16℃±1.1℃を超えている。

図5 蔵王山頂駅における2015年から2025年まで夏季(7-8月)の 平均気温の推移の画像
図5 蔵王山頂駅における2015年から2025年まで夏季(7-8月)の 平均気温の推移

 2015年から2025年までの蔵王山頂駅における温量指数(暖かさ指数)を図6に示した。蔵王山頂駅の温量指数(暖かさ指数)は基準値45℃・月付近から上昇する傾向にある。なお、蔵王山でオオシラビソが分布しているのはおおよそ1300−1700mであることから、蔵王山頂駅より標高の低い地点での温量指数(暖かさ指数)は55〜65程度と推定され、蔵王山頂駅以下では亜高山帯の気温条件を満たしていないことになる。
 蔵王山頂駅の夏季平均気温と温量指数(暖かさ指数)はいずれも亜高山帯の条件を満たしていない。しかし、亜高山帯であるためには気温だけでなく降雪量や風速など多様な気象的・地理的条件が必要である。気温について亜高山帯の条件を満たさなくなったとしても直ちに影響が出るわけではない。条件を満たさない状態が100年程度継続し、樹木の世代交代を迎えた段階で亜高山帯・針葉樹林帯から針広混交林を経て広葉樹林・山地帯へと移行していくと考えられる。

図6 蔵王山頂駅における2015年から2025年まで温量指数(暖かさ指数)の推移の画像
図6 蔵王山頂駅における2015年から2025年まで温量指数(暖かさ指数)の推移

蔵王山頂駅における冬季の気温変化

 山形市における1890年から2026年までの冬季(1-2月)の平均気温の推移を図7に示した。山形市の冬季(1-2月)の平均気温は上昇傾向にある。気温上昇が継続した場合、今世紀末の山形市の冬季の平均気温は3-4℃となると推定される。山形市と蔵王山頂駅の気温差は9℃であることから、今世紀末の頃の蔵王山頂駅の冬季の平均気温は-5℃程度となると予測される。
 一方、蔵王山頂駅における冬季(1-2月)の1985年から2015年まで40年にわたる気温変化を図8に示した。冬季の気温は上昇傾向にある。なお、蔵王山頂駅と山形市の冬季(1-2月)の気温変化には相関関係が認められる。このまま気温上昇が継続した場合、今世紀末には-5℃程度となると予測される。
 樹氷が成長するためには−10℃〜−15℃の気温と10-20mの風速が少なくとも1-2ヶ月間継続している必要がある。1940年代以前、蔵王山の吹雪の期間は10月から4月くらいまでであったが、現在は12月から2月くらいまでである。
 平均気温−5℃となった場合、1日の気温の変動(日較差)を10℃と仮定すると、蔵王山頂駅付近の気温は0℃から-10℃の範囲で変動することになり、風速は低下し吹雪の期間は短縮されると推定される。このため、今世紀末には樹氷が成長しにくくなり、樹氷が生成しても脱落しやすくなることが予測される。

図7 1890年から2026年までの山形市の冬季(1-2月)の平均気温の推移の画像
図7 1890年から2026年までの山形市の冬季(1-2月)の平均気温の推移

図8 蔵王山頂駅における1985年から2015年までの冬季(1-2月)の気温変化の画像
図8 蔵王山頂駅における1985年から2015年までの冬季(1-2月)の気温変化

まとめ

 樹氷の元になっているオオシラビソ(アオモリトドマツ)はモミ科に属する常緑の針葉樹であり、日本特有の樹種で多雪・荷重に強いという特徴がある。オオシラビソが氷で覆われたものが樹氷(アイスモンスター)であり、オオシラビソが雪で覆われてクリス マスツリー状態となったものは「樹雪」ということになる。
温暖化による気温上昇に伴って蔵王山が亜高山帯の条件を失うことで、樹氷の元になっている「オオシラビソ」は衰退していくと推定される。一方、樹氷(アイスモンスター)も衰退していくと推定され、樹氷から樹雪へと変化していくと考えられる。

表2 「オオシラビソ」および「樹氷(アイスモンスター)」に対する蔵王山頂駅周辺の気温の影響の画像
表2 「オオシラビソ」および「樹氷(アイスモンスター)」に対する蔵王山頂駅周辺の気温の影響

謝辞

 本研究を進めるにあたり蔵王ロープウェイおよび山形地方気象台の方々にはデータを提供いただくなどで大変お世話になりました。記してお礼申し上げます。

文献

青森営林局(1998)宮城蔵王における亜高山帯針葉樹の枯損実態緊急調査報告書
中央気象台(1951)山岳気象報告
森谷条治・佐藤朝飛・槇寛人(2023)蔵王の本 〜蔵王の教科書〜、令和5年度 東桜学館中学校総合的な学習
森谷条治・工藤世南・片山景瑚・歌丸碩力(2026)蔵王の樹氷はいつまで見られるのか、山形県立東桜学館高等学校・中学校未来創造プロジェクト成果発表会、2026年2月6日
中里優介・幸坂美里・渡邉鴻也・柳澤文孝(2019)蔵王の樹氷 (アイスモンスター) (4) 蔵王山頂における気温変化、日本雪氷学会山形大会
大森博雄・柳町治(1990) 東北地方山岳地域における主要樹種垂直分布の上限、地理学評論、63A、100-118
佐々木明彦(2015) 蔵王火山における気温の通年観測、国士舘大学地理学報告、23、17-23
渡邉鴻也(2018)1933年から2015年までの蔵王山における月平均気温変化、環境保全、21、41-46
吉良龍夫(1948)温量指数による垂直的気候のわかちかたについて、寒冷地農業、2、143-173

関連リンク

  • シェア
  • 送る

プレスリリース一覧へ